課題を解決しないテクはただのテク。
さまざまな分野をテクノロジーとまぜこぜするフェスティバル「Tech Open Air(TOA)」が、今年もドイツ・ベルリンにて開催されました。世界中テック・ヘッズたちが何を考え、何を作っているのか? そのツアーに参加した方々による報告会が日本にて開催されたので、グイっと首をつっこんできましたよ!
ちなみに今年はTOA(トーア)日本版も2018年4月26日に開催されていましたよね。様々な展示がある中、Avexのダンサー×モーションキャプチャー×レーザーはカッコよかった。あと先日クラウドファンディングを始めたホログラフィック・ディスプレイの「Looking Glass」も、ここで展示されていたりと、なかなかどうして、未来を捉えがちなフェスなのです。
では。ビールと音楽が流れ放題だったTOA本拠地ベルリンの屋外*フェスでは、どんな未来が語られていたのか? こちらもビールを片手にサクッと見ていきましょー!
*去年辺りから規模の拡大に伴って屋内の展示も増えています。
TOA:4つのフォーカス
報告会に登壇された方によると、TOAには「課題解決」「テクノロジーはツール」「ダイバーシティー」「多彩な領域」という4つのフォーカスがあったとのことです。
TOAにおいての課題解決とは、「このテクノロジーを使ってなにかしらの課題を解決しよう」ではありません。あくまでもテクノロジーはツールという観点で、「この課題を解決するのに最適なテクノロジーはなんだろう」、という考え方でした。
だから、ホチキスをもっているから何かをしようではなく、紙をまとめたいからホチキスを使おう。AIやブロックチェーンもただ使うのではなく、何かを解決するために使おうというわけです。なるほど、言われてみればそうですよね。
そして、解決しようという課題は、多彩な領域に渡っていたそうです。たとえば「スメルテック」。これはテクノロジーでニオイをコントロールしようという発想です。すぐにはイメージが沸かないかもしれませんが、ニオイに悩まされている人は「あの臭いをこうしたい! あれをこの匂いにしたい!」など、課題がたくさんありますよね。
でもこういった多様なトピックについて公平に語るには、多種多様な人間が必要。だからTOAでは女性のスピーカーが大変多かったりと、ダイバーシティーがしっかり実現されていたようです。
内容がとーっても濃いツアー
ここからは急ぎ足でツアーの報告会を振り返っていきましょう!
まず話題に上がったのは「AHOY!」。これはベルリンを代表するコワーキングスペースとのこと。コワーキングスペースは、リモートワークの「人との交流が減る」という課題が解決できる仕組みで、自宅やカフェでひとりで働くのではなく、いろいろな会社の人達と隣り合って働けるスペースなのです。でもセキュリティーはしっかりね!
続いて紹介されたのが、「Open Innovation Space」。こちらもコワーキングスペースなんですが、義手や義足といった医療器具の開発にフォーカスしたスペースになります。「究極のカスタマイズ」が必要とされる義手・義足を、速いテンポでプロトタイピング出来るのが人気なのだとか。
そして、ブロックチェーン技術にフォーカスしたスペース「FULL NODE」もあったそうです。様々なブロックチェーン・スタートアップ企業が入居しており、ベルリンの別名「ブロックチェーンの首都」を体現しているサービス。様々な勤め先のエンジニアがお互いを刺激しあい、オープンイノベーションの時代を一気に駆け上がろうとしているのでしょう!
次の報告は、ダイムラー社が抱えるメルセデス・ベンツの新ブランド「EQ」の出展でした。完全招待制だそうで、見られた人は限られてるかも。最先端のコンセプト電気自動車が展示してあったそうですよ。乗ってみたいですねぇ。
HOLZMARKTはベルリンに存在する、行政抜きで住民ら自らが都市開発をしている地区とのこと。スイス年金機構に土地をすべて購入してもらって、75年契約でリースしてもらいながら、バーの主人を先頭に様々な建築計画を進めているのだとか。今はアメリカのデトロイト市にこの仕組みを輸出したりと、注目の「オルタナティブ都市開発」だそうです。
次の話題は、タイポグラフィーの神様エリック・シュピーカーマンが個人で保有している出版社「p98a」でした。デジタルでデザインしたものをアナログなテクノロジーでプリントする会社だそう。詳しくはわかりませんが、多分デジタルとアナログのいいとこ取りをしているんですよね。
最先端のFinTechも
TOA18報告会でピックアップされたFinTechは、「スマホが当たり前の世代にとって、これからの銀行・保険・金融はどうなるんだろう」に尽きました。スマホが当たり前な世代はこれから増えるばかりなので、この話題は食いいいるように聞いちゃいました。
まず報告に上がったのは、「N26」。チャレンジャーバンクとも呼ばれている、新時代の銀行のひとつだそうです。こちらはスマホがあれば8分で口座が開設できるという最先端っぷりがウリらしく、「えぇ、大丈夫なの?」とちょっと心配になりそうですが、一般ベルリン市民には受け入れられ初めているといいます。
その裏には、「テクノロジーは大事だけど、成功したのはマーケティングのおかげだ」といういう、キワモノなテクノロジーから一般的なサービスに移り変わるための努力があったみたいですよ。
続いて紹介されたのは、完全オンラインの保険「ottonova」。入院中の患者とのコミュニケーションを、「リモート主治医」のようにチャットで済ませちゃうのだとか。対面じゃなくてもいいよね、という一般生活では当たり前の認識を保険に取り入れているんですね。賛成です。
お次は「Funderbeam」という、公開前の株式をブロックチェーンで取引できるサービスでした。「IPO is so yesterday」→「株式公開ってものすごい大昔よ」と豪語するCEOのもと、よりオープンな金融のあり方として成長を続けているいみたい。
マイナーな仮想通貨も取引されやすい状態にするプロトコル「Bancor」は、個人的にすごく「なるほど!」となりました。仮想通貨には多くの利点がある一方、誰でも発行できるので、利用者が足りない(流動性の低い)マイナー通貨がたくさん生まれていますよね。登壇者の方はこれを「仮想通貨のロングテール化」と呼んでいました。
Bancorはこの課題を巧みな仕組みを使って解決しようとしている、として、今とっても注目を集めているのだそうです。
世界のテック・ヘッズたちはこんなことをやったり、考えていたんですねぇ。テクノロジー・ファーストではなくヒューマン・セントリック。人が抱える課題をテクノロジーで解決しよう、という取り組みです。
ありがとうございます! 無機質で合理的なテクノロジーに制覇された世界より、暖かくて生きやすい世界のほうが良いに決まってますから。ホクホク。
未来がすっごく楽しみになりました。
Image: Image: ©INFOBAHN Inc. & TOA18 TOUR MEMBERS, All Rights Reserved, N26 Europe, YouTube(1, 2, 3)
Source: MUFG Innovation Hub(1, 2)
(西谷茂リチャード)