「仮想通貨」政府は規制か推進か? 永田町も悩む —— 与野党議員に聞く

仮想通貨取引所コインチェックから約580億円相当の仮想通貨NEM(ネム)が流出してから約1カ月。仮想通貨取引所への規制強化を求める声が強まっている。NHKが2018年2月10日から3日間かけて行った世論調査では、仮想通貨の取引所に対する規制の強化が「必要だ」と答えた人は61%、「必要ではない」が7%、「どちらともいえない」が18%と回答。

こうした状況について、立法に関わる与野党の議員はどう考えているのか。自民党IT戦略特命委員長で、FinTech推進議員連盟会長の平井卓也・衆議院議員、東証一部に上場したIT企業の役員の経験を持ち、立憲民主党経済産業部会に属する中谷一馬・衆議院議員に話を聞いた。

金融庁

コインチェック騒動から1カ月が経過。金融庁も再発防止のために対策を急ぐ。

撮影:小島寛明

消費者は利便性を優先した

「もちろん消費者保護は考えないといけないが、その前に、今回の(仮想通貨への投資)は明らかに投機であって、リスクが伴うことをもっとわかってもらわないといけない

現在、コインチェック騒動を受けて、仮想通貨取引所への規制強化をどうするか各党内でも議論が進められているが、「利用者保護の観点で規制が必要か?」と尋ねると、平井氏がまず強調したのは消費者側の責任であった。

「今回のネム流出は、2014年マウントゴックス時の消失(約480億円相当)よりも大きく重大。しかし、消費者庁が以前から注意喚起を行っていたにも関わらず、消費者(投資家)は利便性を優先した。おそらく、消費者はその取引所がみなし事業者であるのか、登録済み事業者であるのか、わかっていなかったのではないか

平井卓也衆議院議員

仮想通貨への投資リスクについて指摘する自民党・平井卓也衆議院議員。

2017年4月改正資金決済法が施行され、9月29日にまず仮想通貨交換業者11社を登録。

一方、消費者庁は同日に、金融庁、警察庁と合同で「仮想通貨に関するトラブルに対する注意喚起」を公表した。

その中で、仮想通貨が「法定通貨ではない」ことや「価格変動」のリスクなど、投資に関わる一般的なリスクに加え、「利用する際は登録を受けた事業者か金融庁・財務局のホームページで確認」することを明記していた。

内閣府が運営する「政府広報オンライン」でも、2017年5月22日「『仮想通貨』を利用する前に知ってほしいこと。」と題した注意喚起が公表され、利用者保護とマネー・ロンダリング対策の観点で事業者の登録制を導入した経緯が書かれていた。

消費者庁仮想通貨注意喚起

登録事業者か見極めるように消費者に注意喚起を行っていた消費者庁。

出典:消費者庁

今回ネムが不正流出したコインチェックは「みなし事業者」。

それを利用していた消費者は当然そのリスクも背負うべきだというわけだというのが、平井氏の主張だ。

一方で、コインチェックは、インターネットに接続した状態で仮想通貨を管理し(ホットウォレット)、お金の出し入れに複数鍵を使うマルチシグも不使用。また、6人のスタッフが24時間365日システム運用を監視する体制をとるなど、不十分なセキュリティ対策が指摘されている。

これに対して、平井氏は「考えられない。非常にリスキーだったことが明らかだが、消費者がわかっていたのかどうか。今後は、みなし事業者と登録事業者が明らかに違うことをもっと周知していく必要がある」と語った。

今後は登録時の審査やモニタリングを厳しくする

コインチェック不正流出事件を受け、金融庁や業界団体は再発防止に向けて急ぎ対策を進めている。

金融庁はコインチェック社を含む「みなし事業者」16社に立ち入り検査を行い、実態把握に努めることを明らかにしている。仮想通貨交換業者16社は3月2日、新たな自主規制団体を設立することで合意したと発表。今までは2つの業界団体、日本ブロックチェーン協会(JBA)と日本仮想通貨事業者協会(JCBA)が存在していたが、今後は新団体として資金決済に関する法律に基づく「認定自主規制協会」の認定取得を目指す。設立時期は未定だが、4月には新団体を発足するとみられる。

こうした動きについて、平井氏は「今回の金融庁の一連の対応は間違っていない」と評価し、立ち入り検査の後に具体的な規制内容を決めていく考えを示した。

「政府がみなし事業者を営業停止にするということはないが、まずは登録事業者になってもらうことが大事。そして今後はセキュリティ面を中心に、登録時の審査や登録後のモニタリングを厳しくしていく

また、政府によるガイドラインと規制だけではなく、民間団体の自主規制が重要だという。

「民間の業界団体が今度一つになるので、まずは自主規制をちゃんとやってもらいたい。そうした中で、一気に詐欺まがいの業者が存在し得ないような状況にしたいと思っている

規制強化に関しては、立憲民主党の中谷氏も同様に、適度な規制が必要だと語る。

「仮想通貨全体の時価総額が一時期100兆円に近づくような市場であったにも関わらず、国の関与やルール設定が甘かった。イノベーションを健全に起こしていく上で、適度なモニタリングと規制が必要だ。また、取引所のリスクヘッジに加え、利用者保護の観点からもサイバーリスクにおける保険を研究し、被害に備えた損害保険市場の発展のために必要な環境整備を検討すべき

分離課税になる可能性は低い

現在確定申告の真っ最中だが、投資家からは仮想通貨で得た利益が雑所得扱いとなり、最大45%の所得税が課せられることを嘆く声も聞こえる。

一般的に株式の売却など、金融商品は分離課税で一律20%が課税させられる。今後、仮想通貨で得た利益も分離課税の対象になる可能性はあるのか?

中谷氏はイノベーションを促進していく上で、分離課税も議論していくべきだという。

「今までの金融商品の知見を活かして、分離課税や、仮想通貨同士を交換した際の課税の繰り延べ、少額の買い物に対する課税の減免措置など、どうやったらイノベーションを促進できるのかを考えるのが大事。これだけの規模になっていることを鑑みれば、金融商品として扱うことも視野に入れた議論を行うことが必要

中谷一馬衆議院議員

イノベーションの重要性について語る立憲民主党・中谷一馬衆議院議員。

他方、平井氏は投資対象として推奨するつもりはないと語る。

分離課税の話は金商法(金融商品取引法=金融商品に対する投資者保護や利便性向上等について定めた法律)の世界にいくかどうかに関わる。検討している段階だが、現時点ではその可能性は低い。金商法の世界に行けば、(政府が)投資対象として推奨するようなものだ

また現状、仮想通貨にはインサイダー取引や風説の流布に対する規制が存在しないが、これについても「ルールがないからと言ってやられたら困るが、(仮想通貨が)金商法の枠外だから存在しない」という。

「政府としては、イノベーションの促進と利用者保護のバランスを踏まえて対応していく、というのが基本スタンス。現状は投機で、決済としてのツールにはなっていない」

ブロックチェーンの可能性は大きい

一方で、両議員とも、今回のコインチェック騒動とブロックチェーンの技術的な価値は分けて考えるべきだと強調した。

今回の事件がフィンテック特有の欠陥だとは思って欲しくない。技術の問題ではなく、取引所の管理体制の問題」(中谷氏)

「医療データの保全や、スマートコントラクトなどやり取りの記録を残しておく点において、ブロックチェーンは非常に優れている。ブロックチェーンの考え方はこれから金融界全体で前向きに取り組むだろうし、エストニアでは医療データの保全に数年前から使われている。日本国内の行政機関も既に実証を始めている」(平井氏)

(文、写真・室橋祐貴)

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