国家がICOを通して資金調達するケースが増えている。

 

 最近、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は「デジタル経済の発展に関する法令」に署名した。これはICOや仮想通貨、スマートコントラクトを合法化するものだ。これに先立つ2か月前、旧ソ連の一部だったアブハジア共和国はICOで10億ドルを調達する計画を発表。さらに南米ベネズエラも原油に裏付けられたトークン「ペトロ」の発行に踏み切っている。エストニアもICOで少なくとも約35億円を調達予定だ。

 

 

クラウド上の政府

 96年、「電子フロンティア財団」設立者の1人であるジョン・ペリー・バーロウ氏は「サイバー空間独立宣言」を著した。当時大きな反響を呼んだこの文章には、次のような一節がある。

 「サイバー空間は取引、関係性、思考それ自体から構成され、これらは私たちのコミュニケーション網において定常波のように配置されている。私たちのサイバー空間はどこにでも存在しながら、どこにも存在しない。そしてそれは身体が存在する場所ではない。」

 エストニアの電子政府サービスはどこからでも運営することが可能だ。かつては、亡命政府はすぐに正当性を失う運命にあった。なぜなら他国に避難した亡命政府は、仕事をするためのインフラを失ってしまうからだ。しかし今、例えエストニアが亡命政府となったとしても国の存続は可能だろう。電子政府は「民族」と「国家」そして「地理的な国」の3者の違いを明確にする。

 一般論として「民族」とは、自らを独自の存在と認識する一定の領域内の人々の集まりである。「国」とは地理的な領域を意味し、「国家」とは、それらの人々が従うことに同意した一連の政治組織のことである。シリコンを基盤とした国家機能を、土地に基づいた実体的な国から分離させることで、エストニア人は自国を守っていることになる。しかし意義はそれだけにとどまらない。エストニア人は自らの取り組みに成功し、今やどこでも整備できるデジタル国家インフラを構築したのだ。正式に認められた国家である必要はない。国家が土地と切り離されたとき、民族を「国家化」することは可能だろうか? バックアップをとったり、スイッチを切ることができたり、スーツケース内のハードドライブに収まる国家。そして適切なタイミングで、バックアップデータを再起動させるのだ。

 

サービスとしての国 (CaaS)

 「SaaS」つまり「サービスとしてのソフトウェア」という言葉を聞いたことがあるだろうか。購入する代わりに、使った分のソフトウェアやハードウェアに対して支払いが行われる仕組みだ。これらのサービスは、以前はコスト高であったが、現在は無料かそれに近い状態だ。統治機構もその方向に向かっている。政府のサービスは、個人のビジネスやライフスタイルに合わせて組み合わせることのできる、プラグアンドプレイのアプリになることができるのだ。統治システムを「カントリーアズアサービス(CaaS)」として提供してはならない合理的な理由はない。

 最も面白くて期待されるブロックチェーン関連のビジネスは、仮想通貨の世界の外にある。それは医療・物流のソリューションや土地売買のサポート、政府や企業のワークフロー・ソリューションなどだ。

 電子政府として世界を先導するエストニアは最近、ブロックチェーンのスタートアップ企業であるガードタイム社と手を組んで、病院や保険会社からアクセスが可能な医療記録の統合データベースを立ち上げた。プレスクリプト社も、SNS銀行やオランダのデロイトやビットヘルスと提携し、同様のサービスを米国で探っている。

 スウェーデン政府は、クロマウェイ社や提携銀行と組み、土地登記用のブロックチェーンのスマートコントラクトをテストする予定だ。買い手や売り手、銀行の手間を減らし、担保としての土地利用を一般化する。ビットフューリー社がジョージアで同様のイニシアティブを立ち上げた一方、ビットランド社はガーナやホンジュラスに進出している。アラブ首長国連邦もブロックチェーン戦略を策定し2020年までのペーパーレス化を目指す。

 企業の登記が多い米デラウェア州はブロックチェーン基盤のシステムを整備する構えだ。会社登録や株式の発行、取締役会決議の記録、売買取引の結果としての株式の再分配に対応する。英エバーレジャー社は、ダイヤモンドや美術品、高級ワインのデジタル認証により、銀行や保険会社、市場がリスクや詐欺を削減する支援を行う。

 現在はICOを活用したスタートアップ企業に注目が集まっているが、ブロックチェーンを基盤とするガブテック(GovTech)・スタートアップへの投資も非常に有望なようだ。

 

 統治機構は、ICOやブロックチェーン世界の次なる目玉である。「クラウド上の国境なき国」の様相を呈する新たなエコシステムは、「イスラエル2.0」の建国のようなものになるかもしれない。いずれにせよ、現代のオンライン世界で地理的な国境について話しても意味がないだろう。特に、分散型経済やブロックチェーン・コミュニティという観点からはなおさらだ。

 

 最近、イーサリアム共同創始者であるヴィタリック・ブテリン氏がこのような書き込みをした。

 「イーサリアムを含む『すべての』仮想通貨コミュニティは、以下の警告に耳を傾けるべきだ。デジタル通貨で流動的な何千億ドルもの富を得ることと、社会的に有益な何かを成し遂げることの差別化をはかる必要がある。」

 もしかしたら、(多くのジャーナリストが名付けたように)彼が真の「デジタル・レーニン」となり、新たな国をつくるのに今が最適なタイミングかもしれない。

 

著者紹介:ウラジスラフ・ソロドキー(Vladislav Solodkiy)は、シンガポールを拠点とするフィンテックVC「Life.SREDSA」の執行役員であり、「The First Fintech Bank’s Arrival」の著者。