仮想通貨に関する総合ニュースサイト「ビットプレス」

  1. トップページ
  2. >コラム・レポート
  3. >尾関高のクリプトポロジー
  4. >第12回:(パブコメより)交換業者がLPと取引するにあたり注文伝票を法定帳簿の一つとして作成することの意味

コラム & レポート

バックナンバー

尾関高のクリプトポロジー

第12回:(パブコメより)交換業者がLPと取引するにあたり注文伝票を法定帳簿の一つとして作成することの意味

【金融庁】令和元年資金決済法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果より

結論から言うが、意味はないと思う。そもそも注文伝票を作成する意味は、業者が顧客から受けた注文についてその発生から消滅(完了・取消)までの間になにがあったかを記録し、何かしかの疑義や紛議があったときに調査できるようにしておくというものであるはずである。

一方、業者がLPと行う取引は自己取引である。LPは業者の裏側に誰がいるか、どういう事情で発注してきたかなど知る由もないし、知る必要もない。

業者が客の注文ごとにLPに発注するモデルであろうと、ある程度束ねてから発注するモデルであろうと、そのLPへの注文の結果についての契約主体は業者であり、業者がLPの注文処理に対して文句があるかないかはその業者の顧客にはなんら関係がない。ただし業者が客の注文を約定するにあたりLP側の約定状況においては約定の質を低下させることがあると主張するならその分気にはなるが、だからといって客が、業者のLPに発注した履歴をどうだこうだといえるような契約にはなっていないだろう。交換業者は証券会社が東証へ「取次ぐ」ビジネスをしているわけではないのだ。「店頭」契約なのである。

さらに言えば、業者はLPに例外的に指値を置く場合もあるかもしれないが、通常LPへの発注はおおむね成行き(FOK, IOC)である。したがって、発注すると速やかに出来・不出来が返ってくる。あるいは部分約定などが返ってくる。通常、発注して約定拒否が返ってくるとなぜ拒否だったかを考えるよりは再度発注するやり方が一般的である。約定拒否が頻発すれば、相手方とメッセージの中身を見ながら調整が入る。業者にとって重要なのは、一件ごとの約定拒否の質を細かく見るよりも全体としてこのLPはどういう質の約定を返してくるかである。ことはすべて業者とLPの間だけで完結する問題となる。この間、問題が多いからと言って、金融当局に苦情を入れる話でもない。つまり金融庁は関係ない。責任もない。

もっとさらに言えば、注文伝票と言っても、FIXやRESTのログ以外語るものはない。したがって「注文伝票」を作ると言っても、それはすなわちログのメッセージを体よくスプレッドシートに綺麗にリフォーマットして書き込むだけになる。その手間をかけたところで、以後まずもってそれを見ることはない。見たいならシステムエンジニアは直接ログを見る。LPの約定、約定拒否について業者は当局に苦情を申し立てることもないし、個人投資家もそんなこと知りもしないのだから当局は無関係であり検査の対象としては興味以外にはないだろう。あるとしたら損益計算において粉飾がないかどうかだがそれは税務署の範疇である。

ということで、私の結論は、LPに対する「注文伝票」の作成を義務化する意味がわからない。今回のパブコメ回答においてもその点は納得いく言葉で明らかにされていない。結局、誰も使わない帳票を業者は金をかけて作ることになったとしか見えない。

ちなみに店頭FXではそういうことは言われたことがない。よってだれも作っていないが、ログはある。

なぜこのような不合理なことになるのか。その象徴的なやり取りはパブコメ#52と#53にある。

#52はたとえ「交換所」と呼ばれる業者であろうと、やっていることは「店頭取引」である。したがって、カバー先となる相手は「客」ではないし、「取次」でも「媒介」でも「代理」でもない。その点に気づいているからか、ここで使われている理由、「注文伝票は、「暗号資産交換業に関する」(資金決済法第63 条の13)ものであれば、「自己の取引の発注の場合」(交換業府令第36 条第1 号)であっても作成する必要があります。」という、なんとも消化しきれない回答になっている。これは、「だってそう書いてあるんだもん」と言っているように聞こえる。

一方、#53は、客もマーケットメイカーも平等に「競売方式」での「場」を提供して、そこで売買させる場合を例示している。つまり、「取引所」であり、取引所は参加者全員が「客」である。これに対して当局は、それは「取次または代理」であるから注文伝票は必要であると回答している。この場合、マーケットメイカーといえども「場」を開く者から見れば「客」である。この理由は合理的で納得できる。

資金決済法上の建付けがそもそも取引所(取次、媒介、代理)型と店頭型の2パターンを前提としてないためにこういう混線がおきるのかなと思って見ている。

帳簿を作るべきかどうかという議論は当然それが必要となるときはどういうときかを想定するものである。

▼注文伝票(交換業府令第 36 条)
【#52・コメント】
暗号資産交換業者が顧客となり、他の国内外の暗号資産交換業者に対して口座開設を行い注文発注を行う場合において、注文伝票の作成は、受託側事業者に作成義務があり、委託者側には作成義務はないと考える。暗号資産交換業者が、国内外のカバー先となる事業者に対して顧客となって口座開設を行い実施する取引についての注文等については、本府令の注文伝票作成の対象ではなく、受託者側となる事業者が注文伝票の作成及び保管の義務を負うとの理解でよいか。

【金融庁の考え方】
注文伝票は、「暗号資産交換業に関する」(資金決済法第 63 条の 13)ものであれば、「自己の取引の発注の場合」(交換業府令第36条第1号)であっても作成する必要があります。御指摘のような事例において、受託側事業者に作成義務があることをもって発注を行う暗号資産交換業者の注文伝票の作成及び保存が免除されるものではありません。
▼注文伝票(交換業府令第 36 条)
【#53・コメント】
暗号資産交換業者が、自社の顧客(自社の財産運用部門、自社が取引契約を行う他の暗号資産交換事業者及びマーケットメイカーを含む)を参加者として、匿名化された形での競売買方式による暗号資産の売買及び暗号資産の交換を行う場を提供する場合において、自社の財産運用部門、自社が取引契約を行う他の暗号資産交換業者及びマーケットメイカーが、取引板に対して発注する注文についても、注文伝票を作成する必要があるとの理解でよいか。

【金融庁の考え方】
御質問のような事例において、暗号資産交換業者が暗号資産の売買又は他の暗号資産との交換の場を提供し、これらの取引を成立させる行為については、その行為の性質に応じて、当該取引の媒介、取次ぎ又は代理を行っているものと考えられるため、当該取引の受注に係る注文伝票を作成する必要があると考えられます。なお、こうした取引の場において、「自己の取引の発注」(交換業府令第 36 条第1号)を行う場合にあっては、当該発注についても注文伝票を作成する必要があります。

プロフィール

尾関 高

尾関 高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社、米系企業を経て、現在は日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場、特に近年は仮想通貨の取引システム開発などを手掛けながら、それらにかかわる分野においても積極的に発信する。
著書:「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

ニュースクラウド