国税庁が12月1日に公表した「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」によって、仮想通貨の売却などによる利益は原則として雑所得に区分され、所得税の確定申告が必要となることが明確にされた。

仮想通貨によって利益を得ている人が増えている中、株式会社Aerial Partners代表の沼澤健人氏やブロックチェーン会計士の柿澤仁氏がマネーフォワードと共同で、「MFクラウドシリーズ」を導入する会計事務所などを対象にセミナーを開催。

仮想通貨に対する"税"は業界を挙げて解決すべき課題

沼澤健人氏

沼澤健人氏

今年に入ってビットコインをはじめとする仮想通貨の取引が盛り上がり、それにともなって「仮想通貨取引に関する税金関連の問い合わせが急に増えている」と沼澤氏は指摘する。同氏のグループ内での個人の税務申告は400件を超え、「業界を挙げて解決すべき課題」だという。なお沼澤氏によると税務申告は、現状では約1,000件になっているという。また、足もとで100万人を超える仮想通貨投資家がおり、マーケットキャップの推移から推定すると、2017年だけで新たに確定申告義務が生じている方は10万人単位になっていても不思議ではないという。

こうした課題が生じているのは、仮想通貨の取引が新しく、急速に盛り上がったために法制度が追いついていないからだ。それでも沼澤氏は、日本は「世界的にも先進的な法整備がされている」と話す。

金融庁が主導する仮想通貨交換業者登録制度などは、裏をかえすとホワイトリストに登録されている取引所を保護しているとも考えられる。また、実際の通達に落とし込む以前に、タックスアンサーやQAを出すことで納税者の混乱を避けようと努力している点も評価されるべきだという考えだ。

  • 仮想通貨を取り巻く法整備の状況

    仮想通貨を取り巻く法整備の状況

そうした中で国税庁は、税金に関するFAQサイトの「タックスアンサー」において仮想通貨取引に関する個人の所得に対しての国税からの回答を示した。だが、これが「憶測に憶測を呼んだ」(沼澤氏)とのことで、やや分かりにくい面があった。

その後、企業会計基準委員会が12月6日に仮想通貨の会計処理などの取り扱い案を公表。金融庁もICO(Initial Coin Offering)の注意喚起などの情報を提供するなど、国も対応を強化している。

仮想通貨の会計処理の課題とは

こうした状況で、沼澤氏は国税庁が開示した税務方針である「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」をベースに仮想通貨の会計処理に関した疑問に対して詳細な回答を紹介している。

例えば仮想通貨売却の計算方法については、仮想通貨売却時の売却時価と取得原価の差額を雑所得として認識する。ただ、この取得原価をどのように測定するかが難しいと注意を促す。さらに取得原価だけでなく、売却時価に関しても仮想通貨同士の交換取引(仮想通貨建ての売買)を行う場合は測定が難しいという。

仮想通貨で商品を購入した場合でも、決済に使った仮想通貨の時価とその仮想通貨の取得原価との差額を所得とすることになる。実際に仮想通貨で支払う場合、決済時にQRコードを読み込んで直接決済する場合と、事前にプリペイドカードにチャージする場合があり、これもチャージ時に円貨換算する場合と支払時に円貨換算する場合があるのだ。

これに対し、沼澤氏は「理論的には、円貨に換算されたタイミングを使用されたタイミングとみて、その時の時価で所得認識するのが妥当ではないか」と語る。

仮想通貨を円で買って、円を仮想通貨で買う、という場合の計算はそれほど難しくはないが、問題は仮想通貨同士を交換した場合だ。この場合も仮想通貨の取得原価と時価の差額が所得認識されるが、円を介していない取引のため、換算が難しい。その時々の仮想通貨の円換算を把握している必要があり、実際の税務作業の負担が大きくなるという。

仮想通貨を追加取得した場合に移動平均法を使うか総平均法を使うかも問題だ。仮想通貨取引が活発化したのは2017年。沼澤氏は今年を「元年」と表現するが、2010年代前半にはすでに取引を頻繁に行っている個人もたくさんいた。そのため、確定申告のためには今年の取引だけでなく、過去の取引を追跡して取得単価を計算する必要がある。 2016年以前に確定申告義務が生じている場合、修正申告を行う必要があると沼澤氏は強調する。

マイニングの所得計算についても課題が

沼澤氏が「論点が多い」と指摘するのは、仮想通貨をコンピューターで"採掘"する「マイニング」の所得の計算方法だ。通常は、マイニングによって取得した仮想通貨の時価を所得認識し、経費精算をして所得を計算する。マイニングはハードウェアが必要で、さらに電気代もかかり、沼澤氏も「(マイニングのためのハードウェア1台につき)電気ストーブ並みの1000Wを消費し、24時間動かしている」状況で、冷却のためのエアコン代など、どこまで必要経費とするかも問題になる。

それ以上に課題なのが「プールマイニングの取得タイミングの取り扱い」だという。複数のユーザーのPCを使うマイニングをプールマイニングというが、これによって仮想通貨を取得した場合、「ブロックチェーン上でトランザクションが生成されたタイミング」「マイニングプールで分配が分かった時点」「ウォレットに入金されたタイミング」など、どの時点を取得時点とするかは個々の状況で判断するという。

沼澤氏は、仮想通貨の所得税制は、制度の方向性は示されており、「かなり先進的だと考えている」と話す。とはいえ、まだ条文として示されているわけでもないため、「適切な一次情報をキャッチアップして欲しい」とのこと。さらに税理士などにとっては、クライアントと対面で密なヒアリングをして、前年度以前の修正申告を含めた対応を行うことを推奨する。