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尾関高のクリプトポロジー

第3回:SFD等に見る業界の弱点/Weakness of Japanese cryptocurrency exchanges such as SFD

 bitFlyerからSFD(Swap For Difference)のサービスを開始するという告知を受け取った直後に私は以下のような提案のメールを投げたが、まだ回答はない。しかし昨日(2018/2/22 18:30頃)、再びSFDの仕様を一部変えるという知らせが来たが、その内容は後日ということでユーザー間に動揺が広がったようである。その結果なのか、何の因果もないのか知らないがロスカットがロスカットを呼ぶような暴落があったようだ。しかし、チャートを見る限りそのような感じはしないのだがツイッターには結構書かれている。何が起きたのかな?



■私がSFDについて指摘した要点/My point on SFD and things

 現物市場と証拠金(なぜかFXと呼ぶヤツである)市場のかい離を埋めるためにそれが10%以上離れたらその水準で買った人と売った人とでその差分を付け替えるという調整方法は問題が多い。そもそもそれって利益供与にならないのか。交換業者が強制する顧客間の補てん行為という説明はすっぽりはまってしまう。理由と背景に一定の理解はできるがそれならそういう紛らわしい方法をしなくていい。さらにこの方法はツイッターでも指摘する人がいたが、逆効果にもなりうる。まるで、擦り傷にステロイドを縫っているような、見た目効果ありそうだが実は根本的に原因と対策がずれているから一見治りかけているように見えるが、永遠に治りきらずそのうち副作用が出るというパターンにしか見えない。例えがわかりづらいか?

乖離をさせたくなければ、デリバリーを可能にすればいい。至極単純なことである。原則、市場のかい離は市場の調整作用に任せるべきであり、交換業者(つまり親)が人工的かつ恣意的に(10%と決めることが恣意的)いじるのは不健全である。

なぜこのような仕様を当局は許したのか。許すも何もひょっとして事前相談もしていないのか。金商法下のFX業者では相談なくすることはあり得ない。報告がなくてもこれだけ時間が経てばわかることだから、それでいてなぜ今も放置されているのか。

そもそもなぜこの業界は現物市場というプールがあるのに証拠金のプールを別にしたのか。bitFlyerだけではない。海外でもレバ取引はあるがプールは同じである。当然、プールを分ければ水位は乖離する。プール同士の水が交わる仕掛け(パイプ)がないと水位はずれていく。そのずれを発生させたくなければアビトラができる環境条件を市場の参加者に与えれば済むことである。やり方は上記のデリバリー可にする方法以外に、そもそも同じプールで取引させればいい。

現物市場があるのだからそれ自体を証拠金取引させてあげればいい。株で言えば現物取引も信用取引も同じ板上で取引する。それである。しかし、それがあるとわかっていてもやりづらい背景も理解できる。それをやると交換業者自体が現物の貸借をしなくてはならなくなる。それは資金繰り上結構なリスクなのである。そこまで手慣れたオペレーションをするには金融のその道の経験者、業務管理者がいないとできないだろう。またそれに応じたシステム開発が伴う。経理も大変になる。

■市場の流動性の希薄さ/Dance with heavy weight on a thin ice of a pond

 仮想通貨は現物在庫が枯渇しやすい。なぜなら相場が上がりやすいからである。なぜそうなのと聞かれると私としては、「なぜAKBが人気なの」と聞かれているのと同じ感じがする。人気商品の在庫は常に薄い。そこに25倍ものレバで信用取引すると確実に市場はより上昇するだろう。いや、それが理由で上昇してきた。逆にベアリッシュな相場になれば、信用取引をさせる業者では借りるべき仮想通貨も現金(円)も資金繰りは上昇しているとき同様苦しくなるだろう。仮想通貨交換業者はそういうことに慣れていないと推察する。なにせインターバンクの金利市場にアクセスできるような業者はまだ一社もないだろうし、間に入るべき銀行(メガクラス)もそうそう相手にはしないだろう。

