IMF、特別引出権(SDR)のデジタル化を検討
国際通貨基金(IMF)の専務理事であるクリスティーヌ・ラガルド氏がイギリスの中央銀行であるイングランド銀行で行われたフォーラムにおいて、特別引出権(SDR)を将来デジタル化することでより広範な役割を持たせる可能性について検討していることを明らかにした。
ラガルド氏はSDRが米ドルや日本円などの既存の法定通貨を代替し得る可能性について「とっぴな仮定ではない」と発言し、IMFはこれに対して準備を進める必要があるとしている。
IMFでは近年、1969年に国際準備資産として創設されたSDRに対してより広範な役割を持たせることができないか検討を進めていた。現状のSDRは電子化とは程遠い状態だが、電子化・暗号化されたSDRが流通することで既存の基軸通貨の存在感を減少させる効果を期待するなどの効果が期待される。SDRが通貨バスケットとしてではなくそれ自身がひとつの通貨の役割を果たすようになれば、国際金融取引に広く利用されるようになるという見方だ。これには各通貨の変動リスクや経常収支の赤字リスクを減少させるという期待もあるようだ。
国の法定通貨である米ドルが基軸通貨として機能することに対する不安は以前から存在する。2009年、中国の中央銀行である中国人民銀行行長の周 小川氏はIMFの資金利用を拡大する理由のひとつとして、徐々にSDRを既存の基軸通貨と代替させる狙いもあると発言している。現状では各国が多額の米ドルを所有して国際収支危機の発生に備えている状態だが、もしもIMFが国際中央銀行のような役割を果たし、例えば独自のブロックチェーン上にSDRを保管するなどという対応を取った場合には各国が巨額の引当金を所持する負担が軽減されるという見方も存在する。
ただし、この発案は現状の仮想通貨支持層の思想とは離れたものであるといえる。ビットコインに対して「中央管理体が存在しない通貨」という意義を期待する者や、価値保存手段として金(ゴールド)のような役割を期待する者にとってはIMFによるSDRコインのような存在は性格の異なるものとなる。また、米ドルの基軸通貨としての存在価値が薄れるような状況をIMFが実現することがすぐに可能となるのかという点を取ってみても、実現可能性が高い状況とは言えないであろう。
《SI》