ビットコインと森林本位制(大機小機)
「森林」を正貨とする貨幣制度(森林本位制貨幣)と書くと、全くの与太話と思われるだろうか。だが、かのチャールズ・キンドルバーガーは、国際通貨基金(IMF)や世界銀行の制度について、次のような趣旨の文章を書いている。
いわく、国際機関によって世界的に通貨を管理する構想は、1930年代には、その理論的可能性は認められても、実際には何光年も先の夢物語と感じられていた。だが、第2次世界大戦という激動を経たとはいえ、ほんの20年でその構想が現実のものとなった。
夏休みの夢想も予想外の現実化がありうる、ということを期待して、ビットコインなどに代表される新しい貨幣の可能性を考えたい。人類が直面する長期的難題すなわち地球温暖化問題を、新しい貨幣制度で解決できるのではないか、という可能性である。
金本位制の時代、人々は労力を費やし、金を探査し、採掘した。それは金が審美的価値を持つことが理由でもあるが、もし仮に金が美しくない無価値な金属であっても、「金は貨幣として、財・サービスと交換可能である」という金本位制の下では、やはり人々は金を採掘したであろう。
ビットコインも、その信頼性を保つためにはマイニング(採掘)と呼ばれる作業が必要となる。ビットコインのマイニングはそれ自体としては無価値な数値計算だが、成功すればビットコインを入手できる。ビットコインが貨幣として高い価値を持つなら、人々はそれを手に入れようと無意味なマイニング作業を自発的に行う。
一般化すると、ある「モノ」が貨幣としての価値を持てば、人々はそのモノを採掘または生産しようとする。その対象を、二酸化炭素を吸収する森林にする、というのが森林本位制のアイデアである。金本位制と同じように、森林を正貨として中央銀行が管理し、森林持ち分証券を貨幣として流通させる。
そのような世界では、人々は競って植林を行い、森林を増やそうとする。貨幣を得ようとする人々の利己的な利潤最大化行動が、地球環境を改善させる。こうした筋道は、経済学的にはほぼ自明と思われる。コロンブスの卵のようなものだ。人類を救う新しい貨幣システムを構想できないものだろうか。(風都)