藤本健のソーラーリポート

ブロックチェーンで“再エネ電力100%宣言”にチャレンジする「みんな電力」

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 2月末に「ブロックチェーンで再エネ取引」「電力P2P取引プラットフォームを開発」といったニュース記事が出て、これはどういうことなんだろう……、と気になっていた。話題のビットコインのベースとなる技術「ブロックチェーン」を、電力と結び付けようとしているのが、東京・世田谷にある新電力の「みんな電力」だ。

 同社は2016年4月の電力自由化スタートのタイミングから、「顔の見える発電所」をキャッチフレーズに太陽光発電を中心としたFIT電力を扱う新電力としてサービスをスタートし、多方面から注目を集めている会社でもある。そのみんな電力がブロックチェーンとどう関係しているのか、電力P2P取引とはどういうことなのか、同社の取締役・事業本部長の三宅 成也氏に、いろいろと話を伺ってみた。

みんな電力 取締役・事業本部長・三宅 成也氏

電力の生産者を選べることで、「顔の見える電力」を実現

――実は「みんな電力」には5~6年前に話を聞きに来たことがありました。ただ、その時はまだ設立して間もない時期で、本格的な事業についても準備中という段階でした。

三宅:当社は2011年3月11日の震災直後の5月に設立した会社です。代表取締役の大石 英司が凸版印刷から独立する形でスタートさせ、当初は数名でやっていました。2016年4月の電力自由化を見据えてのスタートだったわけですが、私自身はその2016年に入社しています。一般的に電力自由化では、ユーザーが価格で電力会社を選べるようになったといわれており、各社とも価格競争を行なっています。それに対し、当社は「顔の見える電力」というサービス名の元、電力の生産者を選べることを大きな特徴としています。

――電力の生産者を選べる、というのはどういうことですか?

三宅:電力の生産者、電力を発電をしている人はいろいろいます。さまざまな企業が発電していますし、公共団体で発電しているところもあります。またFIT制度がスタートしたことで、個人でも作れるわけですから、有名人が発電したりもしているのです。以前は、そうしたことが知られていなかったですし、それを消費者に繋げる手段もありませんでした。そこで、みんな電力では、電気を買う側の人が、ふるさと納税のように気に入った発電所をポチッと押すことで応援できる仕組みを導入しています。これによって発電者には売電収入以外に応援金が行く仕組みを作ったのです。

電気を買う人が、気に入った発電所を応援できる仕組み

――農作物みたいですね。みんな電力は、そんなユニークなサービスを導入していたんですね。

三宅:発電所によっては、ふるさと納税のように応援のお礼がもらえるところもあります。たとえば長野県の場合、銀座のアンテナショップの商品券1,000円分がもらえたり、農家の発電所だと野菜がもらえたり……。市民発電所もいろいろあり、南相馬の発電所だと南相馬のカフェのチケットがもらえたりもしますね。

 一方、当社も自ら発電所を運営しているのですが、ここを応援してくれる方には「ドレミファSOLAR」というCDをプレゼントしています。実はこれ、ジャマイカのレゲエアーティスト「Lee“SCRATCH”Perry」に突撃取材をしたことがキッカケでできたCDなんですよ。「世界最先端の、発電できるステージ衣装です」とご本人に手渡すと、ウェアを着た途端、突然、覚醒したかのように太陽に向かって叫びだし、歌い出したんです。最後には「曲を一緒につくるかい?」という信じられないオファーまでいただき、日本からも複数のミュージシャンが参加する形でできたCDです。

みんな電力の発電所を応援するともらえるCD「ドレミファSOLAR」

FIT電力とグリーン電力の明確な違いが明らかに

――ところで、みんな電力が供給する電力のどのくらいの割合が再エネを使ったものになっているのですか?

三宅:79%程度が再エネであり、足りないときにそれ以外のものを使っています。現在、うちの電力を利用してくださっているお客様は個人で1,500くらい、法人で500くらいありますが、どんどん増えています。また発電所も増えてきており、現状は太陽光発電が中心ですが、長野県の水力発電所があったり、群馬県や川崎市のバイオマス発電所が入ってきたり、間もなく青森の風力発電所が入るなど、供給のほうも増えています。いずれにせよ、できる限り再エネを使った電力で賄えるようにしていきたいと考えています。ちなみに、当社の発電所はドレミファSOLAR発電所というのですが、FITではなく、グリーン電源なんですよ。

みんな電力の電力構成は、再エネが79%

――FIT電力とグリーン電力って、どのような違いがあるのですか?

三宅:FIT制度によって、多くの人たちが太陽光発電を始めたり、風力発電を始めるようになりました。ただ、FIT制度の原資は再エネ賦課金という形で国民全体が負担しているため、環境価値をうたって販売することは禁止されているのです。それに対し、FIT制度を使わずにそのまま売っているのがグリーン電力というわけです。もっともグリーン電力は現時点ではほとんど存在していない、というのが実情ではあります。当社では現在80弱の発電所がありますが、グリーン電力はこのドレミファSOLAR発電所のみですね。もっとも個人にとってはFIT電力なのか、グリーン電力なのかは、あまり気にならないかもしれませんが、企業にとってはこれが大きな意味を持ってくるケースがあるのです。

――企業にとっての意味とは、どういうものですか?

