イベントレポート

東京依存に終止符、ブロックチェーンが地方創生を促進

熊本ブロックチェーンカンファレンス基調講演に地元も大注目、地方創生の可能性を探る

熊本ブロックチェーンカンファレンスの基調講演で壇上に立つ、インフォテリア代表取締役社長の平野洋一郎氏

 ブロックチェーン関連の講演会や勉強会は、東京や大阪といった大都市では決して珍しくないほど頻繁に行われるようになった。一方で、地方ではそれほど活発な動きが見られない。そんな中、8月3日に熊本の市民会館シアーズホーム夢ホールにおいて、同県では初のブロックチェーンに関するカンファレンス「熊本ブロックチェーンカンファレンス2018」が開催された。「ブロックチェーン技術が築く地方創生の可能性」をテーマに掲げたカンファレンスは、平日の開催にも関わらず席の多くが地元の来場客で埋め尽くされるほどの盛況ぶり。なぜ、ブロックチェーンが地方創生の鍵を握るのか、そのヒントを基調講演で聞くことができたのでレポートしたい。

 カンファレンスは、熊本や近隣の都市で活躍する企業4団体によるプレゼンで構成され、その最初にインフォテリア株式会社・代表取締役社長の平野洋一郎氏の基調講演で幕を開けた。平野氏は、一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)の代表理事も務める。いわば、ブロックチェーン普及における立役者ともいえる人物だ。ちなみに、平野氏は出身が熊本であるということもあり、基調講演は熊本弁で行われるというとてもユーモア感あふれるものだった。本記事も、一部を除いて、あえてそのまま起こさせていただいた。

 平野氏は、「都会の場合はブロックチェーンそのものだけを話することが多かとですが、今日は地方創生という内容を加えて初めて話をさせていただこうと思います」と講演を始めた。

地方や小さなチームこそブロックチェーンを活かせる

 講演の冒頭では、おもにBitcoinのことから始まる。Bitcoinやブロックチェーンについて知っているかという平野氏の問いに、来場者の半数ほどが挙手。地方でもわりと浸透しているという印象だ。Bitcoinの認知度が高まった理由の1つとして、平野氏は2017年末にBitcoinの価格が急上昇した点について触れた。

 「2017年末、Bitcoinは日本だけじゃでなく世界中で騒がれ始めました。仮想通貨がフィーバーのようになった。1年で20倍。株価でもFXでもそんなことはなか(ない)。億り人なんて言葉も出てきて、普通の若者が1億円稼いだ。その後下がって、大して儲からんばい(儲からない)となると、今は下火になってるような感じです。もうBitcoinは終わったとか、そぎゃん(そんな)こと言う人も居るかもしれません。実際どうでしょう。そもそも、Bitcoinの価値とは何なのでしょう」

 Bitcoin全体の時価総額はピークの時で35兆円。今でも14兆円もの金額にのぼっている。怪しいと言われながらも世界中の人々を虜にし、この2年で圧倒的な規模に市場が成長した。

2020年におけるブロックチェーンの国内での市場規模は67兆円に達する見込み

 「しかも、それがインターネット上で、管理者がおらん(いない)状態でも動き続けています。それがBitcoin。Bitcoinを知っている人はわかるばってん(けれど)、政府が管理しているわけでも、どこかの会社が管理しているわけでもなか(ない)です」

 そして、Mt.Gox(マウントゴックス)やコインチェックなどの問題にも触れられたが、それでも「この事件は、仮想通貨やブロックチェーンの問題ではない。取引所の問題。信頼が揺らいだりシステムに何か問題があるということではなく、ここ一緒にしたらいかん(いけない)。Bitcoin(のシステム)は一度も落ちとらんし、価値が破綻したということもなかとです」と強調し、これがブロックチェーンのすごい点だと加えた。

ブロックチェーンの特長・特徴についても詳しく触れた
ブロックチェーンがさまざまな分野に活用できるとの見方を示した

分散型のネットワークがシステムの導入を容易にする

 講演の中盤では、ブロックチェーンの最大の特徴ともいえる、非中央集権型のネットワークについて触れられた。平野氏は「地方創生は東京依存、中央依存から離れ、どういった価値を見出すかが大切」とし、中央集権的な管理を必要とせずにシステムを運用できるブロックチェーンも、地方創生の鍵を握るという。

 P2Pやマイニングなどブロックチェーンの特徴に触れながら「どぎゃんこつがあっても(どんなことがあっても)停止してはならないような仕組みではなく、(個々のコンピューターが)壊れることを想定して作られている」という点が、地方におけるメリットだと主張する。

 たとえば、従来のような金融機関などの基幹システムは、システムが止まらないよう高価なストレージやメモリなどを使った強靱なサーバーを構築しなければならない。これに対し、ブロックチェーンであればどんなコンピューターでもかまわない。つまり、地方経済の規模によらず、少ない予算でもシステムを導入しやすいということになる。すると、地方や小さな組織が活躍しやすくなると考えられる。平野氏は「ふとか(大きな)中央集権型の組織ではなく、こまくて(小さくて)柔軟につながることのできるチームがよりふとか(大きな)力を持つ」としている。

