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尾関高のクリプトポロジー

第10回:最近気にしていること 2019-01

■呼び方

仮想通貨を暗号資産と呼ぶかどうかは正直どうでもいいと思う。英語で言えばcryptocurrencyか crypto asset かのどちらかであり、文脈で使い分けはされるものの、大事なのはまさにその文脈であり、用語ではない。必要なら両方使えばいい。日本の仮想通貨交換所が提供するサービスは、明らかにAssetではなくてCurrencyに見える。一方、ICOやSTOはAssetだ。その辺はFINMAの定義でも参考にするといい。個人的にはDigital Assetのほうが好きだけれど。

日本はとかく“名前をつけたい文化”である。そして名前が違えばモノが違うと言い放つ。これは法律の基本思想にも見られる。日本は「大陸法」である。一方英米は「英米法」である。大陸法は形の定義から入るので名前を付けると区別がつけやすいのだが、中身が変化を始めるとややこしくなる。英米法は見た目ではなくて、形が違ってもその物の目的や機能が同じなら同じものだと定義する。



日本が、「TPPじゃないTAGだ」と言っても英語のニュースは“Another Free Trade Agreement”と訳して終わりである。仮想通貨はお金じゃないから出資法にも抵触しないという理屈は大陸法下のレンディング市場ではまかり通るとしても、英米法的視点から言えばお金と同等だろうと思わずにはいられない。一定の利率をうたって「資産」(法定通貨であろうがなかろうが)をあずかり、任意の運用をして元本と利息をつけて返還することに変わりはないのであれば、出資法対象だろうと思うのだが、今のところ仮想通貨のレンディングは合法というか違法ではないという状態のようである。直観的に資金決済法対象かと思ったが、「借りる」と「決済する」では次元が違うから別物になるようである。それでもウォレット間の「送金行為」はあるし、借りても決済はあるのだが。ここにも大陸法的な法解釈がある。問題は、それで大丈夫かということである。本来法が守るべきものがそれで守られるのかという話である。実態経済の動きが速すぎると規制は後手に回る。これは致し方ない。ただし大陸法から英米法に実態運用を変えることはできるのではないか。そこで問うべきは、「実質的にどうか」ということと、「それをする目的は何か」である。その方が変化に対する順応性は高い。

■クジラたちの海

ここ2年近く、いわゆるクジラと呼ばれる機関投資家やビッグデイトレーダーを追いかけてきた。この業界の話はあまりこういう場で書けないのでためらいがちになるのだが、言える範囲で書き記す。

■だれ

多少うがった言い方をお許しいただければ、仮想通貨の流動性を供給する主体となるのはFXにおける銀行や証券ではなく、ヘッジファンドである。ヘッジファンドも大別するとエクイティ系の現物主体のファンドと、FXのような先物デリバ系のファンドがある。前者は主にプライステイカースタイルで後者はプライスメイカーであることが多いが、どちらも仮想通貨の流動性供給者として徐々に参入が始まっている。

多くのクジラは英米系か香港(中国)系に見えるが、その多くはアジア(香港、シンガポール)に拠点を持てっている。一部日本にも来ているが、ごく一部である。世界中の仮想通貨の半分強の売買はアジアで発生しているという人もいる。

■参入タイミング

彼らは行儀がいい。やはり米国等で規制当局と仲良く長年やってきているし、仮想通貨だけがビジネスではないしむしろ仮想通貨は色物でしかないから、規制を守るという価値観は揺るがない。彼らは規制がしっかりしていないと積極的には入ってこない。当局の後出しじゃんけんとか、笛が鳴ってからゴールポストを移動させる的なリスクに敏感である。よってたぶん今年の2Q以降になるとじわ~と入ってくるだろう。

■適正な相場

相場がこれだけ下がると仮想通貨はもう終わりだという論調と、いやここからだという論調が普通にあるが、私は後者である。仮想通貨が社会のインフラの一部になるにはまず余計なボラティリティをそぎ落とさなくてはならない。特に決済機能をもちたいのなら為替と同じくらいのボラティリティに落ち着かないと使えない。そういう意味で今のボラはだいぶ落ち着いてきたと言える。

ヘッジファンドにしてみても、営業を開始するにあたり在庫を持たなくてはならないのだが、今の相場水準はそうした在庫調達コストを下げてくれてありがたい。金融市場参加者の間では仮想通貨が終わったなどと誰も思っていない。むしろ“これからが本番だ”ぐらいに考えている。だからといってBTCが再び100万円や200万円になるかという話は別である。

■金利

未だBTCの金利は年利15%とかあると、もう終わりに近い国の通貨並みである。それを喜んで取引しているのもどうかと思うが、中央銀行がない、つまり金利を裏打ちする経済成長、それをさらに裏打ちする国家もないのでどこまでが高いとか低いと言えるのか私もわからない。単なる需給だけにしか見えないので、安定性は無いだろう。気を付けたほうがいい。

■主役

ビットコインが何時までも主役かという疑問には答えられないが、いつ順番が変わってもおかしくはない。そこは市場リスクとは関係ないが、事業リスクではある。いつの間にかXRPのマーケットキャップがETHのそれを抜いていたなんて、象徴的である。

■決済・受渡

クジラたちは現物取引がメインである。CFDはヘッジとしてはやるが、ヘッジ目的なら先物がいい。ただし現在のCMEやCBOEの条件は厳しい。一方FXのLP(マーケットメイカー)業を得意とするヘッジファンドは仮想通貨でも同じ、ネッティング決済をしている。“海”はそれら二つに大まかに分かれている。一つ目は、現物を取引したら送金(決済)を一件ごとに行う。つまりグロス決済を前提とする。そして、常に“You Pay Me First”原則になるやり方。これはどっちが折れるかでもめることもある。“君が僕に払ったら、僕も君に送るよ”というのは、相手にとってはプライドがかかった話なので、微妙な信用力の差があるともめる原因になる。

