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尾関高のクリプトポロジー

第11回:仮想通貨市場のアグリゲーターの発展

■発展のパターン

仮想通貨市場において急速に成長しつつあるビジネスとしてFXの世界観同様にAggregatorの存在がある。FXにおけるaggregation serviceの進展は、おおむね以下のように発展した。

  1. 同じ商品のレートが複数存在するようになる。
  2. それらをまとめて見て比較したい要望が生まれる。
  3. そこでアグリゲートするサービスが生まれる。→Forex Broker (東京フォレックスなど)。
  4. そのサービスを電子化する。→EBS
  5. そこで取引すると、その時の市場のベストプライスをヒットできる。しかし決済は取引きした相手とする。
  6. それが面倒になる。
  7. するとそのアグリゲーター(「仲立(なかだち)」、「仲介業」、「Brokerage」と呼ぶ)は、自らの与信リスクを対価とした決済代行サービスを始める。つまり Prime Brokerageを開始する。

現在、EBS/EBS Direct、LMAX、Currenex、Integralといったアグリゲーターはみなそのビジネスを展開している。アグリゲーターにとって一定の与信リスクを負える客であれば自らが決済の相手となって“まとめて決済”サービスをするのはユーザーにとってはありがたいが、与信リスクがそのアグリゲーターに移転することを許せるかどうかは個々の客の与信審査部門の判断となる。

■Prime Brokerageと取引所の集中決済

Prime Brokerage(PB)と取引所の集中決済(CCP:Central Counterparty Clearing)とのそのメカニズム面の違いについて触れておく。取引所の集中決済も、売り手と買い手の決済を取引所が成り代わって決済するのでPBと同じに見えるが、違う点として、取引所は参加者全員の取引を同じ清算値で同じ仕様、ルール、タイミングで同時決済する(TSEは午後3時過ぎ、場が閉じた後に清算価格を発表してその価格でポジションをいったん清算する。よく“清算”という言葉がいろいろな定義で使われるが、ここでの「清算」は、ポジションを閉じていなくても、清算価格で一旦オープンポジションを値洗いしてその評価損益を会員である証券会社と取引所が実際のお金でやり取り(受渡)をすることを指す。つまり、当日一日分の市場リスクつまり変動幅分を与信で繰り越さずに現金で一旦決済してしまうということをしている。

一方、PBは、アグリゲーターの客Aと客Bが取引した結果生まれる決済額をアグリゲーターが間に入って、(A⇔-アグリゲーター)/(アグリゲーター⇔B)という決済を行うだけで、それ以外の決済に関わるルールはFX市場の商慣行や、あらかじめ相対で同意される契約に従う。ここで行われる為替の取引が現物取引であれば、約定額全額を受け渡しするし、ネッティング契約があれば翌日の決められた時間までに行った取引の差引合計額を受け渡す。

■仮想通貨市場のアグリゲーター

さて、こういうFXの発展の歴史を頭に入れたうえで、仮想通貨市場のそれがどうなっているか。現在私に見えている主だったアグリゲーターは、Tagomi、BlockFills、SeedCX/Zero#、Integral*、LMAX*、CFH*などである。*を付けたアグリゲーターはもともとFXで上記のようなアグリゲーションビジネスをしている。それ以外は、別市場からの参入か、新たに生まれた会社のようである(それほど歴史は調べていないので薄い情報で申し訳ない)。むろん中で働いている人たちはおおむねFX市場で何らかの経験(銀行ディーラー、システム開発者等)を持つ人たちが多い。

■システム

システム的には、決済サービスをしなければFXのシステムをそのまま使える。ただし、決済に関わるValueDateの概念については妥協が必要になる。FXは直物(Spot)受渡日が明確に定義され、市場はそれに従う。一方仮想通貨市場はおおむねT+1としているが、祝日休日に決済するかしないかといった個別のサービスレベルに大きな差があるため、その辺はあいまいな対応が多い。例えば、「一応明日決済だけど、厳しかったら明後日でもあなたならいいよ」とか、「今日受け渡すはずだったけど、明日でいいかな?」という交渉がまかり通る。銀行間のFXの世界観ではそれはディフォルトになる可能性もあることがここにそういう解釈はない。したがって決済する予定の日(ValueDate)が必ずしも決済した日(SetttlementDate)と一致しない。

