メルカリはビットコイン機能を3月9日から順次展開している。
撮影:小林優多郎
メルカリ完全子会社のメルコインが暗号資産(仮想通貨)の取り扱いを3月9日から開始した。
メルコインが仮想通貨を取り扱う意義。そして今後の展開について、メルコインCPO(Chief Product Officer)の中村奎太氏に話を聞いた。
狙いは「仮想通貨に触れていない」メルカリユーザー
メルコイン CPOの中村奎太氏。
撮影:小林優多郎
メルカリグループが2017年12月に研究開発(mercari R4D)組織を立ち上げたとき、当初から「ブロックチェーン技術に対して非常に注目していた」と中村氏は話す。
その背景にあったのは、「メルカリというサービス自体が、Web2.0のど真ん中にあるサービスで、ブロックチェーンによって大きく変わる可能性があった」(中村氏)からだそうだ。
メルカリはフリマアプリとされているが、ユーザー同士の取引を仲介する中間的なプラットフォームとして位置づけられ、こうした構造がブロックチェーンで大きく影響を受けるという認識だ。
その中で「メルカリ自身がなくてもなり立つ、Web3・ブロックチェーンの世界を考える必要がある」(同)という課題意識から検討を進めてきたという。
仮想通貨の所有割合が低いが、保有者自体は積極的に動いているとみられる。
撮影:小山安博
メルカリには「これまで扱ってきたものという概念を大きく超えて、無形物もデジタルも、スキルや時間も含めて流通していくようなプラットフォームに進化していきたい」という方針がある。
今回は仮想通貨のみの取り組みだが、「基礎技術としてブロックチェーンが重要な位置づけとなっている」と中村氏は語る。
とはいえ、日本は暗号資産の所有割合が世界に比べても低調でわずか4%程度。しかし、NFTマーケットプレイスの「OpenSea」の国別トラフィックが6.2%で2位に位置するなど、「ポテンシャルは高い」と中村氏は見ている。
そのため、まずはビットコインをかんたんにユーザーが購入できる環境を作り出し、気軽に仮想通貨を所有してもらってブロックチェーンの世界に参加してもらおう —— というのが現時点でのサービス像だ。
いつものメルカリアプリ内で、メルカリの売上金・残高・ポイントを使って購入できるので、生活への負担をかけずに仮想通貨を始められる。
撮影:小山安博
結果として機能は最小限で「ビットコインを購入して保有して売る」という基本機能にとどまっている。
メルカリの売上金で仮想通貨を買う
大きな特徴が「メルカリの売上金を使って購入できる」という点だ。銀行口座と連携して購入もできるが、基本的には売上金やメルカリのポイントで購入するというのがメインの使い方になるだろう。
中村氏は、仮想通貨を始めない理由として「損をしそう」「なんとなく恐い」「購入資金がない」といった声が多いとのアンケート結果を示し、売上金やポイントであれば生活への負担が少なく始めやすいという利点を挙げる。
不安感を解消して仮想通貨を保有しやすくするのが狙い。メルカリで連携している銀行口座を経由した購入もできるが、慣れるまではメルカリ内で完結した方がいいだろう。
撮影:小山安博
「まだ一般化されていないという実態があるので、まずは触れてもらってどういうものなのかを理解していただく必要がある」(中村氏)
これは、メルコインがプロ野球パ・リーグのNFTを販売したときも同じ考え方だった。
プロ野球のように長く人気のあるコミュニティーでNFTを活用すると、どのように利用者が価値を感じてもらえるか。まずは触れてもらうことを考えて、仮想通貨に関しても同様に「始めてもらうこと」を重視した。
メルカリの累計利用者は約4800万。月間の利用者は2000万ほどで、年間流通額は約1兆円に達している。暗号資産口座数が640万程度であり、この保有口座数を拡大することが目標。
撮影:小山安博
ビットコイン売買機能は「第一歩」
逆に、仮想通貨をこれまで頻繁に触れている上級者に向けたサービスに関しては「徐々に進んでいきたい」(中村氏)と慎重な回答。
利用者に合わせて入出庫やビットコイン以外の仮想通貨への対応、投資を学んでもらうために積立投資を提供するなど、徐々に利用者自身が知識を増やしていけるような仕組みにするという。
その上で、DeFi(分散型金融)、DApps(分散型アプリケーション)といったブロックチェーンにも接続していくようなサービスへと段階的に成長させていく考えだ。
メルカリのマイページから保有する仮想通貨を確認できる。
撮影:小山安博
仮想通貨としては、まずは代表的なビットコインからサポートするが、仮想通貨には投機的なイメージもある。現在は下落傾向にあるため、購入すると値下がりをして、仮想通貨やメルカリ自体のイメージが悪化する懸念もある。
中村氏は、長期的なロードマップとしてはそうしたイメージの解消は図っていきたい考え。
保有するビットコインの価格もわかりやすい表示。
撮影:小山安博
売上金からビットコインへ、活用の幅は広がるか
MMD研究所によると「最も保有経験があるのは男性30代、次いで男性20代」。
出典:MMD研究所「仮想通貨(暗号資産)に関する調査」(2022年4月26日公開)
そうした点では、メルカリのユーザーで若い女性や主婦層などが多いことは、仮想通貨業界のなかでは特徴的だ。
日本の仮想通貨の保有者は30〜40代男性が多いとされており、利用者層が異なっているからだ。
メルカリの売上金でビットコインが購入できるため、「メルカリの利用頻度は高いが仮想通貨には手を出せなかった」ような層を取り込める可能性はある。
UIの工夫として、購入したビットコインをメルカリアプリのマイページで常に表示するようにして、円換算の価格を表示して分かりやすくした。
価格の上下も数秒ごとに更新して表示するため、購入時から価値が上下していることがひと目で分かる。「これを見るだけで一喜一憂できる楽しみを提供する」と中村氏。
撮影:小林優多郎
メルカリの売上金やメルカードで貯まったポイントをビットコインに移行して、価値が上がったら残高に戻して買いたいものをメルカリで購入する。
またはメルペイなどを使って生活をより良くする買い物をする。そんな使い方につなげたいとする。
売上金だけではなく期限設定があるポイントも、仮想通貨を経由すれば「残高化」できるので、使いやすいのは確かだ。
が、売買に伴う手数料に相当するスプレッド(1%ずつ)が発生するため、マイナスにならないように利用者自身が調整する必要がある。
また、仮想通貨を売却した場合は一時所得となって税申告が必要になるので、その点も注意が必要だ。
現時点では、メルコインの仮想通貨機能は「売上金で購入できる」というだけでしかない。メルコインのNFT、メルペイの決済、仮想通貨の送金など、購入するだけではない、仮想通貨の活用が今後必要になってくるだろう。