2つ目は、ネッティング決済を契約して決済額を通貨2側もしくは指定した通貨だけで決済する。そのために取引は日締め前に受渡日を繰り延べるスワップ取引をかませ、ネットポジションに対して3倍から5倍程度(それに限らない)のレバレッジとして、その逆数の証拠金を要求する方法である。一般に口頭では“CFD取引契約”ということがままあるが、正確には“ネッティング決済”+“指定通貨だけの決済”+“証拠金を指定したレバレッジで預託”という3点の条件をセットにした契約である。FX業者が普通にLPとやっている方法と理屈は同じである。これはこれでれっきとしたデリバティブ取引にあたる。取引としてはどちらでも“Cash”である。“CFD”ではない。クジラたちがその客と取引する場合の決済のルールは独特である。およそインターバンクの為替市場のルール(商慣習)とは相いれない。そもそも土日もやるというのは根本的な違いである。

■レンディング

仮想通貨はマーケットキャップが小さいので、キャッシュ(現物資産)を都合しあう活動が活発である。したがってレンディングマーケットは急速に発達している。しかし、LIBORのような指標となる市場が存在していないので、おのおの自己責任で情報を集めながら適正レートを見極めねばならない。個人投資家はそれでも手を出せるが、規制されたヘッジファンドや金融機関は、相場の妥当性が客観的に証明できない市場での取引には消極的になる。最良執行の観点等で条件を満たさないローカルベニューは使いづらい。

■クジラって誰

そもそもクジラという枠でくくるにはだいぶ違うタイプが入ってきている。いわゆる伝統的なヘッジファンドもPrice Taker、Price Makerと違いはある。そして、仮想通貨で成り上がったデイトレーダーも入っているし、IT側からやってきた連中や、通貨の両替商みたいな類似業界から来た連中もクジラの仲間入りをしている。

■取引サイズ

クジラの取引はかつてワンチケット100万ドル以上だったが、これもFX業界と同じで今は10万ドル相当ぐらいをワンショットにやっている。むろん相手次第で1BTCでも取引はする。逆にワンショット500BTCぐらいなら普通にやっている。

■次の市場

日本は仮想通貨といえば投機的市場にしか光が当たらないが、実は裏でプライベートチェーンの商用PoCとかいろいろ進んでいる。それは今回置いておいて、金融市場に限れば、これからはSTOだという気がして仕方がない。しかし日本は相変わらず交換所の話ばかりで、STOをどうするか、あるいはその前にICOをどうするかという議論が深まっている感じがしない。今年世界はSTOへ舵を切る。私はそう感じている。

■STO(Security Token Offering)

アジアの各国はもうSTOを認可する体制にシフトした国が増えてきている。本気でSTOの取引所を囲う体制に入ってきたと私は思う。シンガポール、台湾、タイあたりは本気であるように見える。当局と直接話している金融事業者(銀行や証券)と話をすると、具体的な話が進んでいると感じる。ICOやSTOについて日本はすでに周回遅れである。

■参入リスク

さらに最近気にするのは、海外のファンドやそうした金融の連中が日本への参入リスクとしてカルロスゴーンさんの逮捕拘留の一件に見られるようなリーガルリスクをより強く意識しだしている感じがすることである。そして、資金決済法上の登録に際して要求される400以上に及ぶ質問表の対応といったコスト。これらリーガルコストとリスクが不明瞭に高い点が嫌がられる。

■CFD(Contract for Difference)

CFDとしての仮想通貨売買はBitMexが米国のオペレーションをやめたように規制側はその過度な取引を快く思わないし、する側もあえてそこで規制当局と戦おうとはしない。基本は無国籍、オフショアの環境でやりたい人を呼びこんで市場を提供しているのとイメージは同じである。CFDで取引されるポジション、想定元本は、現物を持たされる会社、業者にとってはヘッジツールとしてありがたい。それは経済的有効性があると言える。先物市場と同じである。いま米国の先物市場の仮想通貨はBTCしかないし、証拠金は100%で、CMEやCBOEは現物デリバリがない(もうじきあり?ICEは現引きあり)。それに比べればBitMexは使い勝手がいい。かつ決済はBTCであるため銀行口座を一切必要としない。結果、多くの個人やプロがここに集まり、今や世界最大の取引高を誇り、噂話だがその収益もすさまじい。米国の客を締めだした分減ったがそれでも既存の取引所(現物中心)よりも100倍、200倍は当たり前という感じである。

そのBitMexと、やっていることは大体同じ日本の仮想通貨交換所の証拠金取引だが、結局オンショア日本人しか相手にできないのでそういう客が来ない。これは仕方ない。

これからの日本で今ある仮想通貨投機取引以外で目立って成長しそうなものは何かをいつも考えるが、少なくともICOやSTOではないだろう。日本でそういう性質の金融商品はもう育たないのかもしれないとすら思っている。この国は結局リテールしかないのだろうか。また、インバウンドから見れば規制言語、規制手段、税制、どれをとってもフレンドリーではない。むしろ仮想通貨よりもブロックチェーン技術として、物流や医療といった金融以外でブロックチェーンは使われ始めている。着実にブロックチェーンは社会インフラとして定着していく。今のところそう思ってみている。


プロフィール

尾関 高

尾関 高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社、米系企業を経て、現在は日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場、特に近年は仮想通貨の取引システム開発などを手掛けながら、それらにかかわる分野においても積極的に発信する。
著書:「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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