GMOのビットコイン採掘 独自半導体で
仮想通貨ビットコインの世界では、インターネット上の通貨のやり取りの土台となるブロックチェーンに記帳する計算作業を担うと、コインを得られる。マイニング(採掘)と呼ぶこの作業は、膨大なコンピューター資源が必要だ。GMOインターネットは9月、マイナー(採掘者)になると宣言、まず100億円を投じるという。
世界のビットコイン取引は、100~1000件がひとつのデジタルデータの固まりとしてネットワークに記帳されている。データの固まりは10分に1回つくられ、そのたびに記帳が必要だ。
マイニングとは、簡単に言えば記帳を担う作業。1回の記帳で、12.5BTC(BTCはビットコインの単位)がマイナーに与えられる。現在の相場で800万円近くとなり、金額は大きい。
ただ、マイニングは競争だ。データの記帳を世界で最も速く終えた1人だけが、コインを得られる。記帳はとても複雑な計算を伴うため、コンピューターを使う激しい競争になっている。
熊谷正寿社長は、マイニングは事業としてシンプルだと説明しながら「記帳の計算に特化した半導体を使い、競争に勝つ」と話した。
コンピューターの電気代を抑えるために、再生可能エネルギーを安く使える北欧のある国に、マイニング専用施設を建設している。電気代の高い日本ではできない事業という。建物とコンピューターへの投資は100億円で、早ければ2018年4月に稼働する。
半導体は海外企業と開発した。回路の線幅は7ナノ(ナノは10億分の1)メートル。現在使われている最先端品は10ナノで、7ナノの製品は18年からの量産が見込まれている。
熊谷社長によると、この半導体メーカーとは長期の取引になる。線幅がいまの半分の3.5ナノになると見込まれている5年後頃までは、常に最新の技術をマイニング用半導体に応用して製造してもらい、競争に挑む。
日本の企業でマイニングを事業として始める事例は同社が初めて。ただ、世界を見渡せば、民間企業のBTCチャイナなど中国の複数グループが強大なコンピューター資源を使い、中国勢だけで採掘能力の半分を持つと言われている市場で、勝算はあるのだろうか。
世界でビットコインを採掘しているコンピューター能力を合わせると、最近では1秒間に約800京回の計算能力になることがわかっている。GMOインターネットは50京回計算できる設備にする計画で、能力からみれば6%近くを占める。
このため、記帳の計算を一番速く終えられる力が少しはあると考えている。ビットコインは年間66万BTC生みだされる仕組みになっており、同社は6%にあたる金額を稼いでもおかしくないというわけだ。今の相場で約250億円になる。
少なくとも新開発の半導体そのものは中国勢よりも計算能力が高いとみている。
こうした皮算用だけが、マイニング事業を始める理由ではない。
同社はインターネットが今のように普及する前から事業を始めて成長してきた。「ビットコインの盛りあがりは、すぐ当たり前の存在になったネットのぼっ興期をみているようだ」と語る熊谷社長。新たな潮流に乗り遅れまいとしている。
資金を投じる背景には事業が順調なこともある。17年12月期の連結売上高見通しは7.4%増の1450億円、営業利益は11.7%増の190億円。同利益は7年前の3倍となる。ドメイン管理、サーバー貸し出し、ショッピングカートの仕組み提供などを含むインフラ事業が好調だ。
FX口座が70万件近くあるネット証券など金融分野を強化しており、会社全体の売上高の2割を占める。18年春にはネット銀行を開く。ビットコインを巡っては円と交換する取引所を運営している。
熊谷社長はこうしたビジネスとの融合を念頭に置いている。金融サービスの利用者に、マイニングに少額出資するサービスを提供したいという。北欧のマイニング施設を増強していく際、その資金を個人らから集め、記帳の成功による獲得コインを配分するサービスだ。熊谷社長は「事業性は十分ある」と語っている。
(企業報道部 小河愛実)
[日経産業新聞2017年10月18日付]