三宅:欧米では「RE100」と呼ばれるネットワークが存在し、再エネ電力100%を宣言することで企業価値を高めるという動きが活発化してきています。アップルやスターバックス、IKEA、P&Gなどなど約130社が参加しており、日本企業でもリコー、積水ハウス、アスクルなどが新たに加盟していて、今後さらにほかの国内企業にも広がる見込みです。

 欧米では、それに対応した再エネ電力を供給する制度が整っているのですが、先ほども言ったとおり、日本ではFIT電気は環境価値をうたって販売することは禁止されています。でもFIT制度を使わないグリーン電力であれば、ここに環境価値もあり、「RE100」が求める電力に完全に合致するわけです。その意味では、今後グリーン電力は大きな力をもってくるはずです。

 一方で、CO2価値は別途「非化石価値証書」というものを用いて取引できるようになっています。しかし、ここでは電源特定はなされないのです。つまりFIT制度の元では、日本では再エネ電気を直接買うことができない制度設計になっており、世界の流れに明らかに逆行する形になっているのです。石炭で発電した電気に非化石価値証書をペタッと貼り付けても、やはり正しい形ではないですよね。「RE100」を示すためには非化石価値証書の購入のみでは不十分と言われており、電源構成での「再エネ電源比率100%」が必要とされますから、まずはそうした形での提供からスタートしています。

「RE100」に参加している企業
「RE100」の要件を満たした「再エネ電源比率100%」を目指す

FIT期限切れの住宅は、ブロックチェーンを組み合わせて再活用

――とはいえ、電気って、いろいろな発電所からの電気が混ざってくるから、自分が使っている電気がFIT電気である、と言い切るのも難しいですよね。

三宅:そこでわれわれは、電気に色を付ける試みをしており、そのためにブロックチェーンを使っているのです。つまりどこで発電した電気を、どこで使ったかをわかるようにするわけです。もちろん、物理的にどう流れたかを調べたり、制御する手段はないのですが、「どこの発電所でいつ、どのくらい発電をしたか」と「誰がいつ、どれだけ使ったか」を割り振るというわけです。実際には、30分ごとに発電量や使用料をチェックしてトークンを生成し、事後に過不足なトークンを突き合わせることで、約定させるわけです。

ブロックチェーンを利用して、電気の発電所と利用場所が分かる仕組み

――なるほど、それが先日発表されていたブロックチェーンを用いた電力P2P取引というわけですね。

三宅:はい、このP2Pプラットフォームによって、低コスト化する再エネ電力をユーザーが有効活用できるという、まったく新しい電力販売の仕組みを提供したいと考えています。まずは当社が打ち出している「顔の見える電力」という電源応援の仕組みをこれでしっかり電源トラッキング可能にするとともに、FIT電気に先ほどの「非化石価値証書」を組み合わせることで「RE100」向けにサービスするといったことから始めていきます。今後はさらに、余剰再エネシェアリング、Virtual PPAと事業展開を進めていく予定です。

企業向けの電力販売イメージ
ブロックチェーンとP2P、クラウドファウンディングを組み合わせたVirtual PPA

――ちなみに、そのブロックチェーンは、具体的にはどのシステムを使っているのですか?

三宅:NEMを使っています。できるだけパブリックなものを使いたいと検討した結果、NEMがとにかく処理スピードが速く、価格的にも安くできるからです。1トランザクションあたり4円でトークンを発行できます。それなりの規模の発電所であれば、30分に1回のトークン発行が4円なら悪くないと思います。ただし、家庭用にそのまま適用すると割高になってしまいます。家庭用の場合は、30分に1回を1日に1回にするなど、運用方法は考えていく必要はありそうです。そうした仕組みを考えつつ、来年にはFIT期限切れの住宅が出てくるので、こうしたものを積極的に取り込んでいきたいですね。

――まさに、私の家がそれです。2019年問題ということで、少し話題にもなっていますが、先日、「経済産業省が2019年11月以降は無料で買い入れるように電力会社に要請した」というニュースを見て愕然としたというか、強い憤りを感じているところです。

三宅:FITが切れると、まさにグリーン電力となるわけですから、電気としての価値があるだけでなく同時に環境価値もあるという、非常に大きな価値になってきます。われわれとしても大変魅力のある電源です。個人的には、経産省が無料と言ってくれて、すごくよかったと感じています。やはり大手電力会社に任せるよりもイノベーションを起こしたほうがいい。こうしたFIT切れの電力をアグリゲートする事業者がいろいろ出てくることを期待しているんだと思います。また送配電事業者は接続すること自体は拒否しないと言っているのですから、われわれが吸い上げることが可能になるという意味でもあるのです。

――なるほど、物事はそうやって見るのですね。とはいえ、発電をしている側からすれば、そうした情報をしっかりと把握しておくことが必要です。何も知らずに放っておいたら、発電した電気が全部タダで電力会社に抜かれちゃうわけですから。実際、私が2019年11月以降、みんな電力に売っていくとしたら、どうすればいいのですか?

三宅:まだその辺がしっかり整っているわけではないのですが、近いうちに準備をしていきます。ただ、FITが切れた後だと、紙ベースで、非常に面倒な手続きを踏まないと切り替えることができません。ぜひ、ここはシステム化してほしいところですし、そうじゃないとFIT切れのグリーン電力を有効活用することができません。とりあえずスムーズに移行するのであれば、FITが切れる前に、契約を切り替えるのがいいですね。切れる前であれば、簡単に売電先を変えることができますが、FIT切れの後は、切り替えにどれだけの時間がかかるか予想もできない状況です。

――なるほど、そんな問題があったんですね。まったく知りませんでした。古くから太陽光発電をしている人で、2019年問題自体を知らない人も多いと思うし、早めに切り替えないと切り替えが難しいということを知っている人はほとんどいないと思います。

三宅:当社としても、なるべく早くアナウンスし、なるべく早めに切りあえてもらえるような準備はしていくつもりですので、ぜひお待ちください。

藤本 健