とても便利だと喜ぶ人がいたり、一晩で580億円分が盗まれたり、「仮想通貨」が話題になっています。「通貨」と名前がついているけど、お金とは違うのでしょうか? 知りたいんジャーが仮想通貨を探ります。【斎藤広子】
仮想通貨って、お金とどこが違うの?
仮想通貨には「通貨」という名前がついていますが、円やドルなど私たちがふだん使っているお金の仲間ではありません。
お年玉やお小遣いでもらったお札(紙幣)をよく見てください。「日本銀行券」と書かれています。日本の紙のお金は日本の中央銀行である日本銀行が発行しています。
円やドルは「法定通貨」と呼ばれ、国の中央銀行が発行し、その量を管理して、価値を保っています。こうした仕組みを作った国への信用が、お金の価値を支えているのです。
一方、仮想通貨にはお札や硬貨のような形はありません。インターネットを通じて取引される「デジタルのお金」です。国の中央銀行ではなく、「ブロックチェーン」と呼ばれる新しい技術を使い、企業や個人など複数のコンピューターが参加するネットワークが管理して偽物が作られたり、勝手に量を増やしたりできないように監視しています。
仮想通貨は交換業者という会社を通じて円やドルと交換できます。世界共通なので、海外にお金を送ったり、海外旅行で使ったり、国をまたいでお金のやりとりをするのに便利です。しかし、国による信用の裏付けはありません。
電子マネーとは違うのかしら?
お札や硬貨を使わずに買い物ができるものには「電子マネー」もあります。多くがあらかじめ入金(チャージ)してから使います。あくまでも法定通貨である円をデータ化したもので、「円の仮の姿」。チャージした100円は、100円玉と同じ価値です。
一方、仮想通貨の価値はまたたく間に変わります。なぜなら、仮想通貨を信頼する人たちの人気の度合いで、仮想通貨の価値が決まるからです。例えば、仮想通貨で最も有名な「ビットコイン」の価格は、2017年初めの「1ビットコイン=10万円前後」から、12月には「1ビットコイン=220万円程度」まで上がりました。しかし、今年1月半ばに半値以下に急落するなど、不安定です。
仮想通貨の仕組みは誰が発明したの?
世界初の仮想通貨「ビットコイン」は2009年に登場しました。仕組みを支える「ブロックチェーン」は、「サトシ・ナカモト」というナゾの人物が書いた論文をもとにしています。日本人のような名前ですが、国籍も性別もわかっていません。
この論文が発表されたのは08年10月で、世界中の景気が悪くなった「リーマン・ショック」の直後でした。きっかけを作った巨大な銀行や、それをコントロールできなかった中央銀行、政府への不満が大きく膨らんでいた時です。
サトシ・ナカモトも、国が管理するこれまでの通貨に疑いを持って、仮想通貨の仕組みを考え出したのではないかと考えられています。
どうして一晩で580億円分も盗まれるんだ!?
今年1月、仮想通貨の交換業者「コインチェック」(東京都)から、仮想通貨の一つ「NEM」が約580億円分も流出するという事件がありました。
1万円札の重さは約1グラムです。580億円は約5・8トンにもなり、お札で盗み出すのは一苦労ですが、ネムは不正なインターネットのアクセスで、一晩で盗まれてしまったのです。
客から預かった仮想通貨は、ネットにつないだコンピューターに保管してはいけなかったのですが、コインチェックはルールを守っていませんでした。
流出したネムはどこに行ったのでしょうか。今年の3月までに全て、ビットコインなど、ほかの仮想通貨に換えられたとみられています。
悪いことに使われないかしら?
仮想通貨は麻薬や銃の取引に使われたり、犯罪で得たお金の「マネーロンダリング」(資金洗浄)に使われているという指摘があります。マネーロンダリングは犯罪です。お金を口座から口座へと移すことで出所をわからなくさせて、正当に手に入れたお金とみせかけることです。
そこで日本は法律を改正しました。2017年4月から、仮想通貨の口座を作る人について、その人が誰かをしっかり確認することを交換業者に義務づけました。しかし海外には、本人を確認する書類がなくても、口座を作ることを許す交換業者もいます。犯罪グループがこういった海外の交換業者を利用してマネーロンダリングすると、日本の法律で取り締まることはできません。国際的に協力して、悪用させないようにしようという動きが進んでいます。
◆?知りたいワード
ブロックチェーン
「ブロック」とは、仮想通貨の取引のデータを入れたものです。小遣い帳のような帳簿と考えてください。取引が増えると、小遣い帳はページが増えていきます。増えたページは、取りはずせないチェーン(鎖)でつないでいきます。さらに、この小遣い帳と同じ内容のものを、ネットワークでつながったコンピューターがそれぞれに保管します。
ブロックチェーンにより、取引のデータを捨てたり、書き換えたりできないようにして、仮想通貨の信用をみんなで守るようにしているのです。