仮想通貨流出「利便性とセキュリティー、難しいバランス」
仮想通貨取引所大手のコインチェック(東京・渋谷)から約580億円分の仮想通貨が流出した問題に関連して、同社に出資しているベンチャーキャピタル(VC)のWiL(米カリフォルニア州)の伊佐山元最高経営責任者(CEO)は29日、「大きな金額が盗まれ、ショックを受けている。利便性とセキュリティーは相反するバロメーター。サービスや顧客を優先するか、利便性を犠牲にするか。タイムマシンに乗って過去に戻っても判断は難しい」と話した。日本記者クラブで開かれた記者会見で質問に答えた。
伊佐山氏によると、WiLはコインチェックに2017年秋ごろに出資したという。伊佐山氏は「今回の仮想通貨の話に限らず、過去のイノベーションを考えると、事故が発生してどのような規制やルールをつくっていくかが大切」と指摘。「株主としては反省をいかしてほかのベンチャーの指導活動に生かしていきたい」と語った。
一方で、「仮想通貨の市場では、いかに口座を簡単に開設できるかなどユーザーの利便性が大事。不祥事が起きた後はセキュリティーをもっと強固にできなかったかと指摘されるが、うまくバランスを取るのは難しい」と話した。「今回の事件をきっかけに仮想通貨に使われているブロックチェーン技術の穴を改善し、健全に発展すれば良い」と述べ、今後も仮想通貨の関連分野に投資していく考えを示した。
コインチェックにはWiLのほか、独立系VCのインキュベイトファンド(東京・港)、ANRI(東京・渋谷)も15年8月に出資。インキュベイトファンドは取締役、ANRIは監査役をそれぞれ同社に派遣している。両社ともコインチェックが仮想通貨取引所事業を始める前の、社名がレジュプレスの時代から投資している。
別の仮想通貨取引所大手のテックビューロ(大阪市)に出資している日本テクノロジーベンチャーパートナーズ(東京・世田谷)の村口和孝代表は、同社に最初に投資した14年12月ごろから「セキュリティーへの投資は当たり前とお互い認識していた」と話す。コインチェックについて「ネットゲーム事業のようなイメージでユーザーの利便性を優先したことで、ブロックチェーンの真骨頂である暗号技術や安全性に穴があいたのではないか」とみる。「暗号通貨のイノベーションはこれからも重点領域であることは変わらない」という。
VCには新産業をけん引するスタートアップ企業を育てるだけでなく、若い起業家を監督・指導する役割も求められそうだ。
(企業報道部 鈴木健二朗、吉田楓)
仮想通貨とは紙幣や硬貨といった実物がなく、インターネット上でやり取りするお金を指す。専門の取引所を通じてドルや円などの通貨と交換できる。代表的な仮想通貨としてビットコインがある