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ビットコイン過熱で火災も 暴騰の背後に中国の巨大マイナー【フィンテック最前線】

木村正人在英国際ジャーナリスト
暴騰するビットコインのイメージ(写真:ロイター/アフロ)

4500ドルに「夢の技術」

 [上海、ロンドン発]17世紀のチューリップ・バブル、18世紀の南海泡沫事件、1980年代の日本の金融バブル、90年代のインターネット・バブルを彷彿させる仮想通貨ビットコインの暴騰が続いています。

ロンドンの下町ハックニーに設置されたビットコインのATM(筆者撮影)
ロンドンの下町ハックニーに設置されたビットコインのATM(筆者撮影)

 筆者がロンドンの下町ハックニーでビットコインの自動預払機(ATM)を取材した5月9日、1BTC(ビットコインの単位)は1707ドルでした。ATMを操作しているうちにみるみるビットコインの価格が上がるので、あわてて買ったのを覚えています。

 その後、ビットコインの取引をいかに速く行うかをめぐりコミュニティーの利害が対立し、8月1日、ビットコインとビットコインキャッシュに分裂してしまいましたが、それでもビットコインの暴騰は止まりません。

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 仮想通貨の情報サイト「coindesk」によると、8月16日には4425ドルと史上最高値を記録して4500ドルに近づきました。

 筆者もATMでほんの少しだけビットコインを購入しました。それから3カ月半で約2.6倍も値上がりしてビックリ。「どーんと買っておけば取材費のたしになったのに」とちょっぴり後悔しています。

 ビットコインそのものには価値はなく、チューリップの球根にとんでもない値段がついたチューリップ・バブルと全く同じ「根拠なき熱狂」です。バブルは歴史が物語るようにいつかは弾けます。

 しかし今回のビットコイン狂騒曲は、情報通信技術(ICT)革命を加速させたインターネット・バブルと似ていて、ビットコインに使われているブロックチェーン技術を推し進める効果があるので、完全に否定するわけには行きません。

 ブロックチェーン技術は、中央政府や中央銀行のほか、大企業など中央集権的な管理者がいなくても、コミュニティーの参加者によって自主的に運営されるのが大きなポイントです。

 P2P(ピァ・トゥ・ピァ)、すなわち参加同士が第三者を介さずに直接取引できるようになる「夢の技術」として注目されています。

操縦されるビットコイン相場

 今、世界は、とても政治指導者に相応しいとは思えないアメリカのドナルド・トランプ大統領の登場、経済統合に逆行するイギリスの欧州連合(EU)離脱、国家資本主義の中国やロシアと欧米の対立、北朝鮮の核・ミサイル開発、核戦争も辞さずと激しく応酬した金正恩VSトランプの舌戦で揺れに揺れています。

 投資家は国家と国家の対立を恐れて、金を買い求めるように仮想空間のビットコインを買っている側面もあります。しかし、ビットコイン相場は操縦されているような印象がしてなりません。

 ビットコインをはじめとするブロックチェーン技術を用いた仮想通貨のコミュニティーはコアのコントリビューター(プログラムを開発する人たち)やメインテナー (維持管理する人たち)のほか、マイナー(端末で複雑な計算をして暗号通貨を採掘する人たち)で構成されています。

 普及しているビットコインの場合、そこに交換所や取次店、ATM業者、使えるお店やネット市場が広がり、独自のエコシステム(生態系)を形成しています。

 そうした生態系の中で、取引の透明性と信頼性を保つために「マイニング(採掘)」と呼ばれる幾何級数的な計算を自発的に行っているのがマイナーです。

 計算の報酬としてビットコインが与えられるので、価格がつり上がればあがるほどマイナーには「採掘」する大きなインセンティブが働くのです。

中国のマイニングパワー

 7月中旬、ロンドンで開かれたフィンテック・イベント「フィンテック・ウィーク・ロンドン2017」で、ブロックチェーン開発会社block.one(EOS)の中国人パートナー、マイケル・カオは筆者にこう語りました。

block.one(EOS)のマイケル・カオ(筆者撮影)
block.one(EOS)のマイケル・カオ(筆者撮影)

 EOSは仮想通貨イーサリアムの発行によるクラウドファンディング(ICO)で1億5000万ドル以上を集め、注目されています。

 「世界中のマイニングの60%は中国で行われています。多くの投資家がマイニング用のマシーンを購入して中国に設置してビットコインを手に入れて利益を出しています」

 「最初はCPU(中央処理装置)から始まり、CPUより並列演算性能に優れたGPU(リアルタイム画像処理に特化した演算装置)に移行し、ASIC(特定用途向け集積回路)と呼ばれる特別なチップが使われるようになりました」

仮想通貨マイニング工場のイメージ(Genesis MiningのHPより)
仮想通貨マイニング工場のイメージ(Genesis MiningのHPより)

 「マイナー同士ですごい競争が繰り広げられています。タイではフル回転で計算していたマシーンが過熱してマイニング工場が全焼する火事も発生しています。必ず利益が出ると保証されているわけではないので、一種のギャンブルとも言えます」

 「なぜ中国がエピセンター(震央)になっているかと言えば、深センなどで最先端のプリント基板などコンピューター部品をたくさん作っているからです」

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 情報サイトblockchain.infoから最新のデータを拾ってみると、赤枠で囲んだ主要な中国マイナーは世界中で行われているマイニングの72.2%を占めていました。

 中国のマイニング・パワーなしにはブロックチェーン技術は維持できないのが現状です。中国は今やビットコインの60%を採掘し、そのほとんどを輸出しているのです。

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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