ビットコイン現物ETFに追い風 米裁判所、SEC判断覆す
【ニューヨーク=大島有美子】米連邦控訴裁判所は29日、暗号資産(仮想通貨)投資大手のグレースケール・インベストメンツがビットコイン信託を上場投資信託(ETF)に転換しようとした申請を、米証券取引委員会(SEC)が却下したことについて、再考すべきだとの判決を出した。
グレースケールに有利な判決で、米国で認められていないビットコイン現物のETFの上場承認に向けては追い風となる。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、電子版)によるとSECの担当者は「次のステップを決めるため、判決を咀嚼(そしゃく)している」と述べた。
控訴裁判所のラオ判事は判決文で「SECによるグレースケールの申請却下は恣意的で気まぐれだ。他の類似商品との違いを説明できていない」とつづった。グレースケールの申請は2022年6月で、SECが却下したためグレースケールがSECを提訴し、係争中だった。
グレースケールのマイケル・ソネンシャイン最高経営責任者(CEO)は判決を受けて「米国の投資家やビットコインのエコシステムにとって、歴史的な節目だ」と述べた。
ビットコイン価格は28日に2万6000ドル近辺で推移していたが、29日は判決を受けて一時前日比約8%高となる2万8000ドル超となった。仮想通貨関連銘柄も急騰し、大手交換業コインベース・グローバルの株価は前日比15%高で終えた。
米国でビットコインのETFが初めて申請されたのは2013年だ。SECは価格操作の懸念を理由に却下した。21年10月には先物連動のETFが初めて上場したが、現物に関してSECは投資家保護の観点で一貫して厳しい姿勢を取る。21年11月には米運用会社ヴァンエックが申請した現物ETFを却下した。
ラオ判事はSECが先物ETFを承認していることを引き合いに、グレースケールの申請についても類似の申請として同様に検討しなければならないとの判断を示した。
ビットコインの現物ETFに関しては米資産運用最大手のブラックロックが6月に上場承認申請を出しており、SECの判断が注目されている。
SECのゲンスラー委員長は仮想通貨業界に厳しい姿勢で臨む。SECは6月に交換業大手のバイナンスやコインベースを提訴した。多くの仮想通貨を「有価証券」とみなしており、未登録の証券を販売したなどと主張している。
SECは米リップル社と同社が取り扱う仮想通貨「XRP」の扱いについて係争していたが、7月にリップル社に有利な判決が出た。裁判所は個人向けに販売されるXRPは「有価証券ではない」と判断した。SECの事実上の「敗訴」が続くなか、SECの方針が今後の焦点となる。