〔→第1回はこちら gendai.ismedia.jp/articles/-/56401〕
闇サイト「シルクロード」事件
——楠さんは最近、ビットコインの専門家としてメディアに登場することが多いと思うんですが、興味を持たれたのはいつごろでしょうか。
楠 ビットコインについて興味を持ったのは、それほど昔ではないんですよ。2013年ごろかな? 春にキプロス危機があって、16〜17ドルだったビットコインがいきなり80ドルとか100ドルになったんですが、そのあと、闇サイト「シルクロード」の摘発の発表があった。そこで、「サトシ・ナカモト」という謎の日本人がつくったビットコインが使われていたというのをBBCのワールドニュースで聞きました。
2013年10月、アメリカのネットとリアルを騒然とさせた逮捕劇があった。それがシルクロード摘発事件である。
シルクロードというのは、「闇のAmazon」と呼ばれるダークウェブの内部にある売買サイトだ。ここでは違法ドラッグ、児童ポルノ、クレジットカード番号、あらゆるものが売られていたが、普通に金銭をやり取りするのでは身元がバレてしまう。そこで使われたのがビットコインだ。確かに、それなら匿名性を保ったまま取引ができる。
つまり、ビットコインが普通のお金ではできない、裏情報やイリーガルなものを取引するための特殊な通貨として流通しはじめていたのだ。
日本ではあまり報じられなかったがこの「シルクロード」というサイトの摘発こそ、ビットコインを有名にした初期の大きなトピックだった。ジョシュア・ベアマンによって書かれたこの事件のルポタージュは、コーエン兄弟によって映画化が決定している。
楠 そこでビットコインのような決済手段が出てきたというのはやっぱりショックでしたよね。
90年代の電子マネーブームのとき、私は当時大学生でしたけど、モロに影響を受けて暗号の勉強もしました。当時話題になったのは、ブラインド・シグニチャー(電子マネーの暗号化技術)を使って、電子メールに添付できるお金をデビット・チャウムが作ったのがわりと有名です。その文脈でサイバー・キャッシュとか、あとはICカード系のお金でモンデックスなんかがありました。
90年代、暗号技術を推進するサイファーパンクというムーブメントが起きた。
デビッド・チャウムは、その重要人物の一人で、デジキャッシュという会社を作ってネットでお金をやりとりできる仕組みを作ろうと試行錯誤していた。
現実世界でお金をやりとりするときは現金を渡せばいい、けれどネットの世界ではその「物」がない。帳簿の上の数字をやりとりするだけだが、そこで当然問題が起きる。
銀行なら本人確認の印鑑やら書類を出すが、ネットでそれに当たるのはパスワードである。このパスワードが盗まれないためには暗号化が必要になってくる。暗号と情報の取引には、昔から密接な関わりがあるというわけだ。
ちなみに最初にビットコインに注目したのも、このサイファーパンクに関わっていた人々だ。