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暗号資産(仮想通貨)ビジネスの近時の動向と法的論点
特集 2020年7月

暗号資産(仮想通貨)ビジネスの近時の動向と法的論点

2020年7月
更新日 2020年7月10日
業務分野 ファイナンス

1 概要

2017年4月に資金決済に関する法律(「資金決済法」)及び犯罪による収益の移転防止に関する法律(「犯収法」)の改正法が施行され、日本の法律において初めて「仮想通貨交換業」に係る規制が導入されました。これにより、仮想通貨交換業者の登録制を通じて、利用者保護に関する一定の制度的枠組みが整備されるとともに、仮想通貨交換業者に本人確認義務等のマネロン・テロ資金供与対策に係る義務が課されることとなりました。

もっとも、2018年、不正アクセスにより仮想通貨交換業者が管理する顧客の仮想通貨が外部に流出するという事案が複数発生し、事業規模の急拡大に仮想通貨交換業者の内部管理態勢の整備等が追いついていない実態が把握されました。また、仮想通貨が投機の対象になっていることや、証拠金を用いた仮想通貨の取引や仮想通貨による資金調達など、資金決済法改正当時に想定していなかった状況が現れてきたことから、金融庁は、2019年3月15日、資金決済法及び関連する金融商品取引法(「金商法」)等の改正を含む、「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」を第198回通常国会へ提出し、同法案は同年5月31日参議院本会議において可決、成立し、2020年5月1日より施行されました(以下、その全体を「改正法」と呼称します。)
*金融庁|国会提出法案等(国会提出法案(第198回国会))

改正法においては、

  • 「仮想通貨」から「暗号資産」への呼称の変更
  • 暗号資産カストディ業務に対する規制の追加
  • 暗号資産交換業の業務に関する規制の強化等
  • 電子記録移転権利の創設及びこれに対する規制の適用
  • 暗号資産デリバティブ取引に対する規制の創設
  • 暗号資産又は暗号資産デリバティブの取引に関する不公正な行為に関する規制の創設
  • 暗号資産の販売等に対する金販法(金融商品の販売等に関する法律)の適用
をその骨子としています。改正法及び関連政府令等の詳細については、当事務所の 2019 年4月付ニュースレター「暗号資産に関する改正資金決済法等について」、及び、2020年2月付ニュースレター「暗号資産・デジタル証券等に関する政府令案について」をご参照ください。

このように、改正法の施行に伴い、暗号資産ビジネスを取り巻く外部環境は急速に変化しています。また、近時、ステーキング(Staking)と呼ばれる、暗号資産・ブロックチェーンの仕組みを活用した新たな金融サービスが登場するなど、暗号資産ビジネスはより高度化・複雑化してきています。そこで、以下では、これらの外部環境の変化等を踏まえた暗号資産ビジネスの近時の動向をご紹介するとともに、これらに関する法的論点を概説します。

2 主要なビジネスと法的論点

(1)暗号資産交換業(暗号資産カストディ業務の追加等)

暗号資産交換業とは、次の行為のいずれかを業として行うことをいいます(資金決済法2条7項)。


  • 暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換
  • ①に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
  • その行う①、②に掲げる行為に関して、利用者の金銭の管理をすること
  • 他人のために暗号資産の管理をすること(当該管理を業として行うことにつき他の法律に特別の規定のある場合を除く。)

なお、上記④は、改正法により新たに追加された行為類型であり、暗号資産の売買等を行うか否かにかかわらず、利用者の暗号資産を管理し、利用者の指図に基づき利用者が指定するアドレスに暗号資産を移転させる業務(「暗号資産カストディ業務」)も暗号資産交換業に含まれるようになりました(資金決済法2条7項4号)。「他人のために暗号資産の管理をすること」に該当するかは個別事例ごとに実態に即して実質的に判断する必要がありますが、たとえば、事業者が暗号資産ウォレットのアプリケーションのみを利用者に提供し、秘密鍵は利用者のみが管理するような場合であれば、暗号資産カストディ業務には該当しないものと考えられます。

