イベントレポート

ブロックチェーンでビジネスが変わる

仮想通貨の法的リスクとは? 国内法の現状を解説

 株式会社インプレスが4月13日に開催したイベント「ブロックチェーンでビジネスが変わる~技術動向、ビジネス変革~仮想通貨の最新動向から危機管理まで」では、企業の危機管理の観点から、みずほ中央法律事務所の代表弁護士である三平聡史氏による「仮想通貨に関するビジネスにおける法的リスク・問題」と題した特別講演が行われた。

 仮想通貨に関しては、マウントゴックスの破綻や、コインチェックがサイバー攻撃を受けてNEMが流出した事件などが話題になっているが、今回の特別講演では、法的問題が表面化した事例を紹介などを通じて、仮想通貨に関するビジネスのリスクや課題を法律的観点から説明した。

みずほ中央法律事務所代表弁護士の三平聡史氏

仮想通貨に伴うリスク

 三平氏が最初に触れたのが、仮想通貨の所持に伴うリスクだ。

 「例えば、ビットコインを預けている交換所が倒産してしまった場合のカウンターパーティーリスクがある。具体的な事例としてはマウントゴックスの破綻がある。このとき、預けたビットコインが戻ってくるかどうかは、法的にはあいまいなところがあり、地裁レベルの判断では、ビットコインの所有権に基づいて優先的に返してもらうことは否定されており、信託という仕組みの活用も否定されているのが現状。全債権者が一体となって低い率での返還を求めることになる。銀行の場合には、預金保険機構があったり、厳しい法規制のなかで銀行が設立されているが、それに比べると仮想通貨はリスクが大きい」とした。

 ちなみに、マウントゴックスの破綻の場合には、その後、ビットコインの日本円建てレートが高騰しており、それにより、手続きを開始した時点のレートで換算すれば、すべてが返金できるという異例の状況になっているという。

 また、送金時のアドレス入力ミスや、秘密鍵およびパスワードといった暗号紛失では、永久に通貨がなくなってしまうという危険性があるとのリスクも指摘した。

仮想通貨の決済に伴うリスク

 決済時においては、価格変動の大きさにリスクがあるとする。

 例えば、不動産売買のような大きな金額で利用する場合に、契約から引き渡しまでの期間に、レートが変動するといった価格変動リスクがある。「ビットコインでさえも大きく変動しており、それ以外の仮想通貨では、わずか1カ月の間にレートが半減したりといったことが起きている。大きな金額を、ある一定期間をかけて決済する場合には、この点を考慮する必要がある」とした。

 また、ここでは、課税リスクについても説明。「仮想通貨には消費税の課税がない。数年前には仮想通貨は価値がある情報であり、モノと同じなため、消費税が課税されるべきという議論もあったが、仮想通貨は決済手段であり、モノと認めると二重で課税することになるとして、法律上、非課税であることを明確に決定した。一方で、所得税については、雑所得の1つに含まれると判断され、値上がりした場合には税金を支払うことになる。また、株式とは異なり、損益通算、損失の繰り延べの適用がなく、前年に比べて利益と損失が激しく振れても、アンバランスが解消されない」とし、「価格の変動が大きいため、損益通算、損失の繰り延べの適用がないと仮想通貨が普及しにくくなり、日本で事業を行うことを避けようという判断が働くことにもなる」と指摘した。

 さらに、仮想通貨は、同時履行の確保(ファイナリティ)にもリスクがあるという。

 一般的な銀行口座での取り引きでは、口座に着金されたことで決済が完了するが、仮想通貨では、1ブロックがマイニングで生成されても、その時点ではファイナリティされていないというのが一般的な判断だ。「法的な規制ではないが、6ブロックのマイニングが生成されたことによって、ファイナリティが認められるという判断が成り立っている。ただ、マイニングには時間がかかり、1ブロック10分だとすれば、最低でも60分間は待たなくてはならなかったり、混み具合によっては、1日以上かかったりする場合もある。ファイナリティの認定に時間を要することはリスクといえる」と語った。

 また、コインチェックの例のように、交換所に対する行政処分によって、決済サービスが中止になり、使えなくなってしまうリスクも指摘した。

 さらに、コインチェックのNEM流出によって発生した「盗難コイン」についても説明。「このときには、盗難されたコインは、マーキングされた状況になったが、盗難マークが付いたものを受け取っていいのか、断るべきか。あるいは、受け取った場合に、所有者から指摘された場合には返さなくていいのかという課題がある」とし、「日本の法律では、盗んだものを譲り受けたら、譲り受けた人も犯罪に問われるが、情報や権利といった無形物は対象外になっており、仮想通貨も物理的なモノには該当しないと判断できる」と説明した。

