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 「異能」ともいえる際立った能力や実績を持ち、まわりから一目置かれるエンジニアを1カ月に一人ずつ取り上げ、インタビューを掲載する。今月取り上げるのは、もなみ屋という自身が設立した会社を持つ邑中雅樹(むらなかまさき)氏。TRON関連の組み込み技術者として知られていたが、現在は活躍するフィールドを仮想通貨に移している。今回は、現在開発しているシステムや組み込みエンジニアになった経緯などを聞いた。

(聞き手は大森 敏行=日経 xTECH/日経NETWORK)


 もともと組み込み系のソフトウエア開発を得意としていますが、現在の仕事はブロックチェーンや仮想通貨がメインです。合同会社もなみ屋という自分の会社を持っており、HashHubというコミュニティスペースの手伝いもしています。また、仕事以外にオープンソース系のブロックチェーンの開発にも関わっています。もなみ屋の仕事、HashHubの仕事、オープンソース活動がそれぞれ3分の1ずつというイメージです。

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 HashHubは仮想通貨系のコミュニティスペースです。2018年8月初めにスタートしました。コワーキングスペースとしての機能も持っています。今のブロックチェーンは、仮想通貨という切り口で投資の側面が強くなっています。一方、HashHubでは、投資コミュニティではなく技術者コミュニティを作る活動を積極的にやろうとしています。

 設立メンバーはエンジニアではなく、ブロガーの中で技術に特化しているような方々です。実際にはコードは書きません。そこで、自分がエンジニアとして参加しています。バンドでいえばサポートミュージシャンのような立場で、パートタイムで働いています。

 HashHubで、私はライトニングネットワークというプロトコルに関する開発を行っています。ビットコインはトランザクション性能があまりよくないため、多くの取引をさばくことができません。そこで、メインのチェーンの横にユーザーとユーザーの間で少額のやり取りをする技術がライトニングネットワークです。

 ライトニングネットワークでは、ビットコインのブロックチェーンからいったん離れて、2人のユーザーの間でピアツーピア(P2P)でお金をやり取りして、最後にそれを戻します。そうするとライトニングネットワークでやり取りしているうちはビットコインのネットワークには負荷がかかりません。ATMでお金を下して小銭でやり取りして最後に銀行に戻す感じです。

 現在はまだプルーフオブコンセプト(PoC)の段階です。ものになるかならないかを確認するために、アジャイル的なアプローチを取って、2~3カ月の期間で開発を回しています。

 具体的にはライトニングネットワークを利用するアプリケーションを開発しています。ライトニングネットワークはここ2~3年くらいでできた技術であり、まだいろいろなものが足りていません。また、ライトニングネットワークは意外とクセが強く、それをどうにかしなければなりません。ビットコインにはなかった問題があります。