仮想通貨に対する法整備で世界に先行した日本。その仮想通貨行政の舵取り役となるのが、今年8月に金融庁が発足させた仮想通貨モニタリングチームだ。初代仮想モニタリング長に就いた多賀淳一氏に、仮想通貨やICO(イニシャル・コイン・オファリング)に沸き立つ業界に対して、当局としてどう対峙していくのかを聞いた。

(聞き手は広岡 延隆)

仮想通貨モニタリングチームの役割は何でしょうか。

 改正資金決済法が2017年4月に施行されたことを受けて、8月7日に立ち上がった組織です。法改正で仮想通貨交換業者には登録制が導入されました。安全かつ安定的なシステム運営や、顧客からの預かり資産の分別管理、リスク説明などの利用者保護、マネーロンダリングやテロ対策といったことに対して適切に対応できる体制が求められています。

 一方で仮想通貨市場では価格が乱高下していますし、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)のようにブロックチェーン技術を活用した資金調達など、様々な動きがあります。仮想通貨交換業者には伝統的な金融関連事業者が新たに乗り出してきたケースもあれば、ベンチャー企業もいます。当チームは、様々な事業者の規模や特性に応じて登録申請の審査を行うとともに、継続的にモニタリングしていく役割を担っています。

 国際的な金融犯罪対策、金融商品取引監視などの即戦力を含めた、約30人の陣容となっています。システムリスク管理、会計、法律、金融犯罪対応、金融実務、金融商品の監視などに長けた専門官を集めました。全国の財務局から相応の人員をいただきつつ、スムーズに連携していく体制を整えました。また、元日銀フィンテックセンター長の岩下金融庁参与からの助言ももらっています。

金融庁の多賀淳一・仮想通貨モニタリング長
金融庁の多賀淳一・仮想通貨モニタリング長

イノベーションと利用者保護のバランス

金融庁は、どのようなスタンスで仮想通貨と事業者に臨むのでしょうか。

 まず、改正資金決済法の目的を説明します。資金決済サービスの適切な実施を確保し、その利用者を保護すること。同時にサービスの促進を図るために登録などの措置を講じ、資金決済システムの安全性、効率性および利便性の向上に資すること。これがまさに当チームの業務の目的です。

 仮想通貨ではブロックチェーンといった革新的な技術が使われます。世界には1000種類を超える仮想通貨があるとされますが、その中から仮想通貨交換業者がある特定のコインを取り扱う時に、意図的に不正な送金を行うようなプログラムが仕組まれていないことをチェックするプロセスがしっかり確立されているかといったこともみています。登録のプロセスの中で金融庁のシステムリスク管理の専門家と対話することで、事業者に気づきを得てもらいたいと思います。もちろん、その後も目まぐるしく環境は変わっていきますから、継続的なモニタリングが必要になるということですね。

 イノベーションの促進と、利用者保護のバランスに気を配りながら、仮想通貨交換業者の適切な業務運営を促し、健全な仮想通貨市場を育成できるようにしていきたいと考えています。

不健全なものを排除することが重要

仮想通貨やICOを巡るトラブルが日本でも報告されています。

 金融庁ではこれまで何回か、仮想通貨やICOを巡るトラブルについて、利用者と事業者に対する注意喚起を行っています。利用者には、仮想通貨は価格下落や詐欺の可能性があること、ICOはプロジェクトの内容をしっかり理解した上で、自己責任で取引する必要があることを謳いました。事業者にはICOの仕組みによっては資金決済法や金融商品取引法などの規制対象となると指摘しました。関係法令に定めた登録なしに事業を行えば、当然に刑事罰の対象となります。

 あわせて、消費者庁や警察庁とも連携して、詐欺的なコインなどについての相談窓口もウェブサイトに掲載しました。他の省庁と協力しながら、不健全なものが排除され仮想通貨市場が健全に発展するよう、役割を果たしていきたいですね。

どのようになれば、特定のICO案件を調査するということになりますか。

 海外まで含めるとすべてのICO案件を調査することは不可能ですが、完全な「待ち」の姿勢ではありません。例えば、特定のICOに苦情が集っていれば、できるだけ広くアンテナを張って、自ら調べていくという形になると思います。

海外ではICO自体が禁止という国もありますが、日本は今後どうするべきでしょうか。

 禁止をした国はそれぞれの事情や背景などがあるでしょうから、そこを理解しなければ日本と単純に比較することは意味がないと思います。繰り返しになりますが、ICOについてもイノベーションの促進と利用者保護のバランスに意を配りながら、仮想通貨交換業者の適切な業務運営を促し、健全な仮想通貨市場を育成できるようにしていく必要があると考えています。

 各事業者がベストプラクティスを積み重ね、業界として自律的に自主規制ルールを策定するなど、各々の立場でどうやったら健全な市場が育成されるのかを考え、行動するのが非常に大事ですね。まだ、認定団体は統一されたものとなっていませんが、勉強会が開催されるなど、前向きな方向に進んでいると思っています。不健全なものをきちんと排除していくことが大事です。

9月末に11社が登録されましたが、一部事業者は審査が遅れているようですね。

 改正資金決済法では今年9月末までに登録を行う必要があると定めています。ただし、法施行時(4月1日)に業を行っていた者がそれ(9月末)までに申請をしていれば、審査の結論が出るまでの間は「みなし業者」として業務を継続することができるとしています。「みなし業者」については現時点で、19社の審査を進めているところです。

 登録審査においては、公表されているチェックリストに基づく形式審査だけではなく、実質面も重視した審査を追加的に実施しています。例えば、システム管理体制、マネロン・テロ資金供与対策、分別管理態勢、詐欺的コインの排除など、利用者保護に向けた内部管理体制などの有効性を検証し、登録後の継続的なモニタリングに繋げています。

取り扱う仮想通貨の種類によって、登録が認められていないということもありますか。中にはビットコインやイーサリアムなどに比べても、非常に匿名性が高く取り扱いが難しいのではと思われる仮想通貨もありますね。

 金融庁としては、あくまでも仮想通貨交換業者の、業務の遂行体制や財産的基礎などの登録要件をクリアしているかどうかを審査している、というスタンスです。金融庁・財務局が仮想通貨としての価値を保証したり、推奨したりするものではありません。

 したがって、金融庁のウェブサイトに掲載されている仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨は、仮想通貨交換業者の説明に基づいて資金決済法上の定義に該当することを確認しているに過ぎません。また、仮想通貨は、必ずしも裏付けとなる資産を持つものではないことにも留意が必要です。

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