コラム:ビットコインの「バブル崩壊」、金融市場に感染するか
Jamie McGeever
[ロンドン 15日 ロイター] - 仮想通貨ビットコインは今月、先物取引が開始され、正当な投資手段としての第一歩を踏み出した。だが、これにより金融市場の安定に初めて広範な影響を及ぼすことになるかもしれない。
金融界は、懸念するほどまだ仮想通貨のエクスポージャーが高くないものの、新しいビットコイン先物取引に参加するヘッジファンドや銀行が増えていることから、大規模なバブル崩壊が他の市場に波及するリスクが浮上している。
「最悪」シナリオの1つは、過去2年間において、他のほぼあらゆるリスクの影響を受けなかったように見える世界の株式市場に修正をもたらすきっかけになるというものだ。
誤解のないように言うが、システミックリスクのことではない。2008年、米リーマン・ブラザーズの破綻から数時間のうちに、金融・経済界全体が危機に陥ったときがまさにそれだった。
今回懸念されるのは、ビットコイン先物で大きなポジションを取っている大手銀行またはヘッジファンドのようなレバレッジ投資を行う投機筋が、価格の急激な変動によって損失を被る側にいた場合に、まん延しかねない市場から市場への波及である。
このようなシナリオにおいては、ビットコイン先物のポジションをカバーするため、株式や債券といった他の保有資産を清算せざるを得なくなるだろう。あるいは、取引所や仲介業者が要求する高額な委託保証金を支払わなくてはならないだろう。
ヘッジファンド運営会社「シーブリーズ・パートナーズ・マネジメント」を率いるダグラス・カス氏は、来年の大きな市場サプライズの1つとして、ビットコインが2万ドル超に急騰後、2000ドルを下回るレベルに急落することを挙げている。そうなれば、ヘッジファンドも道連れとなる。
「ビットコインや他の仮想通貨に大きな比重を置いていた、高いリターンを追い求める名の知れた大手ヘッジファンドのいくつかは、不意打ちを食らうことになる。ファンドの資産や価値の30%以上を失い、保有する仮想通貨の清算とファンドの閉鎖に追い込まれるだろう」と、カス氏は予想する。
クリアリングハウス(清算機関)も必要なキャッシュを集めるため、資産売却を余儀なくされる可能性がある。
特に不可解なヘッジファンドの世界では、売りがさらなる売りを呼び、市場参加者には誰が何を理由に売っているのかは分からない。パニックの兆しが少しでもあるなら、何が起こっているかよく見えないだけに、それがさらに勢いづくことになる。
1つのヘッジファンドや取引所、あるいは証券会社の破綻は通常、市場に影響を及ぼすことはほとんどない。とはいえ、時にはそうなることもある。最も有名なのは、1998年に破綻した米ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)だろう。また、2011年に経営破綻した米証券大手MFグローバルの場合は、米金融市場において4週間にわたり10%の修正をもたらした。
<高いリターンを求めて>
ビットコインにおいてボラティリティーは尽きることがない、というのは控えめな表現かもしれない。1月に1000ドルにも満たなかったビットコインは1万7000ドル超に急騰。日中の値動きが1000ドルを超えるのはもはや日常茶飯事だ。
ビットコインの極端なボラティリティーはこの仮想通貨を取引する人たちのみに影響し、金融市場全体への波及はほとんど感じられないと考えるもっともな理由がある。
最近のばか騒ぎや報道、荒い値動きにもかかわらず、ビットコインが金融市場に占める割合は依然としてごくわずかにすぎない。
ビットコインの市場規模は約2800億ドル(約31.5兆円)で、米小売り大手ウォルマートの時価総額とほぼ同じである。もしウォルマートの株価が、例えば50%急落したら、それを受けて世界の各市場は共倒れするだろうか。
ボラティリティーがさらに上昇する可能性は否定できないが、その感染力がどれだけ大きくて持続的かは分からない。市場規模で見るなら、米国株式市場の時価総額は総額20兆ドル超にも上る。
ヘッジファンドはどのくらい精力的にビットコイン取引を行うだろうか。ヘッジファンドが管理する資産は計4兆ドル程度であり、ビットコインの市場規模は2800億ドルだ。
現在、ビットコインが90%下落しても、年初の価格よりもまだ高い。したがって、ビットコインを比較的長期保有している、ほとんどのビットコイン投資家は、今なお利益を見込めるだろう。
その一方で、極端な価格変動と先物取引の導入、そして借入資金を元手とするリスクの高い投資機会という組み合わせによって、より危険なダイナミクスが新たに誕生している。
ビットコインのスポット取引の大半は個人投資家によるもので、レバレッジなしで取引されている。つまり損失は、該当する個人投資家や名目持ち高に限定される。感染の範囲は最小限にとどまる。
だが、機関投資家やアグレッシブな投機筋が、より高いリターンを求めて借入資金で取引する場合は必ずしもそうとは限らないだろう。
ナショナル・アライアンス・セキュリティーズ(ニューヨーク)国際債券部門の責任者を務めるアンドリュー・ブレナー氏は、ビットコイン先物における取引高の伸びと取組高を注視する必要があると指摘。
「感染リスクは取引高やポジションの増加に現れる。先物取引において、ロング(買い)であろうがショート(売り)であろうが関係ない。だが、感染リスクが現れるのは先物取引においてだ」
CBOEグローバルマーケッツは12月10日、運営するシカゴ・オプション取引所(CBOE)でビットコイン先物の取引を開始した。取引高と取組高は今のところ多くはないが、向こう数カ月で増加することは間違いない。米先物取引所運営大手CMEグループのシカゴ・マーカンタイル取引所も同17日、ビットコイン先物取引を開始した。
両取引所とも過剰なボラティリティーに対する非常措置を講じており、日中の値幅制限率を30%、当初証拠金率を35%としている。
これらは他の資産クラスよりもはるかに厳しい制限である。もし仮にヘッジファンドが35%の当初証拠金率を払えるほど十分な資金をもっていたとしても、時が来れば打撃を被るだろう。
だが2017年は、ヘッジファンドにとって悪い年だった。来年は多くのファンドが資金を借りてでも大きな賭けに出る誘惑にかられるだろう。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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