すでに九州でも小さな自治体でブロックチェーンの実証実験が行われていると説明
宮崎・綾町で行われているブロックチェーンの事例を紹介
マンションの駐車場などで電気自動車の充電管理をしている事例を紹介

ブロックチェーンが浸透した21世紀型の社会では大企業が不要になる

 平野氏はさらに、21世紀末には1万人以上の従業員を抱える大企業はなくなるという独自の論理を打ち出した。ブロックチェーンを使えば、業務上で必要な契約も支払いもすぐに、確実に行える。スマートコントラクトが、小さなチームに大きな力を与え、大きな仕事につながっていくのだという。

 「ブロックチェーンには、あらかじめ契約の内容をプログラムしておくことができる。『こういう仕事をしたらいくら払うけんね(払いますよ)』と契約書に書かれていて、ブロックチェーン上に書き換えがでけん(できない)ようにしておくこともできる。支払いもトークンで行えば、報酬を月末締めにしたり、銀行を経由したりする必要もなかとです」

 平野氏は、こうした仕組みをさらに加速させるのが、契約履行の自立自動化だとも強調した。「小さなチームが必要に応じてつながり、どんどん仕事を進めていく。専門家や研究所が繋がって新しいことをする。大きな仕事に組織変更はつきものだが、現在は年に1回くらいしか行えない、(ブロックチェーンが契約履行を自律自動化すれば)それも柔軟に行える」。こうした仕組みが実現できれば、社会構造に大きなインパクトを与えることは、容易に想像できる話だ。

すでに契約書などの改ざん防止としてブロックチェーンは使われているが、スマートコントラクトでさらに流動的な契約形態が生まれる

 こうした仕組みを実現するにあたって、IT業界ではすでにクラウドによるデータ連係、ソーシャルネットワークによる人々のつながりといったお膳立てはすでにそろっている。平野氏は「最後のピースがブロックチェーンだ」と語気を強めた。

大企業の組織図は古いものとし、新しい組織はブロックチェーンが支えるという

 「地方も同じことです。今まで企業の問題とか、つながりの問題とか、地理的な条件などいろんな制約があったと思います。こうした問題に悩んでいた人たちが、逆に有利になっていく。ふとか(大きな)組織は、なかなか動かせない。なかなか変わらない。これはコンピューターに照らし合わせると、自然な流れに見えます」

 こうした考えが、仮想通貨や文章改ざんだけではなく、ブロックチェーンが革命の力を持つという人の確信につながっている。

 上記のような社会構造の変革には時間がかかるが、現時点ではブロックチェーンが地方創生にどのような形で関わることができるのだろうか。

 平野氏は「たとえば、地域通貨やトレーサビリティ、行政サービス、ICOなどが、地方創生にインパクトを与える」としている。「地域通貨は地域が独自で持つ価値をトークン化するわけです。今まで地方の自治体は、地域に限定した商品券のようなものを住民に提供していますが、デジタルトークン化してブロックチェーン上に乗せれば、世界中どこでも使えるようになるわけです。こういうことを模索できる。行政サービスは地方が遅れている部分もあるが、遅れているけれど、遅れているからこそできることがある。人数が少ないからできることもあります」。

 また、ICOについても「今までのような証券会社や銀行がいないとできなかった中央集権型の資金調達とは違う形で、非中央集権型の資金調達ができる。中央でしか資金調達できないということを打破していくことができる可能性がある」とし、イノベーションにつながっていくのだと述べた。

地方創生へのインパクトは地域通貨、トレーサビリティ、行政サービス、ICOだと説明した

 平野氏は最後に、ブロックチェーンを用いた地域創生を推し進める一番の課題は「人」であると提唱した。

 「(こうした改革は)やる人がいないとできない。また、それをどのように実行するかも問題。1つだけいえるのは、ブロックチェーンに限らず新しいことをやるときに、『○○するべき』で実行しないこと。じゃあどうしたら良いかというとで『○○したい』で実行する。やることは同じでも、方向性はまったく違う。『べき』は義務感で、ブレーキになる。否定もある。一方で、『たい』は期待感。あれをしたい、これをしたいとアクセルにもなります。全然違うじゃないですか。みんなが考える同じようなことも、『たい』はそこから飛び抜けること。熊本だから言いますが、熊本の人はそれが得意。熊本弁を使っていると、1日に何回かは『たい』って言いますよね。これからも、どんどん熊本弁を使ってください。『たい』で進める。これが大事です。同じ事でも言い変えだけでも気持ちが変わります」と基調講演を締めくくった。

外村 克也

株式会社タトラエディット代表取締役、編集者兼ライター。月刊アスキー編集記者や書籍編集者を経て起業。ITサービスやPC・スマホの解説書などを手がける一方、Minecraftやレトロゲームなどの記事執筆も行う。著書は『YouTube Perfect Guidebook』(ソーテック)、『人生が変わる! ずるいスマホ仕事術 タブレット対応版』(宝島社)など。