リスクオンの流れが金投資には逆風となり、世界同時株高となる中で、金価格が伸び悩んでいます。その一方で、金投資とフィンテックを融合させ、金融サービスの新機軸を狙う動きも見られています。今回は、こうした状況を踏まえて、金を取り巻く最新の投資環境を整理してみました。

金ETFへの投資が急減、リスクオンの流れが逆風に

ワールド・ゴールド・カウンシルが7日に発表したリポートによると、7-9月期の世界の金需要は前年同期比9%減の915トンと8年ぶりの低水準になりました。前期比では2四半期連続で低下しており、世界的な株高が金投資にはむしろ逆風となり、投資需要が落ち込んでいます。

7-9月期の金ETFへの投資も18.9トンと、前年同期の114.3トンから大きく減少しました。世界的な株高でリスクオンの流れとなったことから、リスクヘッジ手段としての金の魅力が低下している模様です。

ただし、金ETFでの運用資産残高は昨年10月以来の高さとなっており、金ETFから資金が流出しているわけではありませんので、積極的な買いが見送られているという解釈もできそうです。

金ETFへの投資需要は低迷していますが、金価格はおおむね堅調です。北朝鮮問題で地政学的リスクが高まったことから、9月には1300ドルの節目を大きく越え、一時1350ドル近辺まで上昇しています。11月10日現在のロンドン金現物価格は1280ドル台で推移しており、年初来の騰落率は+12.1%となっています。

ハウステンボスの「テンボスコイン」とは

そのような中、ハウステンボスは6日、世界初の「金本位制に基づく仮想通貨」計画を発表しました。同社の従業員を対象に、独自の仮想通貨「テンボスコイン」を使った決済システムを12月中旬より開始する予定です。

ハウステンボスは、「テンボスコイン」の裏づけとして既に1トンの金(約50億円に相当)を購入しており、所有する金の一部を12月16日より施設内の「黄金の館」で公開します。

「テンボスコイン」は、スマートフォンでの無料アプリを利用したデジタル通貨プラットフォームで運用されるデジタル通貨です。ハウステンボス内の指定の場所でチャージすることで、現金を使わずに場内で食事や買い物ができます。

将来的には、「テンボスコイン」を円やドル、ビットコイン等と両替可能な「仮想通貨」とし、世界初の「金本位制に基づく仮想通貨」として運用する計画です。

金とフィンテックとの融合で新たなサービスに狙い

ハウステンボス以外にも、フィンテックとの融合により金融サービスの新機軸を目指す動きがあります。

英国王立造幣局(ロイヤルミント)がシカゴ先物取引所(CME)グループと協力し、ブロックチェーンを利用した取引メカニズムと金地金の特質を組み合わせた金投資商品「ロイヤルミント・ゴールド(RMG)」の流通を年内にもスタートする予定です。RMGとは、かみ砕いていうと、金の裏づけを持ったビットコインのことです。

また、英国のベンチャー企業「グリント」は既に金を利用したデビットカードビジネスを始めています。利用者は同社から金を購入し、食事や買い物などでカードを使用すると、利用額に相当する金を「グリント」が売却してくれます。銀行に口座がなくても決済ができる点は仮想通貨と同じです。

東京商品取引所は10月6日、グリントに25万ポンド出資することを発表しました。グリントカードが普及することで、金市場も活性化する相乗効果が期待できると判断しています。

このように、金とフィンテックを融合することで、新たなサービスを開始する動きが世界中で広がっているようです。

ロシアでは政府公認の仮想通貨「クリプトルーブル」発行へ

JPモルガン・チェースのジェイミー・デイモン最高経営責任者(CEO)が「ビットコインは詐欺、いずれ破たんする」と述べているほか、著名投資家のウォーレン・バフェット氏も「ビットコインは価値ある通貨でない」と発言するなど、仮想通貨に対しては厳しい見方も少なくありません。

その一方で、ゴールドマン・サックスが最近、仮想通貨の取引を支援するビジネスを検討し始めたほか、シティグループは既に「シティコイン」と呼ばれるデジタル通貨を開発し、外国為替取引などのクロスボーダー取引に利用する予定です。また、シティグループのマイケル・コルバットCEOは、「仮想通貨に対抗して各国政府は自国のデジタル通貨を発行するだろう」と予想しています。

こうした中で、ロシアでは、世界初となる政府公認の仮想通貨「クリプトルーブル(CryptoRuble)」の発行が発表されました。9月に仮想通貨の取引所における取引停止を発表した中国でも、国家主導の仮想通貨発行のうわさは後を絶ちません。

仮想通貨の普及は金にも追い風か

10月末には、CMEグループが年末までにビットコイン先物を上場する計画を発表したことで、年初から6倍以上となっていたビットコインの価値がさらに膨れ上がりました。

ただし、ビットコインの時価総額は1000億ドル程度に過ぎず、アップル社の約9000億ドルをはるかに下回ります。時価総額が約60兆ドルの株式市場と比べると、文字通りに桁違いに小さな市場であることから、先物市場への上場により機関投資家が本格的に参戦した場合には、“池の中のクジラ”となる恐れもありますので注意が必要かもしれません。

仮想通貨に裏づけが必要なのかどうかは議論の分かれるところですが、無国籍通貨としての金の人気には根強いものがあります。価格の高騰が続くビットコインが“デジタル・ゴールド”と呼ばれていることからもうかがえるように、“ゴールド”が持つ信用は他に変えがたいものです。

とはいえ、金ETFへの需要低下は仮想通貨への資金流入の裏返しとの見方もあります。これまで金が果たしてきた安全資産としての役割を、仮想通貨が担っているのではないかと考えられています。

しかし、金が仮想通貨の持つ利便性を取り入れることもできるわけで、「テンボスコイン」や「RMG」はその試みといえるでしょう。そこには、仮想通貨が普及すればするほど、金の追い風になる可能性が秘められているのかもしれません。

LIMO編集部