仮想通貨のゆくえと日本経済vol.3 複式簿記と銀行業の誕生
以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年春号 -仮想通貨とサイバーセキュリティ』(4月28日発売)の特集『仮想通貨のゆくえと日本経済』の一部である。また、8月3日発売予定の書籍『ザ・キャズム~今、ビットコインを買う理由~』(フィスコIR取締役COO/フィスコファイナンシャルレビュー編集長 中川博貴著)のダイジェスト版となる。全14回に分けて配信する
ビットコインは、この世に誕生してからまだ10年も経過していない。2017に最大20倍以上に膨れ上がったビットコインの価格を見て「中世オランダのチューリップ球根以来のバブル」だと評する声もあったが、これはバブルなのだろうか。ビットコイン投資に機関投資家が本格参入している今、その将来性を悲観するのは早計であろう。貨幣の歴史そのものに立ち返ることで、仮想通貨の本質的価値とその未来、これから日本経済が進むべき道を探る。
~貨幣の歴史と、米国による世界支配~
■複式簿記は、権力者にとって脅威だった
貨幣の本質のひとつに「帳簿」を挙げることができる点は前述した。この帳簿が革命的な進化を遂げたのは、西暦1300年頃のイタリアである。資本主義社会の基礎をなす一大発明、「複式簿記」が始まったのだ。
複式簿記は、お金の流れを総合的に把握し、その事業が収益を上げているか赤字を出しているかを一覧できる特性がある。この複式簿記の誕生は、皇帝などの為政者にとって脅威となった。彼らにとっては絶対的な権力を背景に、会計上の様々な「ごまかし」を正当化するのが当たり前だったからだ。複式簿記により会計管理が透明化され、公的なお金の流れが可視化されることは、権力の衰耗を意味する。
■「銀行業」の誕生で、権力が民間の手へ渡った
複式簿記が誕生したのと時を同じくして、現在のイタリアにあたるジェノバ共和国では、銀行業が生まれた。通貨発行権を背景にした為政者の暴政に辟易した商人たちが、自らの資産を防衛する術として、銀行という民間の金融機関をつくり、持てる知恵を出し合いながら発展させたのである。
やがて、銀行業は国境を超え、大航海時代に対応する国際銀行業が発展していった。国境を超えた以上、特定の通貨に依存する必要もなくなった。民間の相互信用によって決済するシステムも確立された。
このように莫大な民間マネーが生成されるしくみが発達するにつれて、通貨発行権を有する為政者による公的マネーとの対立の構図が明確になっていく。商人はその財力を背景に、政治に対する発言権を増していった。
■民間マネーが産業革命を支え、世界は「分断」された
民間の資本家によって、国や銀行への積極投資が行われ始めた代表例として、17世紀の大英帝国を挙げることができる。イングランド銀行は1664年、民間銀行から中央銀行へと成り上がり、通貨発行権を背景に他の銀行をも管理し始めた。また、工業化を推進する企業に積極的に融資していたのである。
資本家から企業への民間投資によって、様々な産業での機械的生産が進展していった。その流れは、17世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパ全体からアメリカへも広がり、明治維新後は日本でも、欧米に学んで文化レベルで少しでも追いつこうと、産業の工業化が一気に進んでいった。
工業化の波に乗れず、機械的生産を導入するに至らなかったアジア、アフリカ、南米諸国は、依然として農業や家内制手工業が中心だった。欧米諸国との経済的・文化的・軍事的力量の差は決定的なものとなっていく。むしろ、工業化国(いわゆる「先進国」)が非工業化国(いわゆる「発展途上国」)を植民地とする図式が鮮明となった。
◆フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
フィスコ取締役中村孝也
フィスコIR取締役COO中川博貴
シークエッジグループ代表白井一成
【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、この日本経済シナリオの他にも今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済にもたらす影響なども考察している。