ビットコインバブル、金融庁が「仮想通貨の価格動向」を注視する理由 —— 水口審議官インタビュー

仮想通貨の取引所などを「仮想通貨交換業者」として、金融庁に登録する制度が2017年4月から始まり、これまでに15社が登録された。世界的にもいち早く、法律で仮想通貨の定義を規定したものだ。

仮想通貨を巡っては、ビットコインの高騰が続き、仮想通貨を用いる資金調達手法ICO(Initial Coin Offering)を実施した企業が短期間で100億円以上の資金調達に成功するなど、これまでの金融の常識を覆すような出来事が次々に起きている。

こうした状況を、仮想通貨の規制当局である金融庁は、どう見ているのだろうか。同庁監督局の水口純審議官が、Business Insider Japan(BI)の取材に答えた。

金融庁入口

撮影:小田垣吉則

金融庁は通貨として認めたわけではない

BI:世界的にもいち早く仮想通貨の交換業者の登録制度を導入しました。背景や狙いは。

水口純審議官(以下、水口):まず資金決済法の改正の経緯・趣旨から説明したい。2015年6月に開かれたG7エルマウ・サミット(ドイツ)等を踏まえ、同年6月のFATF(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会=Financial Action Task Force on Money Laundering)という国際機関において、仮想通貨と法定通貨との交換について登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認や疑わしい取引の届出・記録保存義務等のマネーロンダリング防止とテロ資金供与に関する規制を課すべきとの国際的な要請が出てきた。

日本でもこうした流れを受けて、仮想通貨業者をどう規制するかに関する議論が始まった。その結果、2017年4月に改正資金決済法が施行され、まず9月末に仮想通貨交換業者11社の登録を行った。改正資金決済法では、仮想通貨には事実上支払決済手段としての機能があること等も踏まえ、次のような要件を満たす財産的価値として仮想通貨を定義した。

  • 代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、不特定の者を相手方として相互に交換を行うことができる
  • 電子情報処理組織を用いて記録・移転することができる
  • 法定通貨または法定通貨建ての資産でない

しかし、金融庁が仮想通貨を通貨として認めたというのは誤った理解であり、円やドルのような法定通貨と認めたわけではない。資金決済法上の仮想通貨とは何かについて一定の定義を置いたが、仮想通貨交換業者が取り扱う仮想通貨は、業者の説明に基づき、法律上の定義に該当することが確認されたものにすぎない。また、金融庁が仮想通貨の価値を保証したり、推奨したりするものではないと、繰り返し注意喚起をしている。

水口審議官

金融庁監督局の水口純審議官。「金融庁が仮想通貨の価値を保証、推奨しているわけではない」と強調した。

撮影:小田垣吉則

利用者保護と金融イノベーションの促進との二つの要請のバランスを取る形で、仮想通貨交換業について登録制という制度を導入した。交換業自体に登録制を導入している国は、世界でもあまり例がないと理解しているが、健全な仮想通貨交換業の発展や金融イノベーションの促進と、利用者・投資者保護を両立させるよう、引き続き努力していく。

BI:マネーロンダリング防止とテロ資金対策は、日本単独では難しいと言われています。

水口:仮想通貨交換業者には犯罪収益移転防止法上の取引時確認等、金融機関と同等の義務が課せられている。また、仮想通貨交換業者の登録審査においても、本人確認を含む取引時確認などのマネロンやテロ資金供与対策のための取組み状況について重点的な審査を行ってきた。

もちろん、日本だけでは対応しきれない部分はあり、FATFが2015年6月にマネーロンダリング防止とテロ資金対策のガイダンスを出しており、国際的に協力して対応していく必要がある。

資金洗浄やテロ資金を防止する仕組み

BI:金融庁は仮想通貨モニタリングチームを8月に立ち上げました。どんな業務を担うのでしょうか。

水口:仮想通貨交換業者の登録の審査では、大きく4つのポイントがある。

  1. サイバー対策を含めシステムの安全性が確保されているか
  2. マネーロンダリング防止とテロ資金対策を踏まえた顧客の本人確認の態勢が整備されているか
  3. 顧客の資産と交換業者の資産を分別して管理する分別管理がなされているか
  4. 仮想通貨に関するリスクを利用者に適切に説明する態勢が整備されているか

これらのポイントを踏まえた審査とモニタリングのため、システムの専門家、マネーロンダリング防止・テロ資金対策の専門家、弁護士、会計士など多様な専門性を持つチームを本年8月に金融庁内に立ち上げた。

法令上は各財務局が登録審査することになっているが、仮想通貨交換業の登録審査は全く新しい業務であり、全国統一的な扱いを図るためにも財務局任せでは無理がある。専門家集団と財務局を一体化して、迅速で深度のある審査をできるようにした。兼任者も含めて30人程度の体制を構築している。

BI:仮想通貨の売買を巡って、株式市場であれば、相場操縦やインサイダーに問われかねない行為が横行しているという指摘があります。

水口:改正資金決済法上は仮想通貨交換業者の監督という側面に着目して制度化されているが、現状において仮想通貨の相場操縦やインサイダーといった不公正取引防止のための直接的な規制は含まれていない。しかし、そのままでよいのかと言えば、そうは思っていない

