第5回:仮想通貨ヘッジ/Hedging Digital Asset
用語定義:
ここで、「取引所」はCME、CBOE,JPXといった公的な取引所を指す。仮想通貨取引所は法令に従って「交換所」を使って呼び分けている。ここでの「交換所」と「業者」は同義である。両者が同じテーマで登場するときは意識的に呼び分ける。
■資産のヘッジ Hedging Digital Asset
現物取引を行う業者にとって、抱える在庫の時価評価を如何にコントロールするかは大事な命題である。それに対する解はすでに決まっている。あくまでも在庫は持つという前提は崩さない前提で、先物市場でヘッジするというやり方しかない。米国は、すでにCME、CBOE、そしてICEもそのうち(ベンチマーク提供はウェブサイトで開示されている)と、すでにヘッジ市場はある。では対円でヘッジできる市場はといえばまだない。取引所は先物市場なので、仮想通貨の現物を扱う必要がない。それは運営する側にとってはありがたい条件である。ウォレット管理をしなくていいのは業務リスク負担が極端に減る。
現物市場と先物市場との理論上の価格差は金利である。例えばBTC/JPYを想定すれば、BTCのキャリーコストと円のキャリーコストの差がそれに相当する。外為証拠金取引で言えば、日々のスワップがそれにあたるが、その分が価格に織り込まれている点が違う。先物市場が成立するためには、その金利がある程度透明になっていて、それなりの流動性があり、そこにマーケットメイカーたちがリーチできることが望まれる。それがあって初めて、先物市場に流動性が生まれ育つことになるが、それを実現するにはまだ足りないものがある。
① ベンチマーク Benchmark
まずは現物市場の流動性と多数乱立する交換所間のギャップである。現物市場のベンチマークは、Tradeblock社のXBXやCME等取引所のReference Priceがあるが、それらは対ドルである。単純にそれにUSD/JPYのレートを掛ければ対円のベンチマークは作ることができる。あとはそのベンチマークが実際の日本の多数の取引所のBTC/JPYのレートとどれくらい乖離しているかが気になるところである。私が観察する限りではそこそこのトラッキングエラーがあるように思う。それ自体はアビトラする人からすればフリーランチなのでおいしいのだろうが、それはそれ、ベンチマークはベンチマークである。
② 金利市場(貸借)Lending market
かなりレンディング(貸し借りの)市場は育ってきている。対ドルの市場はいくつもある。海外の取引所の大手は大体手掛けている。やり方は2通りで、取引所自体が客の持つ現物を借りてくれる店頭と、客同士で貸し借りをする仲介(媒介)のモデルである。前者について、個人は取引所に対する信用リスクを負う。後者は個人同士のリスクを負う。見たところBTCのドルベースの金利は年利で8%ぐらいだろうか。少し古いかもしれない。なぜ8%が出てくるのか、そのフェアヴァリューの求め方は興味が尽きないが、それは置いといて、とにかく大体年利8%ぐらいであるとして、今の円金利が0.5%ぐらいとすれば理論的な先物価格は計算できる。その値を中心にして、あとは需給で上下するのだろう。日本の交換所もだいぶあちこちでレンディングサービスが始まりだした。あとはこれらの流動性が増えかつ均質になる発展が望まれる。
③ 先物市場と並行したOTCのフォワードマーケット Forward Market
インターバンクFX市場のようにフォワードマーケットが存在してくれているとよりありがたいのだが、これはまだまだこれからだろう。実際今はそれほどの需要があるわけでもない。
④ 為替スワップ Currency Swap
現物が足りないけど、買いたくはない。円を担保に差し出して買い戻しレートを固定した一定期間の貸借をしたいという需要はすでにあり、知る限り海外の大手(クジラやイルカたち)はOTCでやっている。こうした仮想通における商品、市場の発展は、為替等の金融商品のそれと何ら変わらない。単にまだ原始的なレベルにあるというだけである。この辺の知識や経験は銀行、金融機関の市場部門で活躍した人たちのノウハウが入れば特段難しいことではない。そのための契約書のひな形などいくらでもある(しかしそれを経験のない者が最初から作るのは無理がある。そう考えれば彼らのノウハウは貴重である)。あとはそれと仮想通貨特有の決済方法を親和させるシステムが安定的にかつ安全に運用できるようになれば技術的には解決する。加えていえばそれに法的対応と財務会計的対応(税務含めて)がうまくはまれば完璧になる。
⑤ トラディショナル連中の参入 Traditional Financials marching into crypto fields
海外の大手にはゴールドマンサックス等の伝統的金融機関が資本参加して乗り込んできている。彼らがそうしたノウハウを伝授していることは想像に難くない。その結果の一部はすでにちらちら見えてきている。日本では証券会社がひとつ買ったが、銀行系は“まだ”である。日本の投資銀行系はそこまでアグレッシブなカルチャーをもっているイメージはない。信託系はこれから仮想通貨の信託ビジネスとして参入してくるだろうが、欧米に比べて遅い。
こうした金融の基本的な市場インフラが整えば、業者が抱える資産に対するヘッジも難なくできるようになる。やるべきこと(ゴール)はわかっている。あとは道筋とゴールに向かう時間の問題に見える。
⑥ 具体的ヘッジ Hedge in Practice
とりあえず、今現在資産を抱えてしまっている業者がその市場リスク(値洗いリスク)をヘッジするには、CMEあたりでヘッジして、そこで生まれる為替(USD/JPY)も同時にヘッジするという方法で対応は可能である。
さいごに目線は変わるが、仮想通貨交換業者として、そうした仮想通貨資産の簿価計算はどうしているのだろう。証券業でいう「トレーディング損益」に含めるのか、含めるとしたらその計算方法はどうしているのか。例えば差額をトレーディング損益に入れるのは構わないが、残った資産残高は棚卸資産として計上するだろう。その時の簿価計算方式は総平均か移動平均かあるいは別の何かか。すでに証券業協会とかで財務会計上のルールは決まっているのだろうか。まだ調べていないのでだれか知っている人は教えてほしい。