仮想通貨交換業者に関する法規制

 一方、仮想通貨交換およびサービスを行う仮想通貨交換業者に関する法規制についても言及した。

 「仮想通貨と日本円の交換、仮想通貨と仮想通貨の交換が行える交換業者は、日本が世界に先駆けてライセンス制を導入し、金融庁への登録が必要になっている。交換業者は、単に通貨を交換するだけでなく、新規のコインの発行も行えるため、多くの企業が仮想通貨交換事業をやりたいと考えているが、利用者の被害や、今後、社会的問題が発生しないことを目的に、登録のためのハードルが高くなっている。銀行ほどではないが、一定の規模や体制が求められていること、さらに登録のための審査に時間がかかるようになっているのが実態だ。そのため、日本で登録をしたがらない企業が増えている」という。

 仮想通貨交換サービスは、ほぼオンラインで完結する。そのため、「日本では営業していなくても、日本のユーザーが数多く使っている場合」には日本での登録が必要なのかという点でも不透明なところがあるという。

 「仮想通貨交換業者にとってみれば、海外で行っているサービスを日本人が勝手に利用しているために、日本での利用比率が高くなったという言い方できる。どこの国の規制をどこまで適用するかが明確ではなく、本当はライセンスが必要かもしれないのに、それが行われていないサービスが日本で流行っている。日本で登録している事業者からは不公平感の声が出ている」と述べた。

 さらに、多くの交換業者が超高収益性であることを指摘する一方、手数料がないために有利だと思って契約したら、その分、レートが高いなどの状況が生まれており、「現時点では、資金決済法上の利用者保護というところまでは達していないが、こうした動きを金融庁が悪質と考えたり、消費者契約法の有利誤認に当たると判断したりすると、新たな法規制の可能性もある」と指摘した。

 なお、決済サービスだけを提供している場合には、為替取引サービスとして、100万円以下は資金移動業登録だけで済み、銀行業免許は不要。だが、仮想通貨の決済サービスについては為替取引に該当していないため、仮想通貨のウォレットサービスのようなものが行いやすい状況にあるという。

仮想通貨の発行とICOに関するリスク

 仮想通貨の発行に関するリスクについても説明を行った。

 「新たに仮想通貨を発行したり、それによって資金を調達する場合、発行したトークンが資金決済法に該当するものであれば、仮想通貨交換業者の登録が必要であったり、仮想通貨交換業者に委託する必要がある。また、新たなコインの適切性については、金融庁に事前に相談し、OKを出してもらう必要がある。これをホワイトリストと呼んでいる。一方で、海外で先にコインを発行して、その実績をもとに、クラッキングを受けないコインであるなどとして、認可をしてもらうといったこともあるだろう」とした。

 ただ、「ICOを行う立場の企業から見ると、日本では資金決済法に基づいて登録が必要であること、ホワイトリストに載る必要があるというハードルに加えて、発行した時点で利益を計上すると大きな税金が課せられる場合がある。そのために、日本での発行をやめるというケースも聞かれる」とした。

 また、法定通貨と関連性が高く、利益の配当がある場合には、金融商品取引法によって集団投資スキームに該当する可能性もあるという。

 「これは有価証券などの従来型の投資に対して登録が必要であるというもので、その中に仮想通貨は含まれていない。だが、これを潜り抜けるような動きもあり、金融庁が注意勧告を出しているケースもある」と警告した。

仮想通貨の貸し借りに関する法規制の現状

 さらに、仮想通貨の貸し借りに関する法規制の現状にも触れた。

 日本円を貸す場合には、貸金業法のライセンスが必要だったり、上限金利を定めた利息制限法への対応が必要であったり、日本円を預かる場合には、出資法に抵触する。

 「だが、仮想通貨にはこれらについて規制がないため、ライセンスが不要であり、上限金利の適用も設定されていない。出資法に抵触することもない。これは、今後、国会でルールを決めることになるだろう」とした。

 また、仮想通貨の差し押さえ不能リスクについても言及。「例えば貸金を返してもらえない場合には、不動産や銀行預金の差し押さえができるが、仮想通貨を差し押さえようとしても、秘密鍵を取り上げるという強制的手段がないため、実効性がなく、差し押さえから逃れる手段ともなる。債権者にとっては迷惑であり、債務者にとっては逃げる方法になる」と苦言を呈した。

 最後に三平氏は「かなり広い範囲で、従来の法律がそのまま当てはまらなかったり、解釈が決まっていなかったり、無理やり当てはめてもおかしい状況になることが多い。今後、有識者会議などでの議論を通じて、ルールが作られていくことに期待しているが、いまのところはあいまいなものが多く、悪く言えば抜け道が多い。技術面で工夫をしていくことも必要だろう」と、法的観点から仮想通貨の課題を指摘した。

 なお、「ブロックチェーンでビジネスが変わる~技術動向、ビジネス変革~仮想通貨の最新動向から危機管理まで」の内容は、別記事でも紹介している。