利用者保護や不公正な取引を防止する観点で、交換業者や関係団体等の業界の中で、自主的なルールを定めようという動きがあるし、またさらに、自主規制機関の立上げに向けて関係者間で議論が行われている。この点について、まずは業界の自主的な取組みで利用者の保護を図っていく必要があると考えられる。

他方で、金融庁としても、例えば、各業者が運営する取引市場において不自然な動き等があった場合には、利用者保護の観点から、検査・監督権限に基づき、当該業者の取引状況を確認するなど実態把握に努め、必要な対応を行うこととなる。例えば、米国市場では仮想通貨の先物を上場するなど新しい動きもあり、今後のさまざまな仮想通貨市場の動向や業者の動きを注視しながら、業者側に不適切な動きがないかどうか等、適切にモニタリングを行っていきたい。

bitcoin

ビットコインの価格の高騰が続いている。

Reuters/Kim Hong-Ji

BI:ビットコイン価格の高騰が続いています。

水口:仮想通貨は、円やドルのように国がその価値を保証している法定通貨ではなく、また、必ずしも裏付けとなる資産を持つものではない。ビットコインの価格は、年初と比べ、12月8日には20倍程度の水準まで値上がりした。高騰の事実については、その要因を含めて動向を注視しているが、価格そのものは需給で上下するものなので、我々が制御できるものではない。

ただ、ボラティリティ(価格の変動)が高いので、例えば価格の急落で利用者に損失が出る可能性もあり、交換業者には、価格の変動リスク等について利用者に対して十分注意喚起をしてもらう必要があるし、交換業者自身でビットコインを保有している業者もあるため、そのリスク管理の点も注視している。

詐欺的ICOが起こる可能性はある

BI:10月27日には、ICOについて注意喚起の文書を出しました。狙いは。

水口:ある民間の調査結果によれば、欧米では、ホワイトペーパー(事業計画書)において一定のプロジェクトやサービスを実施ないし提供すると発表したものの、実際には実施・提供されないケースも多く、また、資金調達したまま行方不明になるというケースもあるようだ。国内では、今のところICOの件数自体はそれほど多くないものの、今後増えていく可能性はある。

例えばアメリカでは詐欺事件が既に発生しているようだが、日本においても、ICOに関して詐欺的な事案が発生する可能性は当然ありうる。こうした状況を踏まえて、10月末にICOに関する注意喚起の文書を発出した。価格下落の可能性や詐欺の可能性について注意喚起するとともに、プロジェクトの内容をしっかり理解した上で自己責任で取引を行ってくださいといった内容を含んでいる。

また、ICOを実施する事業者についても、例えば、法定通貨で払い込み、運用を行い、法定通貨で配当するようなスキームを業として行えば金融商品取引法上の規制対象となるが、仮想通貨での支払いや配当を行う場合でも実質的に法定通貨での購入と同視できるスキームについては、規制対象になると考えられる。また、ICOにおいて発行される一定のトークンは資金決済法上の仮想通貨に該当し、その交換等を業として行えば、交換業の登録が必要になる。上記の意味で、事業者の動きも注視していく必要がある。

ICOに関しては、主な海外当局も日本と同様な問題意識の下に注意喚起文書を出しているが、日本においても引き続きICOの実態を十分に把握していきたい。

より広くフィンテックを促進することが重要

仮想通貨

撮影:今村拓馬

BI:ビットコインは、円建ての取引が過半数を占める状況が続いています。

水口:その原因については確たることは言えないが、例えば、日本が交換業に関する法律を整備したことや、また、これまでは中国における取引が多かったが、2017年9月に中国政府が仮想通貨に関する規制を実施した影響もあって、最近日本円での取引が増えているのではないかと思われる。

仮想通貨の購入等に関する判断は個々の利用者の判断であるが、利用者の増加に伴い、そのリスクを必ずしもよく理解しないまま購入・取引してしまう利用者もいるかもしれず、交換業者が利用者に対しこれまで以上に十分な説明を行うといった対応がますます重要になると思われる。

BI:仮想通貨の分岐が相次ぎ、新しい仮想通貨(オルトコイン)も次々に出てきています。運営などに問題のある新興の仮想通貨もあると言われています。

水口:金融庁が仮想通貨の分岐そのものを止めることはできない。しかし、もし交換業者が新たな仮想通貨の取扱いを開始するのであれば届出が必要になるが、例えば新しい仮想通貨の取引システムに脆弱性があり、ハッキングのおそれがあるということであれば、まず交換業者において、システムの安全性等について十分に検証した上で取扱うかどうかを検討することが重要となるだろう。

BI:政府の政策に戦略的に仮想通貨を位置付けてはどうかという意見があります。

水口:フィンテックの進展は消費生活の高度化や、資産形成の充実などさまざまな面で家計に変化をもたらし、また企業の決済・財務処理をシームレスに処理するなど、企業活動の効率化や生産性向上にもつながる。

仮想通貨そのものというより、むしろ、それを支えるブロックチェーン技術、より広くIT技術の進展によるフィンテックを日本としてどう促進していくかが重要であると思う。金融庁としても、フィンテック・サポートデスクを設置する等、フィンテックをさらに促進していこうと考えている。

ブロックチェーンを含め、広い意味でのフィンテック、金融イノベーションを通じて、利用者保護にも十分配慮しつつ、今後利用者の利便性の向上や企業の成長性の向上につなげていきたいと考えている。

(文・小島寛明、写真・小田垣吉則)

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