「仮想通貨バブルの崩壊は、悪いことじゃない」gumi國光氏に聞く“熱狂のその先”

gumi國光宏尚氏

gumi社長の國光宏尚氏。

仮想通貨とブロックチェーンは、社会を大きく変える可能性がある一方で、まだまだ未成熟で過渡期の技術だ。それだけに、今後の展開を見通すのは簡単ではない。スマートフォン向けのゲームを提供するかたわらで、世界のブロックチェーン企業にも投資するgumi社長の國光宏尚氏に、「2017年の仮想通貨バブル」の見立てと、これからの仮想通貨業界について聞いた。

2017年の仮想通貨は、明確にバブルだった

—— 2017年の仮想通貨の価格の高騰をどうみていましたか?

バブルとバブルでないものは、明確に区別できると思っています。たまに過度に上がることがあっても、いいものが上がるのは、バブルではありません。UberやAirbnbの株価がどんどん上がっても、それはバブルじゃない。あの2社は本当にすごい。

いいものも悪いものもみんな上がるのがバブルです。2017年の仮想通貨の価格も、みんな上がりました。だから、バブルだったと思います。

バブルが崩壊したのは、悪いことではないと思います。おカネは集まりにくくなり、より優れたコンセプト、より優れたチーム、より優れた実行力が求められています。本当に世の中に役に立つものをつくるフェーズに移っていくと思います。とくにブロックチェーンについては、多くの起業家やエンジニアが、技術に注目してこれを活かすことを目指すきっかけになったという点では、バブルが起きたこともポジティブにとらえられます。

—— コインチェックは、使いやすいアプリで多くの人を引きつけました。

コインチェックは使いやすいですが、それ以上に、ほかの取引所のアプリが使いにくい。メルカリやLINE、ぼくたちがつくっているゲームの方が絶対に使いやすい。ネットの人たちからすれば、UI(ユーザーインターフェース)、UX(ユーザー・エクスペリエンス)を使いやすくするのは当然です。とりあえずやってみて、失敗したら早く改善しようというのが、インターネットの文化です。だから、資産の保全の方がおざなりになってしまっていた。

一方で、金融機関系の人たちは、使いやすさは分かっていないけれど、資産を保全する点で、ユーザーと向き合っている。ユーザーとの向き合い方が根本的に違うのではないでしょうか。取引所のビジネスは、ネット的なサービスと、金融機関的なサービスの二つが交わっていくことがすごく重要になる。バブル的な急成長の中で、体制の整備が追いつかなかったというのは、少し不幸だった面があると感じます。

「ブロックチェーン技術が世界を変えるのであれば、非中央集権という概念がすさまじく重要」

bitcoin

5月16日時点の、過去10カ月のビットコインチャート。bitFlyerより。

—— 仮想通貨はいまのところ、日常の生活で気軽に使えるようにはなっていません。

スマートフォンでゲームができるようになったときに、最初はみんな、家庭用のゲームやPCのゲームをスマホで遊べるようにしました。でもこれらは全くはやらず、最終的には、パズドラとかモンストといった、スマホならではのコンテンツが受け入れられた。だから、世の中を変えるサービスが出てくるとすれば、やはりブロックチェーンでないとできない事をやるところが伸びてくると思うんです。

リップルという仮想通貨がありますが、既存の国際送金システムのSWIFTでできることを、ブロックチェーンでやるのは意味が分からない。SWIFTに問題があるのだったら、SWIFTを改善すればいい。公文書の改ざん問題で、政府の文書管理にブロックチェーンを使うという話も出ていますが、理解できません。入力する人が改ざんしただけの話です。ブロックチェーンでも、他のシステムでも、入力する時点で改ざんされたら意味がない。運用を改善すればいい。

ビットコインの本質を考えると、三つの特徴があります。

  • トラストレス
  • 自律的
  • 非中央集権

日本の場合、日銀や日本の政府が通貨の信用を保証しています。楽天ポイントは楽天、アマゾンのポイントはアマゾンが信用を保証しています。これに対して、ビットコインは信用を保証する人がいません。

これがトラストレスです。ビットコインの場合は、だれから頼まれるわけでもなく、多くのマイナーがマイニングをする形で、自律的に動いている。楽天、アマゾンは、完全に中央集権ですが、ビットコインは非中央集権で動いている。トラスレスで自律的で非中央集権的に動くネットワークが、ブロックチェーンでないとできないことの本質ではないかと思っています。

—— いま、何からの非中央集権化が求められているのでしょうか?