暗号資産交換業を行うためには、財務局の登録を受ける必要があるところ(同法63条の2)、現在、登録業者数は23社となっています。
*金融庁|暗号資産交換業登録一覧(2020年6月19日現在)

暗号資産交換業に該当する典型的なビジネスとして、顧客同士の暗号資産の売買を媒介する場合(取引所)、顧客との間で自らが当事者となって暗号資産の売買を行う場合(販売所)が挙げられます。また、上記のとおり、改正法により暗号資産カストディ業務が規制対象となったことから、事業者が利用者の保有する暗号資産の秘密鍵を管理するようなウォレットサービスを提供する場合も暗号資産交換業に該当することとなります。

なお、金融庁は、改正法施行に伴い、登録審査を希望する各事業者が提出すべき「暗号資産交換業者の登録審査に係る質問票」(「質問票」)を改訂・公表しています。ただし、質問票の項目は400項目超に上り、各項目について詳細な回答・添付資料の作成が求められているなど、登録審査のハードルは依然として高いものといえます。




(2)イニシャル・コイン・オファリング(ICO)

イニシャル・コイン・オファリング(「ICO」)とは、企業等が電子的にトークン(証票)を発行して、公衆から資金調達を行う行為をいいます。

日本法においては、ICOで発行されるトークン(「ICOトークン」)が暗号資産に該当する場合には、ICOの実施は暗号資産交換業に該当し、資金決済法の規制対象となります。日本でICOを実施する場合で、発行されるICOトークンが資金決済法上の暗号資産に該当するときは、資金決済法に基づく認定資金決済事業者協会である一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)の定める自主規制規則「新規暗号資産の販売に関する規則」に基づき、トークン発行体が自ら暗号資産交換業の登録を取得するか、暗号資産交換業者である既存の暗号資産取引所に販売を委託する必要があるものと考えられます。




(3)セキュリティ・トークン・オファリング(STO)

これに対して、発行されるトークン上の権利が有価証券に該当する場合には、投資に関する金融規制の対象となるSecurity Token Offering(「STO」)として、金商法により規制されることとなります。具体的には、集団投資スキーム持分など、これまで第二項有価証券として取り扱われていた権利のうち流通性の高いトークンに表示されるものを新たに「電子記録移転権利」と定義し、内閣府令に定める適用除外に該当しない限り、第一項有価証券として取り扱うこととされました。これは、電子記録移転権利は、本来は流通性に乏しい契約上の権利等をデジタル化することに伴い、事実上一般に高い流通性を有するという性質に注目し、同様に高い流通性を有する第一項有価証券と同水準の開示規制を課すこととしたものです。

また、2020年4月30日、一般社団法人日本STO協会(「JSTOA」)が、認定金融商品取引業協会として、金融庁より認定を受けました。これにより、JSTOAは、定款に定める電子記録移転権利等の売買その他の取引等に係る自主規制業務等を実施しています。




(4)暗号資産デリバティブ取引

金商法上、「デリバティブ取引」とは、市場デリバティブ取引、店頭デリバティブ取引及び外国市場デリバティブ取引の総称ですが(金商法2条 20 項)、改正法において「暗号資産」が「金融商品」に追加されたことにより、上記のいずれの類型についても、暗号資産に関するデリバティブ取引は金商法上の規制の対象となりました。これにより、暗号資産に関するデリバティブ取引を行う事業者は、その取引類型に応じて、原則として第一種金融商品取引業者ないし第二種金融商品取引業者として登録を受けることが必要となるとともに、金商法に基づく各種行為規制を遵守することが必要となります。

また、2020年5月1日、JVCEAは、暗号資産関連デリバティブ取引業に係る認定金融商品取引業協会として、金融庁より認定を受けました。これにより、JVCEAは、暗号資産現物取引だけでなく、暗号資産関連デリバティブ取引も所轄する自主規制団体として、各種自主規制業務等を実施することとなります。