■現物取引の定義

ところで、「現物取引」とは、契約ごとにそこで確定した取引を実行、すなわち受け渡す取引を指す。そこからすこし定義をストレッチして、過去の一定期間におこなった取引(通常、私が知る限り一日から1週間まで)をある時点で合算(ネッティング)して決済する。そこまでが現物取引の定義となる。少なくとも私の眼にはそう見えている。これが証拠金取引になるとそうはいかなくなるが、その辺の説明は別の日に譲る。ここではあくまでも現物取引をベースにした話となっている。

■情報配信プロトコル

あと、頭を悩ますのが、レート配信のプロトコルである。FX業界はFIXを導入して以来、安定的にレート配信の接続プロトコルは運用されてきた。すべての情報はタグで管理されその合理性は見ていて気持ちいい(多少プライベートタグの濫用があるようにも見えるが)。一方仮想通貨業界の多くの取引所はRESTやWebSocketを使う。それ自体はまあいいとしても(ただしHFTには耐えがたい)その中身の質の悪さは開発者を悩ませることがある。むろんみんながみんなそうではない。一部である。

■アグリゲーターのPB参入

次に、アグリゲーターがPBに参入するとなると、決済受渡をするために仮想通貨ウォレットを持ち、管理する必要がある。そこからが一番このビジネスに首を突っ込むうえで大変なところでもあり、面白いところでもある。法定通貨と仮想通貨の両方を決済するサービスを行う場合に大変なことは多いが、そのかなでも私が特筆するとしたら、

  1. 取引した相手同士で取引日から何日後に決済受渡するかが全体として一意ではないということ。T+1でやりたい人たちもいれば、T+5でやりたい人たちもいる。
  2. また、法定通貨が着金しても仮想通貨が同時に着金しないという問題。

である。
上記の①は取引契約ごとに定義するか、PBとしてT+1とかにサービスの条件を決めてしまうというやり方もある。こうすると業務もシステムも簡単になるが柔軟性は失われる。②について、一番簡単になるのは、PBがカストディとして客の資産をあらかじめ預かるという方法である。

■カストディモデル

現在NYのライセンスのもとにカストディビジネスができる。法定通貨も仮想通貨も扱える。そこにPBの客がお金や仮想通貨を預けてもよいと言えれば、そこでPBは同時決済受渡のサービスをすることができる。決済受渡と入金出金は別の話であることは言うまでもない。このモデルのさらなるメリットは日々の受渡コストを大幅に下げられることである。法定通貨は銀行を通過しなくていい。台帳管理で済む。仮想通貨も法定通貨同様台帳管理で済ませられるし、ブロックチェーンを使ったとしてもパブリックにいかなければマイナーに手数料を払う必要もない。カストディサービスを提供する会社も増えた。日本ではbitGoが有名だと思うがそれ以外にもいろいろある。


新たな市場が生まれると、人はどのレートが正しいのかという視点であちこちの市場を見比べる。そしてそこに差異があればアビトラする者たちが出てくる。そういうリスクテイカーの行動によって市場はより合理性を身に着けるようになる。そうなってくるとそれぞれの市場(取引所やアグリゲーター)同士の本当の競争が始まる。かつては市場といえば取引所であり、集中主義が大前提だった。つまり上場した商品を取引するならここを通さないと他ではできない。取引所外取引を禁止するというような規制まで作って一物一価の価値を守り、市場の信頼を生み出していた。しかしIT革命後の今は、取引所が物理的に集中していなくてもいくらでもリアルタイムで複数多数の取引所の価格比較ができるようになった。そうなるとアグリゲーターの存在はありがたいし重要となる。逆に大掛かりな仕掛けを施して一つの取引所(いわゆる公設市場)に集中する意味がなくなる。アグリゲーターたちが従来の取引所の役割を十分果たしている。あとは決済をどうするかだが、それもおおむね方向性は見えている。カストディを利用してやればほぼ同じような合理的決済受渡ができる。あとは、どこが勝ち組となって大きくなっていくのだろうかという点と、何をすると勝ち組になれるのかという点が重要になると同時に、それを実現化していく過程で今ある関連法がどう変化していくだろうかという点が注目すべきところである。またユーザーとして、取引の相手方にもなるし、PBもやる。そしてカストディサービスもついているとなると、サービスのラインナップとしては満足である。あとはそこでの流動性がどれだけ潤沢かということと、そのアグリゲーター/PBに対する信用レベルの問題になる。


プロフィール

尾関 高

尾関 高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社、米系企業を経て、現在は日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場、特に近年は仮想通貨の取引システム開発などを手掛けながら、それらにかかわる分野においても積極的に発信する。
著書:「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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