デジタル遺品は実態が把握しにくい
最近ではテレビドラマの効果もあって「デジタル遺品」という言葉を耳にしたことがある人も多いだろう。デジタル遺品とは、デジタル環境を通してしか実態が把握できない遺品のことを指す。
たとえば、紙焼き写真は何の媒介もなしに鑑賞できるが、デジタル写真を見るにはスマートフォンやパソコン、デジカメなどのデジタル環境が必要になる。
だから、持ち主が亡くなってしまったデジタル写真はデジタル遺品となる。インターネット上にあるSNSの日記や電子書籍、ネット銀行やネット証券などの口座情報もこの類いに入る。
これらのデジタル遺品のうち、遺族にとって脅威になりうるものは何だろうか? 不倫の証拠……なんていう声も何度か耳にしたことがあるが、そういう特殊な事例を除くと、お金関連の遺品が第一に挙がることが多い。何もしないでおくと、相続や当面の生活において遺族が直接的に大きなダメージを被ることがあるためだ。
音信不通だった弟がネット銀行に遺した800万円
まず、2つの事例を紹介したい。
20年間連絡を取っていなかった弟の訃報を警察から受け取ったAさん(40代、男性)は、動ける身寄りが自分のみだったため弟の遺品整理を担うことになった。
どんな生活をして、どんな人間関係を築いていたかまったく分からなかったが、部屋に残されていたパソコンと警察から戻された携帯電話を調べると、あるネット銀行をメインバンクに使っており、およそ800万円の預金があると判明。
ただ、同時に携帯電話の履歴から近しい間柄の知人たちも判明したため、それらの情報を使って滞りなく遺品整理や葬儀を行うことができた。
もう一人は、突然死で伴侶を失ったBさん(50代、女性)。葬儀の打ち合わせが終わった後、ふと夫が生前に「FXやってみようかな」とつぶやいていたことを思い出した。
にわかに不安が襲ってきたBさんは、遺品を漁ってみたがFX口座を開設した痕跡は見つからない。書斎に残されたパソコンを開いてブラウザーのブックマークや閲覧履歴、メーラーの中見などをくまなく調べたが、それらしいものは見つからなかった。
それでも不安が拭えなかったのは、夫のスマートフォンだけロック解除ができずに初期化してしまったからだ。Bさんは、1年以上は「たぶん大丈夫だろう、しかし・・・」という思いで過ごすことに。ただ幸いにして、心当たりのない請求書が届くことはなかった。
どちらもお金絡みのデジタル遺品に関するエピソードで、「気づけなければ触れようもない」というデジタルならではのリスクを内在している。
ただし大きな違いがある。Aさんの事例はプラスからゼロまでの資産、Bさんはプラスからマイナスまであり得る資産が対象になっている点だ。
デジタル遺品はただでさえ全容を知るのが難しい。そこに借金爆弾になりうる遺品が隠されていたら……。もはや他人事ではないだろう。現実的にどういう遺品が負債化する可能性があるのか解説していこう。