(5)暗号資産投資ファンド

近時、複数の投資家から出資を募り、当該出資をもって運用者が暗号資産(以下、本項においては、ICOトークンを含む)へ投資し、得られた収益を出資比率に応じて投資家に分配するという、暗号資産投資ファンドが現れています。暗号資産投資ファンドは、投資対象が暗号資産であることを除けば、スキーム自体は通常の投資ファンドと同様です。たとえば、商法上の匿名組合契約に基づく組合型暗号資産投資ファンドを組成することが可能です。その場合、当該ファンドに対する出資者の権利は集団投資スキーム持分(金商法2条2項5号)に該当する可能性があり、ファンド運営者が出資の募集又は私募を行うためには、原則として、第二種金融商品取引業の登録が必要となります(金商法28条2項1号、2条8項7号へ)。

これに対して、投信法施行令3条2号の改正により、特定資産の範囲から暗号資産及び暗号資産関連金融指標に係るデリバティブ取引に係る権利が除外されたことにより、暗号資産を投資対象とする投資信託や投資法人の組成は認められなくなったことに注意が必要です(外国投資信託・外国投資法人も同様)。




(6)ステーキング

ステーキング(Staking)とは、PoS(Proof of Stake)のコンセンサスアルゴリズムを採用している暗号資産において、当該暗号資産の保有等を通じて当該暗号資産に係るブロックチェーンネットワークの管理に関与すること(Stake)によって、対価として当該ブロックチェーン上で新規に生成された当該暗号資産等を得る仕組みをいいます。海外の暗号資産取引所を中心に、暗号資産取引所がユーザーに代わってステーキングをサービスとして提供するケースが増えてきており(Staking as a Service)、あたかも銀行の預金者が金利を受け取るかのように、ユーザーは当該取引所に預けているだけで暗号資産のステーキング報酬を受け取ることが可能となります。ステーキングは暗号資産を用いた新たな金融サービスを実現する可能性がある一方、具体的な仕組みに応じて、暗号資産カストディ業務に該当しないか、ファンド規制に抵触しないか等、個別具体的に検討する必要があります。




(7)Non Fungible Token(NFT)とブロックチェーンゲーム

Non Fungible Token(NFT)とは、ブロックチェーン上で発行されるトークンであり、トークン自体に固有の値を持たせた代替性のない(Non Fungible)トークンをいいます。NFTは、デジタルデータでありながら、他に同じものが存在しない唯一無二のデータとして、特定物(特定のデータ)を表章するトークンとして利用することが可能となります。

最近は、ゲーム上のアイテムをブロックチェーン上のトークンとして発行し、ブロックチェーン上で移転可能とするなど、ブロックチェーンを活用したゲーム(「ブロックチェーンゲーム」)において、当該アイテムに個性を持たせるためにNFTが利用されるケースが増えてきています。NFTとして発行されたアイテムはブロックチェーン上で不特定の者の間で流通する可能性がありますが、代替性がなく決済手段としての性質が乏しいものであれば暗号資産に該当しないと考えられる場合がある一方、当該アイテムの獲得に際して、いわゆる「ガチャ」の仕組みを採用する場合などには、賭博罪(刑法185条)に該当しないか等が問題となります。

このように、NFTを活用したブロックチェーンゲームと法的問題点の有無については、各ブロックチェーンゲームの仕様に応じて個別具体的な分析が必要となります。


3 AMTによるサポート

以上のように、暗号資産に関するビジネスとして、典型的な暗号資産取引所以外にも、改正法により新たに規制対象となったSTOや暗号資産デリバティブ取引、また、ブロックチェーンの仕組みを活かしたステーキングやNFTを活用したブロックチェーンゲームなど、新たなビジネスモデルが次々と現れています。

このように暗号資産ビジネスを取り巻く規制環境が激動していることに加え、日進月歩でブロックチェーンを活用した新たな金融サービスが登場する状況においては、特に、依頼者の構想やビジネスアイデアを正しく理解したうえで、適切な法的対応についてスピード感をもってアドバイスすることが重要と考えております。当事務所は、暗号資産交換業登録案件、ICO案件、STO案件、暗号資産デリバティブ案件、暗号資産投資ファンド案件、ステーキング案件、NFTを活用したブロックチェーンゲームを含め暗号資産に関する様々なアドバイス・法的サポートを提供してきた実績を有しており、今後も日本における暗号資産ビジネスの健全な発展をサポートしていく方針です。

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