bitFlyer・加納CEOがいま仮想通貨業界について語る7つのこと:前編 —— 過去最大の流出から見えた課題

仮想通貨業界が大きく揺れている。

取引所コインチェックから巨額の仮想通貨が流出した問題をきっかけに、セキュリティだけではなく、社内の管理体制などさまざまな問題が浮上した。金融庁は2018年2月8日以降、日本で運営する取引所の立ち入り検査に着手している。立ち入り検査は、業界のほとんどの企業に拡大するとも言われ、政府による規制の強化も議論されはじめた。

いちはやく仮想通貨の取引所を立ち上げ、国内最大の規模に成長させたパイオニアは、こうした現状をどうみているのだろうか。大手仮想通貨取引所bitFlyer(ビットフライヤー)の社長で、業界団体のひとつ日本ブロックチェーン協会(JBA)の代表理事を務める加納裕三氏(42)が語った。

前編では、過去最大となったコインチェックの流出事案からみえた仮想通貨の課題、仮想通貨を巡る法制度、実生活と仮想通貨に関する加納氏の話を掲載する。

加納裕三氏@卓球台

ビットフライヤーCEOの加納裕三氏。新しいオフィスには卓球台を置いた。

撮影:今村拓馬

①コインチェック流出問題からみえた課題

Business Insider Japan(以下、BI):コインチェックの流出事案をきっかけに、仮想通貨や取引所をめぐる多くの課題があらためて浮き彫りになりました。

加納裕三氏(以下、加納):業界全体として残念な事件であることは間違いありません。全容がわかっていないので、なんとも言えませんが、返金されるのであれば、はやく返金をして、顧客の資産を守ってほしいと思っています。

いま、仮想通貨の業界には、業界団体が*2団体ありますが、話し合いをして、ひとつになるべきだと思っています。ふたつの団体が異なるルールをつくるのは、顧客のためになりません。

仮想通貨業界の二つの業界団体:

日本仮想通貨事業者協会(JCBA)

日本ブロックチェーン協会(JBA)

セキュリティについての議論も早急に進める必要があります。匿名性の高い通貨についても議論が先延ばしにされてきましたが、そろそろ意思決定をしないといけない。やはり、業界としてひとつのルールで、一丸となって、仮想通貨のためにできることを議論する必要があると、あらためて感じています。業界団体としての対応には十分ではなかったところがあると、代表理事として思っています。

BI:取引所は、常にハッキングのリスクにさらされています。

加納:起業する前は、金融機関で働いていました。ビットフライヤーも金融機関レベルのセキュリティにしたいと考えています。仮想通貨では、従来からあるインターネット・セキュリティと、仮想通貨に特有のセキュリティがあり、両方をやらないといけない。従来のハッキング手法に対しては、どうにか防ぐという対策は当然やるべきです。

仮想通貨特有のセキュリティは、当然、インターネットに接続せずに仮想通貨を保管する*コールドウォレットを導入する必要があります。ただ、1日に何度もコールドウォレットをインターネットにつなげると、常にインターネットにつながっている*ホットウォレットと変わらない。運用面でも多くのリスクがありますから、運用のあり方をもっと議論するべきです。

ホットウォレット:仮想通貨をインターネットに接続した状態で管理

コールドウォレット:仮想通貨をインターネットから切り離した状態で管理

ビットフライヤーのロゴ

いち早く仮想通貨取引所を立ち上げたビットフライヤーは、業界のリーダー的な立場でもある。

撮影:今村拓馬

②法律で、取引所のセキュリティもカバーを

BI:2017年4月に改正資金決済法が施行されました。なにが変わりましたか。

加納:当時は、ビットフライヤーを含め、4月の法律施行前から取引所などを運営していた「みなし業者」が十数社いました。申請前でも、法には準拠しないといけなくなりました。

それまでは自主規制だけでしたが、自主規制に拘束力はありません。本人確認をしなかったり、危ない橋を渡っている事業者もいました。ルールがそろい、なにをやればいいかというのが、明確に定義された。本人確認をやり、分別管理をして、監査も受ける。明文化され、強制力もある。目標がそろったのは非常にやりやすい。

規制の導入にはもちろん、プラスとマイナスの面があります。本人確認をしないといけないし、事業者も利用者も利便性が向上するわけではありません。しかし、*マネーロンダリングを防ぎ、政府の管轄で登録制を進めることで一定程度、信頼が生まれた。ビットフライヤーのキャッチフレーズは去年(2017年)「仮想通貨元年」でしたが、「去年は仮想通貨元年になったね」と多くの人が言ってくれました。結果が出たんだと思います。

マネーロンダリング:資金洗浄という意味。 麻薬取引、脱税、粉飾決算などの犯罪によって得られた資金(汚れたお金)を、資金の出所をわからなくするために、架空または他人名義の金融機関口座などを利用して、転々と送金を繰り返したり、株や債券の購入や大口寄付などを行ったりすること。(SMBC日興証券ウェブサイトの用語集より)

BI:改正法の施行から1年弱で、ここは課題だなと感じているところはありますか。

加納:法律で、セキュリティはあまりカバーできていない面がある。重点的に規制をすべきポイントです。仮想通貨の分野は、規制をしたほうがうまくいくと考えています。

加納裕三氏インタビュー

加納氏は仮想通貨を巡る規制についてさまざまな場面で発言している。

撮影:今村拓馬

③現実の経済で使ってもらうため、参加者を増やしたい

BI:価格が乱高下しすぎて、仮想通貨を実生活で使うところまで、なかなか浸透しそうにありません。対策はあるのでしょうか。

加納:まずは流動性を高める必要があります。とにかく多くの参加者が入ってこないと、ボラティリティ(変動性)は落ち着かないでしょう。昨日(インタビューは2月7日に実施)は20%下がって、今日も20%上がっていますが、この間、なにもイベントは起きていません。パニック売りのような動きが起きて、すぐに、みんなが一方向になってしまう。投資家の種類が偏り過ぎています。

株の世界は、さまざまな投資手法の人がいて、それが混ざり合っているので、最終的には、あるところに落ち着く性質がある。

仮想通貨の世界は専門家もいない、(市況の)レポートも出ません。価格がひとつの方向に流れやすいのは非常によくない。(価格を決める要因となる)*ファンダメンタルズを説明できるような、リサーチャーやエコノミストが増えていくべきです。

ファンダメンタルズ:主な経済指標全般を指し、為替相場の水準に影響する。

実際の経済の中で仮想通貨を使ってもらうには、企業としてはお客さんを増やしていくことだと思っています。営業をして、説明をして、便利だと実感してもらう。実際に使ってみて、問題がないなというレベルになれば、利用する場面は増えていくと思います。

送金手数料は本当に安くて、速い。即日現金化できて、手数料もクレジットカードより安い。加盟店さんにとっては、大きな利便性があります。そこを評価してもらえると、もうちょっと見直されると思っています。

(聞き手・構成:小島寛明、佐藤茂、写真:今村拓馬)


※編集部より:インタビュー後編はこちら

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