視点:仮想通貨取引はなぜ危ういのか=アデア・ターナー氏

視点:仮想通貨取引はなぜ危ういのか=アデア・ターナー氏
元英金融サービス機構(FSA)長官のアデア・ターナー氏は、暗号通貨(仮想通貨)は取引の匿名性ゆえに、マネーロンダリングや脱税などに悪用されやすく、交換事業がこれ以上広がることに対しては、当局側の慎重な姿勢が望まれると指摘。写真は2017年10月にサラエボで撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)
アデア・ターナー 元英金融サービス機構(FSA)長官/インスティテュート・フォー・ニューエコノミックシンキング会長
[東京 19日] - ビットコインをはじめとする暗号通貨(仮想通貨)は取引の匿名性ゆえに、犯罪資金のマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ組織への資金供与、脱税に悪用されやすく、交換事業がこれ以上広がることに対しては当局の慎重な姿勢が望まれると元英金融サービス機構(FSA)長官のアデア・ターナー氏は述べる。
同氏の見解は以下の通り。
<チューリップ・バブルに酷似>
ビットコインなどの仮想通貨に対する投資熱は、まさに17世紀前半のオランダで発生した「チューリップ・バブル」のようなものだ。(さまざまな品種のチューリップ球根価格が高騰した後)、1637年に暴落したといわれる。
現行の仮想通貨は、(一部の人々によって)任意に選択されている価値の貯蔵体である。ゆえに、これから投資を考えている人に価格予想を尋ねられても、適切なアドバイスをできるとは思えない。1年後に2倍、あるいは5倍になるかもしれないし、逆に現在価格の5%になるかもしれない。ビットコインの価値は、あなたがいくらになると信じているか次第であり、恣意的なのだ。
むろん、賭け事は、合法である限り、自由社会では許される。儲かる人もいれば損をする人もいる。昨今の仮想通貨投資熱も、現時点では、一部の人々が賭け事に興じているだけというのが、私の見立てだ。
ただ、当局が仮想通貨の動向を注視しなくていいと言っているわけではない。起こっていることのスケール次第では、巨額損失を被る人々が増えて、マクロ経済に何らかのショックを与える可能性はないのか、警戒する必要はある。
<高額紙幣と同じ危うさ>
私は現時点では、仮想通貨の交換事業については、これ以上の進展がないことを望んでいる(日本は2017年4月施行の改正資金決済法で仮想通貨取引所に登録制を導入)。仮想通貨が(米ドルや日本円などの)法定通貨と交換できることについては、私は全く社会的価値を見いだせない。
まず、上述した価格メカニズムの問題がある。加えて、匿名性を有するデジタル通貨取引を促すことは、同じく匿名性を持つ紙幣(特に高額紙幣)の存在同様、脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)を行おうとする人々、あるいはテロリストを利するだけだ。
一方、中央銀行によるデジタル通貨発行の可能性に関しては、私は、一部の人が言うような利点について全面的に同意はしていないが、反対もしない。何より、中銀版のデジタル通貨は匿名性を有さず、その利用実態を把握できる。
率直に言って、お金の使われ方は、徴税当局や捜査当局、安全保障当局に対し明朗であるべきだと思う。社会のルールを遵守している人々に、匿名通貨は不要なはずだ。
*本稿は、アデア・ターナー氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいています。
(聞き手:麻生祐司)
*アデア・ターナー氏は、米ニューヨークに本拠を置くシンクタンク「インスティテュート・フォー・ニューエコノミックシンキング」会長。米マッキンゼー・アンド・カンパニー、米メリルリンチ(現バンクオブアメリカ・メリルリンチ)などを経て、2008年から13年まで英国の金融監督当局・英金融サービス機構(FSA、現在は複数組織に分割)の長官。ケンブリッジ大卒。近著に「BETWEEN DEBT AND THE DEVIL」(邦訳版「債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?」日経BP社刊)。
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