コラム:ビットコイン過熱相場、真のブレーキは何か=村田雅志氏

コラム:ビットコイン過熱相場、真のブレーキは何か=村田雅志氏
本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。写真は筆者提供。
村田雅志 ブラウン・ブラザーズ・ハリマン 通貨ストラテジスト
[東京 15日] - 一般社会でも大きな注目を集めているビットコインは12月11日以降、非常に安定した値動きで推移している。ビットコインは2017年、12万円ちょうど近辺で始まり、3月末まで11─15万円程度で推移。しかし、5月には30万円、8月には50万円、10月には80万円をそれぞれ上抜けるなど着実に上昇を続け、11月26日には100万円の大台を突破。その後、わずか2週間足らずの12月8日には200万円を超えた。
200万円を上抜けたビットコインは、その後も上昇を続け、一時は240万円近くを記録したが、12月10日には150万円近くとピーク時から30%以上も下落。ビットコインの過去30日ボラティリティーは年率100%を超えるなど、値動きは極度に高まった。ただ、翌11日から原稿執筆時点(日本時間15日正午頃)まで、ビットコインは、これまでとは大きく異なり、190万円台前半で落ち着いた値動きを続けている。
ビットコインの値動きが12月11日以降安定した理由として、ビットコインの上場先物の登場を指摘する声がある。米シカゴ・オプション取引所(CBOE)は、日本時間11日午前8時にビットコインの先物取引を開始した。期近物(1月限)価格は1万5460ドル(約175万円)で始まったが、しばらくすると上昇基調で推移し、一時は1万8850ドル(約214万円)と、スポット価格を12%ほど上回った。その後も先物価格は、スポットを上回る状態が続いたが、日本時間13日になると両者の価格差は縮小。原稿執筆時点では両者のかい離率は1─2%程度となっている。
先物市場では、現物資産を保有していなくても、売りから取引を始めることができる。現物市場での価格が、ファンダメンタルズなどと照らし合わせ高過ぎると判断される場面では、先物市場で売り取引が優勢となり、価格は下落しやすくなる。そして先物市場での価格下落が現物市場に波及し、結果的に価格上昇が抑えられると期待することもできなくはない。
しかし、こうした考え方は、ビットコインにおいては機能しないだろう。
<「一物多価」のビットコイン、効率的な裁定取引は望み薄>
ビットコインの価格は、他の有価証券取引や通貨(為替)のように世界的に同じ(一物一価)ではなく、各取引所でバラバラ(一物多価)である。例えば日本の場合、ビットコイン取引所における価格差は10%以上あることも珍しくはない。
上場先物取引では、清算時点で、ある特定の価格を清算価格として採用する必要がある。CBOEの場合、米国のジェミニ・トラスト・カンパニーが実施するオークションで清算価格が決まるが、たとえオークションによって決まるといっても、世界各国に散らばる各取引所での取引状況が、オークション結果に全て反映されるわけではない。そもそも提示されるビットコインの現物価格は、取引所によって異なる以上、清算価格と現物価格が全て一致することはなく、ある特定の水準を清算価格としたところで、その価格が現物価格を代表するものにはなり得ない。
清算価格と現物価格のかい離がある以上、先物市場と現物市場との間で効率的な裁定取引が実施されることもない。結果として、ビットコインの先物市場は、現物価格が世界的に収斂(しゅうれん)するまで、現物市場との連動性は厳密には確保されない別市場と言えなくもない。
CBOEの場合、個人投資家は買いの取引からしか入れないため、先物市場にはロング(買い)バイアスが残る。また、CBOEが求める必要証拠金は44%と、他の先物取引に比べ非常に高く設定されている。これでは、ショート(売り)を使って有効的にビットコイン価格の下落をヘッジすることは難しく、ヘッジを望むビットコイン投資家は、現物ポジションを縮小したほうが合理的である。
始まったばかりとはいえ、CBOE先物取引の出来高もそれほど大きくない。期近(1月限)物は、取引開始初日(現地時間12月11日)こそ3969枚となったが、2日目と3日目は1500から1600枚程度、そして4日目は1000枚程度と、わずか数日で大きく縮小。2月限、3月限は、いずれも100枚足らずでしかない。ビットコイン先物市場は、世界的に大きな注目を集めたが、取引そのものは決して大きいわけではなく、機関投資家など市場関係者の多くは様子見姿勢を保っていると推察される。これでは先物市場が現物市場に影響を及ぼすと考えることは難しい。
<米金融引き締めが「仮想通貨バブル」崩壊を促す可能性>
では、ビットコイン価格はなぜ12月11日以降落ち着いているのか。それは、価格上昇で大きく広がった投機的な取引が縮小したためと考えられる。10日にビットコイン価格が大きく下落したことで、予想以上の損失を被った投機筋は少なくないだろう。ビットコイン取引所の多くが、注文の集中などで円滑な取引執行が難しくなったことも投機的な取引の抑制につながった可能性もある。
欧米勢が12月18日からクリスマス休暇を迎えることもあり、ビットコイン価格は落ち着いた値動きを続ける可能性もある。しかし、仮想通貨の時価総額を公表するコインマーケットキャップによると、ビットコインを除く仮想通貨の時価総額は、ビットコイン価格が落ち着いた11日以降も拡大を続けている。つまり仮想通貨市場全体への資金流入は続いたままと言え、他の仮想通貨からビットコインへ資金がシフトしたり、新規マネーがビットコインに流入したりすることで、ビットコインが再び上昇基調に転ずる展開も考えられる。
ラフな枠組みで考えれば、これまでの世界的な金融緩和や景気拡大が、仮想通貨市場への資金流入につながったと考えても不自然ではない。しかし、ビットコインを含めた仮想通貨市場への資金流入が、どの程度の期間と規模で続くかを合理的に精度高く予想することは難しい。その一方、一部で期待され続けているように、ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格上昇が止まり、一転して価格下落となる展開、いわゆる「仮想通貨バブルの崩壊」を合理的に否定することも難しい。
仮に世界的な金融緩和が仮想通貨市場への資金流入につながったとすれば、米連邦準備理事会(FRB)による金融政策の正常化は仮想通貨市場の転機につながるのかもしれない。FRBは12月の連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1.25─1.50%に0.25%ポイント引き上げることを決定し、同時に公表したFF金利見通しでは、2018年、2019年ともに3回ずつ利上げが実施されることを示唆した。
また、FRBのバランスシート縮小ペースは、2018年1月から最大200億ドル、4月からは同300億ドル、7月からは同400億ドル、そして10月からは同500億ドルと加速する。こうしたFRBの金融政策正常化のプロセスは、仮想通貨市場への資金流入の抑制につながる可能性もある。
*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。近著に「人民元切り下げ:次のバブルが迫る」(東洋経済新報社)
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here
(編集:麻生祐司)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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