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尾関高のクリプトポロジー

第13回:原資産市場とデリバティブ市場

金商法に暗号資産デイバティブが乗っかり、これで、現物は資金決済法で、デリバは金商法でという枠組みができた。法的にはこれらは別々に規制されるわけだが、市場の側から言えば原資産市場とデリバティブ市場は互いに影響し合う関係にあるはずだから、なかなか他人の関係として切り離せない。

デリバ市場といってもいろんなものがある。一番原始的で基本的なのが先物市場だろう。伝統的な金融市場において、先物市場ができたいきさつとしては、原資産市場の高いボラティリティを何とか抑え込もうとしたからか、あるいは単に未来の契約を今、してしまいたいという生産者側の願いを実現したら、結果ボラティリティの抑制に寄与したのか、どっちが先かは知らないが、結果として、世の中のコンセンサスは、「先物市場は原資産市場のボラティリティを抑える働きがある」である。

では、今の暗号資産市場はそうなっているだろうか。暗号資産市場はそもそもそのマーケットキャップが小さすぎるという印象が強い。相対的に需給に対して市場が小さいとボラは上がりやすい。その上で、世界中の暗号資産取引所はレバ取引を提供している。中には現物のヘッジとしてやっている人もいるだろうがほとんどはスペキュレーションだろう。

先物取引と言っても、直物市場をそのまんま指数取引するCFD(俗に、Perpetual Futures, 仮想通貨(暗号資産)FXと呼ばれる。これはいわゆる店頭FXと仕様的には同じカテゴリーになる)、限月制先物(もっとも伝統的な先物取引の様式)までいろいろある。呼び方は取引所によってまちまちなので気を付けて取引仕様を読んだ方がいい。

それらの相場、レートは基本的には需給(売り買い)で決まっているが、その市場と原資産市場をつなぐ「現引き」サービスがないところが多く、そうなると原資産市場との乖離が起きやすい。そのため各取引所は、自ら定めた市場のメジャー取引所と考えられる他社、他取引所のレートを参照してずれがあるとそれを補正するだけのコストを客にロールオーバーコスト等の名目で一日1回から数回チャージする仕組みを講じているところが多くなってきた。親切な取引所はその内容を開示してどのように計算してチャージ額を決めているか説明してくれている。ちなみにこのサービスというか仕様が浸透してくると取引所間のアビトラチャンスは減っていく。


先物以外のデリバとして、オプションがある。これはそれ専門の取引所が海外でいくつも立ち上がっているのでご存知の方は多いだろう。彼らの板を見てそのプライシングの細かさには感心するが当然スプレッドは広い。また、オプションポジションを持ってもガンマトレードが自在にできるほどまともな流動性もないし、取引した相手の与信力を考えると、持てるリスクも限定的になる。

さらにもう一つのデリバとして、通貨スワップや、レンディング(これはデリバではないが)を使った、資金の調達市場の成長がある。現物をベースに取引する欧米系のファンドは規制上デリバティブ取引ができないところが多い。そのため彼らは、証拠金取引ではなく、信用取引のスタイルで、他社から借りた暗号資産を売って、下がったから買い戻すとか、ドルを担保に差し出してBTCを借りて売って、ETHを買うとか、そういう取引を拡大している。よく取引所が客(個人投資家)に持っているBTCを貸してください、年利2%払いますとかやっているが、その裏側にはそういう需要がある。

そうして、想定元本ベースで取引される暗号資産は当然ながら現物のマーケットキャップの数百倍はくだらないのだろう(勝手な想像である)。それだけの取引をしたくなる根本的な要因というか需要はどこから来るのだろうか。日本にいると暗号資産の実需は見えにくいが、海外でそうした取引をしている人たちの話を聞くと、なるほどねという需要が見えてくる。

国際間決済において法定通貨を使った場合のめんどうくささとコストを嫌う人は暗号資産決済に大きな魅力を感じざるを得ない。これはAMLのポリシーとぶつかる話だが現実としてそれはある。必ずしも反社的団体に限らず、何とか合法的に国際間決済をより早く、安く、24/365でやりたいという需要はこれからも強くなることは間違いない。銀行の既得権益を脅かすことも間違いない。それだけに、銀行や国際間決済銀行もそのポジションを取りに来る。

誰でも銀行口座を持っているのが当たり前な国は少ないという事実。そこにこそ商機があると考えるフットワークの軽い起業家はアフリカに足を運ぶ。日本は、みな銀行口座を持てると思っている。そういう国では暗号資産で決済することのメリットが感じづらい。Suica、PayPayが出てきてそれでおおむね満足である。


国内はそれでいいが、国際的に見た時はどうだろうか。海外でどんどん暗号資産決済インフラが成長してくると日本に観光で来る人たちは当然暗号資産で決済できることを期待する。いちいち空港でドルや他通貨を円に交換して高い手数料を払うより、またクレジットカードで高い手数料を払いながらかつ個人(カード)情報を盗まれるリスクを心配しながら使うより、生態認証のあるスマホでサクッと決済できるインフラがあると便利だと思う。しかし、社会の決済インフラとして暗号資産が使われるようになるには、やはり高いボラティリティは邪魔である。そういう意味ではデリバティブ取引が原資産市場のボラを抑え込む働きをしてくれることに期待を寄せるのは健康的な発想だろう。問題は、そもそも暗号資産は決済手段としての位置を勝ち得るだろうかということである。仮にそうだとしてどれがそうなるのか、BTCかETHか、それともそれ以外か。そうこうしているうちにStable CoinとかDigital Currencyとかが追いかけてきそうである。

よく暗号資産の「社会的意義」はあるのかという議論も耳にするが、その議論を日本国内の実情だけを見て結論づけるのは危険である(と思う)。かつて日本はずっとそういうやり方をしてきたかもしれないが、その結果金融2流とも、3流ともいわれるオチに甘んじていることを認識すべきではなかろうか。金融に国境はない。資金は国境を越えてより魅力的な市場へと流れていく。そういう金(カネ)はそうした国ごとの屁理屈など聞く耳を持たない。日本からも平気で流出はする(してきた)。さらには金とともに優秀な人まで出ていく。金融産業としても並み居る列強と伍して戦いたいなら、ドメな視点からグローバルな視点で「意義」を論じるべきだと思うが、いかがだろうか。


プロフィール

尾関 高

尾関 高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社、米系企業を経て、現在は日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場、特に近年は仮想通貨の取引システム開発などを手掛けながら、それらにかかわる分野においても積極的に発信する。
著書:「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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