2017年7月から8月にかけて、ビットコインの分裂騒動が世間を騒がせた。ブロックチェーンの本家本元を襲った容易ならざる出来事だけに、技術の応用を検討する関係者にとって見過ごせない事案である。利害の異なる勢力は、どのような意図から、どのような手段を繰り出したのか。一連の出来事が残した教訓は何か。いまだに残る対立関係は、さらなる騒動を引き起こすのか。仮想通貨の技術動向に詳しいITジャーナリストの星暁雄氏が、わかりにくい事態の経緯を解きほぐし、事件の根底にある本質に迫る。(日経テクノロジーオンライン編集部)

 ビットコインの歴史にとって、2017年8月24日は大きな節目となった。数年間にわたる開発者コミュニティの努力の結果である新たな技術仕様「SegWit」がビットコインに取り入れられたのである。SegWitをめぐり思惑が違う複数のグループがそれぞれ動いたことから、2017年に入ってから「分裂」という言葉を使って報道される出来事が3回発生したが、結果としてビットコインは無事にSegWitの有効化に成功して機能し続けている。

SegWit=仕様の正式名称は「BIP141 Segregated Witness」。トランザクション展性と呼ぶ脆弱性を解消するとともに、電子署名を取引データから切り離すことでブロックに格納できる取引数を増やす仕様。

 最初に、一連の出来事に対して筆者の視点からの結論を記しておきたい。ビットコインを一言で要約すると「どの第三者も信用せずに価値を記録、移転できる純粋なP2P(Pure Peer-to-Peer)プロトコル」の実験といえる。今回のビットコインのプロトコルのバージョンアップをめぐり、いくつかの騒動が起きた。しかしビットコインは停止することなく動き続け、プロトコルのバージョンアップは実現してSegWit仕様が有効になった。現時点の材料で考える限り、ビットコインの実験は今のところ失敗していないし、今後もこれまでと同様に続くように思われる。これが最も重要な結論である。

 ビットコインは「Pure P2P」により実現した最初で最大の仮想通貨であり、パブリックブロックチェーンである。ビットコインは2009年1月の稼働開始から数えて2017年8月時点で8年半にわたりほぼ無停止で動き続けている。そのプロトコルが保持する価値は8兆円近くに及び(記事執筆時点でのビットコイン時価総額)、いまだにハッキングされていない。これらの事実だけでも、ビットコインは重要で興味深い存在であることが分かる。ビットコインの分野で起きたことは、今後の仮想通貨やブロックチェーン技術を考えるための貴重な教材といえる。今回の一連の騒動では何が起きたのかを見ていこう。

ブロックチェーン=全ての取引を記録した台帳を、参加者全てが共有・検証可能にすることで、中央集権的な管理者がいなくても通貨の発行や流通などを実現できる技術。分散型台帳技術と呼ばれることもある。取引データを記録するブロックがチェーン状につながっているためブロックチェーンと呼ぶ。パブリックブロックチェーンは、誰でも参加できるブロックチェーン。