仮想通貨市場は需要のわりに流動性が薄い。なにせ供給元がコイン発行者とマイナーである。日銀がダムの大放水!みたいなことはできない。そういう薄い氷の上で、体重を25倍にして踊るわけだからそりゃ氷も割れる。結果ロスカットの嵐になる。さらに、取引所の台所のお勝手口から現物を仕入れる先は少ない。FXならCPが数行で十分行けるが、仮想通貨は2,3社相手では足りない。しかしどこの取引所も通貨にもよるが現物は結構足りないようで、頼めばどこでもCPになってくれるとは限らない。いまそうしたInstitutional market(FXでいうインターバンク市場的な存在)は整備がじわじわ進んでいる状態である。

■法的根拠/Regulatory point of view

 そもそも資金決済法の登録業者が仮想通貨を原資産とするレバレッジ取引をしていること自体不思議である。またそれを黙認(あるいは公的に許可?)する当局の法的解釈論も聞いてみたい。ここに開示されてるよ、って知ってる方がいたらぜひ教えてほしい。

ことは「資金決済」である。株の信用取引ならわかるが、やっているのが「証拠金取引」である。さらに、レバが25倍である。株のレバは3倍である。株のボラより仮想通貨の方が高いのは証拠を出すまでもないだろう。しかしながらいまだになんら規制の声も聞こえない。FXのレバ10倍をうんぬんするならこっちを先にやったほうがいいと思う。とある人が仮想通貨のレバ取引は法律がないからねと言ったがそれは違う。登録業者なのだからそこが何をするかについては当局の権限がある。金商法業者はその理解で今まで生きている。

FXのレバ規制議論高まるなか、明日流れるかもしれない大量の血もケアすべきだが、今流れているそこそこの血もケアしないとね。ことはコインチェック事件だけではない。私の常識からすれば資金決済法でできるのは信用取引までであり、レバは今のボラを考えれば、株が3倍、FXが25倍(もうじき10倍になりそうな気配)なら仮想通貨は2倍が限界である。「資金」「決済」「証拠金ベースのレバレッジ」って、もう考え方が破たんしているとしか思えない。八百屋に言ったら生命保険を売っているぐらいのギャップが私にはある。それでも今や現物取引4に対して証拠金取引6だそうである。私は冷たい水は嫌いなので薄氷の上で体重25倍にして踊るのはごめんである。

■投資家の甘さ/Investors, snap out of it.

 ネットで批判はいろいろ書かれるが、嫌ならやめればいい、としか言いようがない。理解不十分でそんなの聞いてないとか、そうなるとは想定外だったというのは政治家がいいわけで使えるのだからお墨付き用語なのだろうから存分に主張すればいいと思うが、結局あとは業者とOTC個別交渉となる以外ない。泣いても誰も同情はしてくれないので孤独な戦いになる。

■商品仕様の事前チェック/Financial System Auditing

 金融商品をデザインし、仕様に落として、システム開発をする流れの中で、最初の段階でそのアイデアが合法であるかを検討し、次に金融理論上矛盾がないかを検証し、そしてプログラムのコードレビューをして、最後はテストして検証という流れが本来あったほうがいいが、前半の検討や検証がすこぶる甘いのがこの業界の特徴である。FX業界もまだ甘い部分があるのは承知している。またそれに対応するべき当局の体制もまだ追い付いていない印象はまぬかれない。やはりFinancial System Auditor的な立ち位置の役割を確立する必要はあるのではないだろうか。ICOの世界でもAuditorはいる。いるべきであるが実際嘘ついているケースも含めて、要るし、居る。その目線で言えば、金融システム会社ももっと積極的に金融行政や規制当局と連携するべきだというのは長らく私の変わらぬ主張である。いまや深いノウハウは業者よりも金融システム会社に移りつつある。というかもう移ってしまっていると言い切っていいレベルかもしれない。唯一仮想通貨のInstitutional marketだけは例外かな。

使い古された助言だが、そんな中自分の資産を守るのは自分しかない。やるときは投機と割り切って全部なくしても“まあいっか”と言える額にとどめよう。


プロフィール

尾関 高

尾関 高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社、米系企業を経て、現在は日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場、特に近年は仮想通貨の取引システム開発などを手掛けながら、それらにかかわる分野においても積極的に発信する。
著書:「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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