デジタル領域の製品である仮想通貨(イーサ、ether)は、常にエーテル空間(ether)のなかに存在してきた。つまり、物理的になにかを所有したり、失ったり、盗まれたりするわけではなかった。ビットコインユーザにとって、デジタル通貨を騙しとられる脅威は常にオンライン上だけであり、ITに通じた投資家たちはオフラインでは安全であった。

 しかし今や、窃盗団たちはオフラインで仮想通貨に手を伸ばす方法があるという事実に気づき、略奪行為をリアルの場でも行っている。ビットコイン所有者が窃盗団に襲われ、巨額のデジタル通貨を匿名ウォレットへ振り込むよう脅される事例が相次いで報道されている。

 オンライン上のセキュリティ対策だけではもはや十分とはいえないようだが、リアルでのビットコイン強盗に合わないための対策がいくつかある。

身代金の要求

 最近のリアル型のビットコイン強盗事件は、今年1月に、平穏なホリデーリゾート地であるタイのプーケットで起きた。ロシア人ビジネスマンが人質をとられ、自分のパソコンにログインして約10万ドルのビットコインを窃盗団へ送金するよう強いられたのだ。

この種の強盗事件は一般的になりつつある。それはしばしば自分のビットコイン預金高を明かすなどという愚かな行為が引き金となっており、オンラインセキュリティにも当てはまる事例だ。

自慢話の報い

 オンライン上でパヴェル・ニャシンという名で知られるロシアの仮想通貨投資家のブロガーが1月、レニングラード州の自宅で強盗に襲撃された。襲撃者たちは2400万ルーブル(42万5000ドル)を奪っていった。

 マスクをした強盗たちは、ニャシン氏を縛りあげて殴ったうえで財産を奪ったが、彼らが持ち去ったのはデジタル通貨ではなかった。奪われたのは、現金といくつかの「重要文書」が入っていた金庫だ。

 ニャシン氏は仮想通貨のおかげで大富豪になった。それを公にし、オンライン上や有名ブロガーたちが集うミーティングで自分の富を吹聴していたのだ。

 この手の自慢話はもちろん注目を引いてします。オンライン資産についてはしっかりしたセキュリティ対策をとっていたにもかかわらず、結果として彼はオフライン上で強盗被害者となってしまった。

有名税という問題

 しかし時には富を吹聴していなくても、仮想通貨を扱っていることを隠せない場合がある。英国拠点の仮想通貨取引所の責任者が巻き込まれて世間の注目を集めた事件をみれば、窃盗団たちはどこにでも潜んでいることがわかる。

 仮想通貨取引所エクスモのパヴェル・ラーナー代表取締役は昨年末、ウクライナのキエフ中心街にある事務所を出たところで黒のメルセデスベンツに拉致された

 行方不明になって2日後、ラーナー氏は武装集団に100万ドル以上の身代金を支払って解放されたことが明らかになった

事態はより深刻に

 この手の強盗事件がどうみても深刻なのは、それがこれまでよりも特定の個人に向けられるようになり、しかも暴力的であることだ。ハッキングでビットコイン口座から通貨を引き出されるのはもちろん恐ろしいことだが、夜中に強盗に合うというシナリオは時に肉体的拷問にもなりかねないものだ。

 モスクワでは2月末頃、ある仮想通貨投資家が襲撃され、身体を切断されたうえで100万ドル相当のビットコインを奪われたという。

 路上で窃盗団が彼を呼びとめ、所有財産を振り込むよう要求した。断ると窃盗団は、およそ100ビットコインの手持ち金を差し出すまで「彼の顔をナイフで切り刻んだ」という。

増加する事件

 これらの攻撃は最近表面化するようになり、窃盗団がリアルで人々を襲う傾向は増え続けている。ビットコイン長者たちは通常、独立独行であり、従来の手段で富を蓄えてきた人々とは身の施し方が違う。

 ビットコイン長者は裕福になっても一般の人々と同じように歩き回る。彼らがオンラインで何を隠し持っているかを知る者たちにとっては実に襲いやすいターゲットになる。オンライン攻撃は人々が対策を講じるにつれ次第に困難になりつつあるが、オフラインでも何らかの予防措置をとる必要がある。

自慢してはいけない

 オンラインかオフラインかにかかわらず、安全でいるためにすべき基本的な事柄がいくつかある。普通の財産を守ることに関しては、多くの人が取引にまつわる罠を知っている。しかし仮想通貨は安全に見えるため、通常の警戒心を失うリスクがあるのだ。

 最初に推奨するのはテクニカル面で、マルチシグのウォレットを設定することだ。取引を許可するのに複数のアドレスからの承認を必要とするウォレットなら、別の口座や銀行や金庫や他のロケーションへの送金を、複数の鍵でコントロールすることができる。つまり、ひとつの鍵が承認されたとしても、まだ自分が資産をコントロールしているということだ。

 仮想通貨を安全に守るためのさらに基本的な方法は、自慢しすぎないことだ。自慢することで自分自身を容易にターゲットにしてしまうからだ。いくら持っているか、管理アドレスは何であるかなどの情報を公にしてはならない。

 ブロックチェーンによるサイバー保護ネットワークを手掛けるグラディアスのマックス・ニービルスキCEOは、仮想通貨投資家たちは慎重になるべきであるとし、次の要点をコインテレグラフに提供してくれた。

 「情報がブロックチェーン上では公になっているからといって、自分がどれだけの仮想通貨をもっているかを自慢したり、自分の仮想通貨の口座アドレスを教えたりしてもいいということにはならない」

身の安全を第一に!

 もちろん時として、パヴェル・ラーナーの事例のように自身の評判が独り歩きし、どれだけこっそりと秘密にしていようともターゲットにされることはある。

 しかし、犯罪者たちと鉢合わせした際には、いくばくかのデジタル通貨よりも生命や身の安全のほうが重要だということを覚えておくだけでも賢明だ。勇ましく行動してお金のために命を失ってはいけない。お金は取り換えが効くが、命は取り戻せない。