もし、本当にブロックチェーンというテクノロジーが世の中を変えていくのであれば、非中央集権という概念がすさまじく重要です。

ひとつは国家、もうひとつは、GAFA(グーグル、アマゾン、Facebook、アップル)とかBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)といったネット列強からの非中央集権化が求められていると思っています。仮想通貨でおもしろかったのは、シリコンバレーが出遅れたこと。仮想通貨は、ロシア、東欧、中国などから火が着いた。国家や自国の通貨に対して、極めて信用が薄い国々で、大きな動きがはじまりました。自分がロシア人や中国人だったら、資産を自分の国に置き続けるのはいやです。

中央集権も非中央集権も、過度に行き過ぎるのは、どちらもよくない。国家もネット列強も、過度に中央集権に行きかけているんだと思います。私たちの自由とか権利が、国家に侵害されるのは絶対に避けるべきです。

いま世界を見渡すと、独裁みたいな国ばかりになっています。北朝鮮の金正恩はまさにそうだし、気づけば中国も独裁的です。アメリカのトランプ大統領だって、どうなるかわかりません。

そこにAI(人工知能)が入ってくると、もう最悪です。すべてが監視社会になる。携帯のGPSで、どこに行って、だれと会って、金を何に使ったかがすべて見られる。それが最終的に政府に管理される可能性もあります。ぼくらが歴史から学ぶことができるのは、権力はいつか腐敗し、暴走するということです。そういうリスクは常に考えないといけない。

■5/30開催:BIのイベント「仮想通貨の新ルール 〜コインチェック事件を経て、これから何が起きるのか」はこちらから

ブロックチェーンは人々の「欲望」で成立するようにデザインされている

國光宏尚氏インタビュー

國光氏は、ブロックチェーンの非中央集権の概念が「凄まじく重要」と語る。

—— こうした流れの中で、ブロックチェーンでできることとは?

ぼくらが投資をしているTHETAという会社は、動画の配信を非中央集権化しようというサービスです。既存の動画配信は、中央集権化されたサーバーから、PCやスマホに動画を送っています。

でもTHETAは、みんなのPCや携帯の回線が余っているから、それをシェアすれば、中央にサーバーはいらなくなると考えています。

いまのユーチューブとか、ニコニコ動画ぐらいの画質なら、中央集権のサーバーでもできます。これから動画の画質が8K、VRになると、データの容量が100倍に跳ね上がります。そうなると、サーバーの代金は払いきれません。

そこで、みんなの余った回線をシェアする発想で、サービスの開発を進めています。

分散型のP2Pのサービスは昔からありますが、人はわがままだから、自分が使う時は使っても、他人には協力しなかった。でも、トークンエコノミーの面白いところは、協力するといつの間にかトークンが手に入る。

ビットコインのマイニングも、人々の欲望でネットワークが成立しています。回線をつなぎっぱなしにしておくと、気づいたらトークンが入ってくる。そういう仕組みでネットワークを成立させようというのが、おもしろい取り組みだと思っています。

中央集権化することで、大きくもうけてきたのは、GAFAや仮想通貨の取引所です。それを非中央集権にしていくことが、大きな流れだと思っています。

※ビジネスインサイダーは、これまでの取材成果をまとめた新書『知っている人だけが勝つ 仮想通貨の新ルール』 (講談社+α新書)を発売しました。同書では、國光氏のインタビューの完全版も収録。

ゲームの世界で唯一できなかった「お金を稼ぐ事」をブロックチェーンは解決するかもしれない

—— ゲームにブロックチェーンを活用するのも、いろいろと妄想が膨らみます。

デジタルデータは、コピーし放題ですから、コンテンツの価値がゼロになってしまいました。ネットをあちこち探せば、見たい動画はどこかに落ちています。でも、探すのは面倒くさいから、月々いくらで見たい動画に簡単にたどり着けるサービスを売っているのが動画配信のNetflixや、音楽配信のSpotifyです。

ビットコインはただのデジタルデータなのに価値があるのは、コピーができず改ざんができず、ユニークだからです。だから売買が成立するんです。

ぼくたちは、たくさんのカードが出てくるゲームをつくっています。ゲームの外で売買ができないのに、ユーザーはお金を出してくれます。

RPG(ロールプレイングゲーム)でも、それぞれの武器や防具がコピーできず、ユニークのものになると、それ自体に現実の価値が生まれます。ゲームの中ではすでに、やりがいを感じ、目標に到達した達成感も得られます。ゲーム内で知り合って結婚する人だっています。唯一できなかったのはお金を稼ぐことでした。だから親には、ゲームをやっていると時間のムダだと怒られてしまいます。

でも、ゲーム内のアイテムが単一性を備えて、資産性を持ちうるようになると、ゲームの中でお金を稼ぐことだってできるはずです。

リアルの世界でお金を稼ぐのが得意ならば、そうすればいい。でも、ゲームが得意なら、モンスターを狩って武器を手に入れて、それを売って生計を立ててもいい。複数のゲームの世界のような、様々な仮想空間のコミュニティと現実を行き来しながら、複数の人格を持って、それぞれのコミュニティでお金を稼ぐこともできるようになるかもしれません。

もしかしたら、それは、それぞれの人が自分に合ったコミュニティを見つけやすく、今よりもずっと生きやすい世界かもしれません。

みんな、短期でできることを過大に評価して、中長期的にできることを過小評価する傾向がありますが、いまのブロックチェーンができることは限られています。記録できるデータの容量が小さすぎます。

でも、テクノロジーは進化します。いまは無理でも、みんなが努力を重ねていくことで、少しずつ様々な使い方が形になり、5年、10年かけて世界は変わっていくのだと思っています。

(文・小島寛明、写真・今村拓馬)


新書発売を記念して、5月30日19時から国内外の仮想通貨・ブロックチェーン事情に極めて詳しい論客のお二人を招いて、徹底議論するトークイベントを開催します。どうぞふるってご参加ください。(下の画像をクリックするとイベントページに遷移します)

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