米有力VCが仮想通貨の専門ファンドを設立、これは業界の「お墨付き」を意味するのか?

米国を代表するヴェンチャーキャピタル(VC)のひとつであるアンドリーセン・ホロウィッツが、仮想通貨(暗号通貨)とブロックチェーンに特化したファンドを設立した。これは出資対象としてのブロックチェーンやICOなどに同社が注目していくという意思表示であると同時に、法的に不透明な部分が多かった仮想通貨がVC業界から「お墨付き」を得たともいえる動きだ。
米有力VCが仮想通貨の専門ファンドを設立、これは業界の「お墨付き」を意味するのか?
IMAGE: ANNA KOLESNIKOVA/GETTY IMAGES

米国を代表するヴェンチャーキャピタル(VC)のひとつであるアンドリーセン・ホロウィッツが、初の女性ゼネラルパートナーを迎え入れた。元連邦検事のケイティ・ホーンで、設立したばかりの3億ドル(約337億円)に及ぶ仮想通貨(暗号通貨)およびブロックチェーン専門ファンドの運営に当たる予定だ。

アンドリーセン・ホロウィッツはこれまでにも、仮想通貨取引所のコインベース(Coinbase)や、ブロックチェーンを使った猫育成ゲームのCryptoKittiesなど、この分野の企業に出資してきた。ゼネラルパートナーのクリス・ディクソンは今回の動きについて、今後もブロックチェーンに着目していく意思表明であると同時に、専門ファンドを設立することで出資に際して柔軟な対応が可能になると話している。

新しいファンドは従来型の資産だけでなく、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)で発行されるトークンといったものにも資金を投じる計画だ。つまり、企業そのものに加え、その企業が発行する仮想通貨にも投資するのだ。アンドリーセン・ホロウィッツの広報担当者は、新ファンドの出資者はこれまでに取引実績のある顧客だと述べている。

あの有名な2つの事件からの縁

ホーンと仮想通貨との関わりは、ブロックチェーン史上で最も有名な2つの事件から始まった。まずは、ドラッグなどの闇取引サイト「Silk Road」の捜査に当たっていた当局者2人の汚職を巡る裁判。そして、ビットコインの取引所を運営していたマウントゴックスの破綻だ。

2015年には米政府初の仮想通貨をめぐるタスクフォースの設立に携わった。ホーンはこのときの経験について、以下のように話している。「タスクフォースを立ち上げる過程で、この分野の起業家たちと協力することになりました。そして、ブロックチェーンを支える技術が世界を変えてしまうような力をもっていると理解するようになったのです」

この年には、スタンフォード大学のロースクールで同校初の暗号技術の授業を受けもった。分散型台帳の技術が進化し、さまざまな応用例が出てくるにつれ、ホーンがこの分野に抱く興味はさらに強まっていったという。このため、17年には検事を辞め、コインベースの取締役に就任している。アンドリーセン・ホロウィッツのパートナーと面識を得たのは、ここでのことだった。

自身は検察出身だが、VCが行なっている問題のありそうな出資を追求しようとは思わなかったと、ホーンは話す。むしろ、面白そうなプロジェクトを一緒にやってみたいと考えたのだ。ただ、アンドリーセン・ホロウィッツや出資先の企業にとって、彼女がもつ法律分野の専門知識が大きな資産となることは間違いないだろう。

投資家たちは慎重に立ち位置を模索

仮想通貨やブロックチェーンをめぐっては、いまだに法的に不透明な部分が多い。ICOの流行とも相まって、投資家たちは自らの立ち位置を慎重に探っている。

ICOでは企業が出資者にトークンを販売する。こうすることで、必ずしも経営権の一部を手放さなくても、資金調達を行うことができるのだ。シリコンヴァレーで最も有名なVCが仮想通貨に特化したファンドを設立したことで、まだ黎明期にある業界に一応のお墨付きが与えられたと言えるだろう。

トークンの発行による資金調達は依然として活発に行われており、ICOの統計サイト「CoinSchedule」によると、今年に入ってからの総調達額は114億ドル(約1兆2,820億円)に上る。なかには、VCなど投資家からの資金受け入れとICOを併せた、いわばハイブリッド型の資金調達に挑戦したスタートアップもあった。

例えば、分散型ストレージを開発するProtocol Labsは、一部の投資家たち(アンドリーセン・ホロウィッツ、セコイア・キャピタル、ユニオン・スクエアといった大手VCが含まれていた)に事前に5,200万ドル(約58億5,000万円)相当のトークンを販売し、続いて一般を対象にしたICOで2億500万ドル(約230億6,000万円)を調達している。

ディクソンは、アンドリーセン・ホロウィッツはスタートアップにICOでは得られないものを提供できると説明する。「出資する企業を支援するための専門チームが社内にあり、80人がこの業務に当たっています。規制への対応、人材確保、マーケティング、企業経営といった分野の専門家からアドヴァイスを受けることができるのです」

ディクソンはまた、「アンドリーセン・ホロウィッツは起業家にとって最良のパートナーであることを、常に示していく必要があると考えています。そう信じてもらえる限りは、彼らはわたしたちを選んでくれるしょう」とも話している。


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TEXT BY KLINT FINLEY

TRANSLATION BY CHIHIRO OKA