インタビュー:ブロックチェーン、行政の失敗分野にチャンスも

Representations of the Ripple, Bitcoin, Etherum and Litecoin virtual currencies are seen on motherboard in this illustration picture
Representations of the Ripple, Bitcoin, Etherum and Litecoin virtual currencies are seen on a PC motherboard in this illustration picture, February 13, 2018. Picture is taken February 13, 2018. REUTERS/Dado Ruvic/Illustration - RC1993E31370
[東京 5日 ロイター] - 慶應義塾大学SFC研究所上席所員で、ブロックチェーン研究・開発者の斉藤賢爾氏は、行政が関与に失敗している所有者不明土地の管理などにブロックチェーン技術は有用だと指摘する。さらに記録が改ざんできない点は、AI(人工知能)を活用する社会にもフィットするという。
<所有者不明の土地管理などに威力発揮も>
──ブロックチェーン(分散型台帳)のシステムは金融アセット分野を初め、サプライチェーンやシェアリングエコノミー・IoTなどに応用性があるとみられている。
「応用分野では、ビットコインを実現するために生み出されたブロックチェーン技術をそのまま使っていくことはできないので、新しい分散型台帳技術によるプラットフォームをつくろうという動きになっている」
──広い意味でのブロックチェーン技術は、有用とみられている。
「そもそも目的は何なのかというところに、注目していないといけない。分散型台帳技術の有用性の1つは、いったん記録を投入したら誰にも否定できなくなる、ということだ。例えば、戸籍の改ざんは人間社会では誰もやらないと思われているが、ちゃんと管理しようとするとそういうものがないといけない」
「そういう意味では、人間社会ではなく、AIを活用する社会にこそ必要な技術かもしれない。AIはゴールを設定すると、愚直にいろいろなことを試すだろう。飛躍しすぎかもしれないが、目的達成のために記録を改ざんすることもしかねない。AIによっても記録が改ざんできない仕組みは用意しておかなければならない」
──ブロックチェーン技術を応用していくにあたり、国の関与は必要か。
「日本は国を挙げてインフラをしっかりつくってきたことがイノベーションを阻害する要因になっている。逆説的に、情報通信の光ファイバー化が世界的にみてもうまくいったのは、電柱があったおかげだ。電柱は世界的には遅れているとみられる話だが、電線を地中に埋めていたら、日本で光ファイバーがここまで簡単に普及しなかった」
「行政が失敗しているところにチャンスがあるという点では、所有者不明土地の問題がある。さまざまな制度上の問題で、誰のか分からない土地が足し合わせると九州くらいの面積になっている。そのうち北海道くらいの面積に広がる。そういうところこそ、ブロックチェーンのような技術が入っていけるところだと思う」
<ビットコイン、価格変動の大きさ以外にも弱点>
──ビットコインを前提とした、狭い意味でのブロックチェーンにはどのような課題があるのか。
「重大なのは、ベースとしている通貨(ビットコイン)に価格暴落リスクがあることだ。暴落が収まらなければマイナー(採掘者)がマイニングのコストを報酬で賄えなくなり、いずれ、マイニングから撤退していく恐れがある。ブロックチェーンのシステムが事実上、停止してしまうかもしれない。別のシステムだが、『イーサリアム』は、ベース通貨の『イーサ』が暴落してブロックチェーンが止まるとすべてのアプリケーションが止まる」
「その手前にあるのが、ガバナンスが分散していない問題だ。参加者全員が一丸となって同じ仕様で動かさなければならないという仕組みなので、一部で新しい仕様を試し、それがうまくいったら全体で採用、というように、ファクトベースで進めることができない。それでは技術をまっとうに進化させられない」
「さらにビットコインのブロックチェーンは平均10分間に1回しかブロックを生成できない。問題となるのは『それでは遅い』というところではなく、『平均』という部分だ。3分間でできたり、1時間経ってもできなかったりする。ブロックチェーンとIoTは相性がいいという人もいるが、社会の中にあるさまざまな機器がつながっているIoTで、処理時間を正確に読み切れないのは不向きだ。
──NEM事件の受け止めは。
「よくある話で、世界ではひっきりなしに起きている。ただ今回、Mt.Goxのときとの違いは、日本の中でいわゆる仮想通貨業界みたいなものが出来上がった中での話だったことだ」
「本来、ビットコインは、自分が持っているお金を誰かに送る時、誰にも止めさせないことを実現するためにつくられた。お金を送ろうとしている自分が、まさしく本人であるということを自ら証明しなければならず、そこでは秘密鍵を持っているかどうかが全てになる。本人以外の人間でも、秘密鍵を不正に使えば送金できてしまう仕組みだ。さらに『誰にも止めさせない』という条件が入っているので、犯罪によって送金をされても、それを取り消すことができない」
──取引所の問題と一言で済ます問題ではなく、仮想通貨と言われるものの本質的な課題・問題が突かれたということか。セキュリティのレベルを上げてもこういう問題は防げないのか。
「可能性をゼロに近づけることはできるが、究極的には防げない。取引所を経営している人が悪用したら食い止められないし、外的要因で避けられない事故も起きる。自動車は自動車事故を起こす、飛行機は墜落する、いわゆる仮想通貨はこの手の問題を起こす。そこで自動車事故を起こさないためには、最終的に車に乗らなければいい、みたいなことになるのでは意味がない」
<民間銀の電子マネーに期待>
──ビットコインのような仮想通貨は、果たして「通貨」なのかと疑問を投げかける人もいる。価格の変動が激しく、支払いにも使いづらい。
「私も通貨として失敗していると思う。ただ、日銀が日本円に対してやっていることと同じように調節機能を導入して価格変動を抑えることは技術的に可能だ。ビットコインでそれをやらないのは、すでにビットコインは仕組みが広まっていて、これを変えるのは難しいからだ。投資商品として扱ったほうがみんな儲かっていいよね、という意識がどこかにある」
──日本では民間銀行も仮想通貨を実証実験をしている。
「ブロックチェーン界隈で(三菱東京UFJ銀行の)MUFGコインは電子マネーとか言われてすごく不人気だが、私は期待している。ブロックチェーンの仮想通貨ではなく、電子マネーが世の中を変えるとみているからだ。(みずほ銀行の)Jコインにも、SBIのSコインにも頑張ってほしい」
「キャッシュレスの仕組みは、アマゾン・ゴーなど、いろいろなところで実験されている。お金を意識しない生活に変化すれば、通常の支払システムではないものが入ってこられる余地が生まれる。例えばお金の代わりに皿洗いで支払うということがより簡単になるかもしれない。お金をもっていない人でも経済活動に参加する契機が増えてくるし、世の中は相当変わる」
*このインタビューは、3月1日に行いました。

杉山健太郎、志田義寧 編集:田巻一彦

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab