コラム:的を射たBISの「仮想通貨懐疑論」

コラム:的を射たBISの仮想通貨懐疑論
 6月18日、国際決済銀行(BIS)がビットコインなどの仮想通貨に懐疑的な姿勢を示したことについて、驚くべき要素は乏しい。写真は仮想通貨のロゴが描かれたクッション。ニューヨークで5月撮影(2018年 ロイター/Mike Segar)
Tom Buerkle
[ニューヨーク 18日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 国際決済銀行(BIS)がビットコインなどの仮想通貨に懐疑的な姿勢を示したことについて、驚くべき要素は乏しい。世界の中央銀行の政策協調機関であるBISは、本質的に保守性が強い。BIS当局者はかつて、米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が金融危機後に開始した債券買い入れというアイデアにさえ、疑問を投げかけた。しかし今回の場合、BISの指摘は的を射ている。
BISはこのほど公表した最新の分析で、デジタル通貨は通貨として3つある利便性の尺度を1つも満たしていないと断言した。これらの通貨は相場が振れやすく、法定通貨の代わりとしては心もとない。取引が普及するには比較的安定した価値を持つことが必要になるからだ。また同じ理由から投資目的でも保有しにくい。さらにブロックチェーン(分散型台帳)を通じて取引記録を常に更新しなければならず、実用性を損ねている。
ビットコインのインフラにおける取引処理は、同じ時間で比べればビザなどの従来型の決済システムが取り扱う量のほんの一部程度にすぎない。おまけにエネルギー消費があまりにも大きい。BISの推計では、ビットコインの取引だけでスイス全体の電力消費量に相当する。
これらの問題に目新しさはないが、BISがそれを詳しく提起したのと軌を一にするように、17日夜から18日午前にかけてビットコインとイーサという2大仮想通貨の価格が下がった。両通貨は先週、米証券取引委員会(SEC)幹部が仮想通貨取引自体は証券関連規制は及ばないとの見解を示したことを受け、小幅上昇していた。
一方でSECのクレイトン委員長は、仮想通貨発行による資金調達(イニシャル・コイン・オファリング=ICO)は、その大半を規制対象とするべきだとの考えを打ち出している。コインリブによると、ICOはこれまでに4000件以上が実施され、発行された仮想通貨の時価総額は3000億ドルに迫る規模だ。
BISは、仮想通貨の枠組みを完全に破壊しようとしているわけではない。例えばブロックチェーン技術が貿易金融の円滑化に役立つ可能性は認めている。カナダ銀行(中央銀行)に至っては、決済のスピードと安全性を高めるためにブロックチェーン技術をどう活用するか調査するプロジェクトを立ち上げた。
ドルやユーロ、円などの法定通貨にとって、一部の仮想通貨推進派が唱えるような創造的破壊の機はまだ熟してはいないかもしれない。とはいえ、新技術が法定通貨の利用に対して補完的な役割を果たす余地は十分にあるのではないか。
●背景となるニュース
*BISは17日公表した年次報告書で、ビットコインなどの仮想通貨はドルやユーロといった中央銀行の裏付けがある通貨の代替性には難があるとの見方を示した。伸び続ける需要に対応しておらず、過度のエネルギーを消費し、値動きが極めて激しいからだ。
*デジタル通貨は、新規発行と取引記録承認のために、いわゆるブロックチェーンを通じた複雑なコンピューター上の作業が必要になる。こうした作業は、ビットコインだけで年間60テラワット/時を超える電力を使う。BISの推計では、これはスイスの電力消費量にほぼ匹敵する。半面、ビットコインとイーサの取引を支えるネットワークでは、1秒当たりの処理速度はビザやマスターカードなどの従来型決済システムの1000分の1程度にとどまる。
*SEC企業金融局のウィリアム・ヒンマン局長は14日、イーサリアム・ネットワークが支えるイーサの配布や売却は、有価証券取引に該当しないと述べ、こうした取引はSECの承認を必要としないことを示唆した。
*ヒンマン氏が言及したのは、ビットコインとイーサの配布と売却で、これらの通貨創造に伴う資金調達ではなかった。SECのクレイトン委員長は今月、ICOとして知られる新規資金調達の大半は、SECの規制範囲に含まれると主張している。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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