インタビュー

仮想通貨を取り巻く状況「規制が厳しかろうが本物のイノベーションは未来を変える」~マネーパートナーズ奥山泰全社長インタビュー

 仮想通貨交換業の登録業者である株式会社マネーパートナーズの代表取締役社長、奥山泰全氏に話を聞いた。仮想通貨のマネーゲームには興味はなく、その背後にあるブロックチェーンの未来に可能性を感じていると語る。

株式会社マネーパートナーズグループ代表取締役社長/株式会社マネーパートナーズ代表取締役社長の奥山泰全氏

――仮想通貨を取り巻く状況をどのようにご覧になっていますか。

 マネーパートナーズは、日本で第1号(関東財務局所管の中で登録番号が第00001号)の仮想通貨交換業の登録を受けました。私たちは今、仮想通貨交換業の自主規制団体(一般社団法人日本仮想通貨交換業協会)の設立準備中です(※インタビュー実施日が2018年4月13日で、この段階では設立準備中だった)。

 2018年4月10日には金融庁で「仮想通貨交換業等に関する研究会」という有識者による研究会が開かれました。この会ではICO(Initial Coin Offering、仮想通貨発行による資金調達)について日本として制度を作るべきとの声が上がっています。実需、決済、利用とバランスを保たないといけないという声が上がっています。

 参議院で4月12日に開かれた財政金融委員会では、麻生大臣が「日本で仮想通貨のデファクトスタンダードを作りたい」と答弁しました。業界ルールの構築などをいち早く進めていけば、日本は世界でリーダーシップを発揮できます。ブロックチェーンについても世界の先進国になれます。

――仮想通貨をめぐる制度作りの検討が進んでいますが、前向きに捉えてるというかたちですね。仮想通貨のどこに魅力を感じているのか、お聞かせください。

 仮想通貨に関して大事なのはブロックチェーンです。インターネット上の通信層の上のレイヤーに乗るノードが群を成すことでブロックチェーンのネットワークが成立します。このブロックチェーンには大きな可能性を感じています。

 仮想通貨と(パブリック型)ブロックチェーンは切っても切り離せない。さまざまなブロックチェーンがきちんと動くためにも、仮想通貨が円滑に流動性を持ってやりとりされることが大事です。そこで法定通貨とのブリッジがどれだけ円滑にできるか。そこが大事な課題になってくる。それをきちんとできるようにするには、仮想通貨交換業となる取引所の存在が重要視されています。

 仮想通貨は最近はマネーゲームの材料になっています。「自分の買った銘柄の価格が何倍になったぞ」と自慢するような雰囲気があります。しかしマネーゲームのために仮想通貨があるのではありません。ブロックチェーンのために仮想通貨がある。そう考えています。

――ブロックチェーンの可能性について、どのように見ていますか?

 インターネットは通信の革命、ブロックチェーンはデータの革命だと思っています。通信のレイヤーの上にデータを分散して保持できる。やがてデータはネットにあって当たり前になるのではないかと想像しています。

 今、GoogleやAmazonなどIT大手はクラウドに注力しています。しかし現段階ではそれぞれの企業が独自に自分たちのクラウドを展開しています。将来は、今のインターネットが公共的な通信インフラになっているように、データのレイヤーが分散化されて公共インフラとして成立する時代が来る。ブロックチェーンはそうした時代のコアの技術、アーキテクチャになると見ています。

――そう感じるようになったきっかけはありますか?

 ブロックチェーンに注目した1つのきっかけは、ビットコインのブロックチェーンネットワークはすごいなということ。これが1つの引き金でした。ビットコインには、18世紀に蒸気機関が発明されて産業革命が起きたときのようなインパクトを感じています。

 ただし、今はワットの蒸気機関は使われておらず、その後に登場した内燃機関が主流です。ビットコインも、やがてもっと良いものに取って代わられる可能性があると思います。その過程で用途別にさまざまなブロックチェーンができていくのではないかと予想しています。例えば不動産の登記のためのブロックチェーンや、友達のお誕生日会のための期間限定ブロックチェーン、自動車のカーナビに入っていて個人の移動経路を確保し続けるブロックチェーンのような、多種多様なブロックチェーンがあっていいと思っています。

――例えばEthereumの上で流行した「CryptoKitties」は『猫集めゲーム』用のブロックチェーンとも言えますね。ここで別の質問をさせてください。暗号通貨/仮想通貨の世界でよく言われていたことは、秘密鍵を自分で管理する自己責任の世界ということでした。しかし最近では仮想通貨取引所に資産を預ける個人投資家を保護するために、仮想通貨取引所を厳しく規制する動きがあります。これは大きな変化ではないでしょうか。

 規制強化は正しいことです。例えば自動車をエンジンやパーツがバラバラの状態で売っていても普及しない。普及させるには一般の方々が利用しやすいかたちに変えないといけない。例えばビットコインはアドレスを1文字間違えると届かないしキャンセルもできませんが、それをそのまま提供するだけでいいのか。仮想通貨交換業のサービスがより安心で使いやすくなれば、多くの人々に使ってもらえるようになります。

――どのような道筋で、一般の人々が使うようになるでしょうか?

 まず技術革新によるイノベーションは自由に進めていけばいいと考えています。

 その一方で、技術以外の側面もあります。私は金融機関が長かったので、お金に関するトラブルを嫌と言うほど見てきました。お金に関わる問題は技術だけでは解決できません。人間の欲が関わってくるし、詐欺行為のような悪質な行為をする人もいます。技術によって安全性を高めることはできるかもしれませんが、人間が関わる部分の環境整備が必要です。

 少なくとも(仮想通貨や仮想通貨交換業について定めた)改正資金決済法の範囲内だけでも自主規制のルール整備を急がないといけません。そうでないと仮想通貨の信頼が地に墜ちてしまう。ここには危機意識を持っています。そこで16社の仮想通貨交換業者が新しい自主規制団体を作るべく新団体を作ることで合意したことは、いい動きだと考えています。

――最近の日本の仮想通貨分野では規制の強化、ブレーキをかける話題が目立ちます。アクセルを踏める時期は来るでしょうか?

 私は規制業種で25年間経営者をやってきました。伸びるものは伸びる。ルールを嫌がっていてはいけません。

 仮想通貨が「おもちゃ」止まりなら、規制が厳しかろうと緩かろうと、いずれなくなります。本物だったら、国がどう厳しく規制をかけようが、社会的に普及して一般化していく流れは止められません。インターネットが普及したのと同じです。私はブロックチェーン、イコール仮想通貨の発展を信じて疑わない立場です。

 仮想通貨に見ている夢は、価格が何倍になるといったマネーゲームではなく、イノベーションです。未来が変わるという夢です。マネーゲームをやるために仮想通貨交換業社になったんじゃない。

――そうは言っても、奥山さんご自身も相場をビジネスにしてきたのではないでしょうか?

 相場について話し始めると長くなりすぎるので、簡単に言いますが、投資と投機は両方必要です。スペキュレーター(投機筋)は自らリスクを取って流動性を提供する大事な役割があります。

 ただし、ビットコインの大幅な値動きにはなんの意味もありません。根拠なく売り買いが行われている様子を見ると「大丈夫かな?」と思います。これを是正するのは市場の監督者の役割ですが、業者が自主的にやっていくことも含めていろいろ考えていかないといけないと思っています。

星 暁雄(ほし あきお)

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。