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尾関高のクリプトポロジー

第6回:仮想通貨機関投資家市場の成長/The Cryptocurrency Inter-Institutional OTC Market

■海獣の存在/Whales and Dolphins

 一般的に視界に入るのは個人投資家向けに開かれた仮想通貨取引所の市場なのだが、実はそれとは別のFXでいうところのインターバンクのような市場がある。それを機関投資家市場、プロ市場、Institutional Marketとかいろいろ呼ばれるが、私が一番気にいっているのは、最大級の流動性を出す連中をクジラ(Whales)と呼び、そのちょっと下あたりをイルカ(Dolphins)と呼んでいるところである。とりあえず私はこれを”Inter-institutional Market“と呼ぶことにする。

インターバンクFXでも取引の最低額は一般に100万ドル(1億円)相当だが、クジラたちも大体それぐらいのサイズで取引をしあっていたが最近は10万ドル程度でも相手にしているらしい。では、クジラと呼ばれる人たちは具体的にだれかというと、DRW, Smart Contract, DCG, Circletrade, といった名前が耳に届く。クジラとドルフィンの境界線は人によるので誰がクジラでドルフィンかということを私が言える立場でもない。クジラとはあくまでも通称なので、自分が“おれはクジラだ”と言っても他者に“お前が?そんなわけない”と言われればそれまでである。私が知る限りこれらの4人はクジラだよねといっても誰も否定していない。そういう意味で間違いなくクジラである。最近彼らは買収、業務提携、伝統的金融機関の資本参加等を活発化しており、メディアでも取り上げられているので名前を見たことがある人もいるだろう。

海獣のタイプと取引高
 そうしたクジラやイルカたち(まとめて海獣(Marine Mammals)と呼ぶ)は、2つのタイプに分けられる。それは巨額な在庫(資産)を持ちアセットベースでキャピタルゲインを狙う戦略に傾倒するタイプと、在庫はそうでもないが、売買における利鞘を上手に抜くタイプである。彼らの生み出す取引高はどれくらいという質問をすると大体大きなぶれなく、世界中のB2Cの取引所が開示する取引高3に対してこれらの海獣のそれは7であるようだ。彼らの取引は一部金融情報ベンダーも記事にしていたが、スカイプ等を使って行われる相対取引(OTC)である。したがって誰にもその全体像を統計的に追うことはできないが、クジラたちの数は少なく皆が共有する情報からの意見なので決して大きくはずれていないだろう。つまりその程度の数の海獣たちの取引高はB2Cの取引所の取引総額の2.5倍ぐらいあるということである。

在庫を持つことの意味
 仮想通貨のマーケットキャップはCoinMarketCapの数字を見てわかる通り全部足しても時価総額として30兆円ぐらいである。法定通貨に比べれば、まだ“その程度”というべきだろう。そして今この仮想通貨の資産を集中的に、通貨にもよるが、発行数量の10%以上を一人の人間が保有するケースがある。具体的に知りえるのは当人に会って聞かないとなかなかわかりづらいが、取引所のコールドウォレットならある程度財布が透けて見える。市場のアセットの10%を握るということは相場を動かせるという意味と捉える。法定通貨、特に先進国のそれらにおいて一人で10%以上を保有することはまずない。あったとしてもそれは公的な機関(中央銀行とか)であり、スペキュレーションはしない。しかし仮想通貨市場においては、発行数量の10%以上を保有して相場をマニピュレートすることは十分可能である。またそうすることは今のところ違法ではない(マニピュレートの定義による)。現在米国では規制当局がマニピュレーションをあげつらっているが、そう簡単に捕捉できるものだろうか。

在庫を牛耳ることから生まれるパワーを知ったら、ひたすら在庫を膨らませることに執心するのは自然の流れである。コインはどんどんマイナーによって発掘され続けている。数に限りがあるビットコインでも、そのぶん単位が細分化されていけば対数的無限性は生まれる(それでも有効小数点に限界はあるが)。

■海獣の生態/Faces of Sea Mammals

流動性の提供者 /As a Liquidity Provider
 では海獣の客になるのは誰かというと、まずはICO事業者である。ICOを立ち上げた連中は手元にドルや仮想通貨(主にBTCとETH)を持っている。彼らはその仮想通貨の一部あるは多くを売却したがる。仮想通貨だけでは飯は食えない。またその額は大きい。それをB2Cの取引所つまりリットマーケット(Lit market)で一気に売れば市場にインパクトを与えてしまう。できればこっそりまとめてマーケットインパクトを与えずに売りたい。さらに取引所を通すと手数料もばかにならない。そういう時海獣はありがたい「まとまった流動性の提供者」となる。

機関投資家 /As an Institutional Investor
 あるいは、ICOによって生み出す新たなトークンのバルク買いの相手として海獣に営業を掛けてくる。この場合海獣は「機関投資家」としての顔になる。海獣には市場に出回る前の希少な情報が集まりやすい。それにより彼らはいわゆるICOの目利きとしての力がそなわる。海獣は案件ごとにそのICOの事業内容を吟味し、価値があると思えば買い、そしてそのトークンがいわゆる株でいう上場を果たしたときの値上がりをキャピタルゲインとして利益化する。彼らのもとには公開されないICOもやってくる。

マーケットメイカー /As a Market Maker
 さらには、世界中の取引所から取引を求められる。多くの取引所は客同士をぶつけ合わせる板を提供するとともに店頭でのマーケットメイキングもする。いわゆる交換とか販売と呼ぶそれである。板は客同士で完結するが、店頭は取引所が相手になるので、カバーを必要とする。FXで言うところのカバー取引である。この相手になるのが海獣たちでもある。このカバー先としてのサービスを提供するCP数は今極端に少ない。

■日本への進出/ Penetration into Japan

 彼ら海獣の一部はすでに日本に上陸している。まずは上述のマーケットメイカーとして日本の取引所のカバー先としての存在感を出し始めている。今まではほとんどの日本の仮想通貨取引所がカバー先にしてきたのは他のB2Cの取引所であったが、それだけでは選択肢が限られ、市場が成長するにつれて流動性が不足してきている。また、FXで醸造されたあらゆる金融システムのインフラを求めればその中身はまだまだ未成熟であり、なかなか心地よく業務ができない。また、取引後の決済業務のブロックチェーンならではの特殊性と煩雑さがシステムのモデル化を阻む。さらに仮想通貨という特殊性からコインチェック事件に見られるような鍵の管理に対するリスクもそのシステム開発の重石になる。その技術的な問題はまた別の議論として、怪獣たちは市場の求めるサービスを構築すべくその体形を変化させつつある。

■変化/ Advance

伝統的金融市場へ /Follow Traditional Financial Market
 プロの店頭仮想通貨市場は明らかに伝統的な金融市場のそれに近づこうとしている。その理由は、それが合理的であり自然だからである。外国為替市場は基本的に、金利(Interest/Deposit)と為替のスポット(FX)とそれらを合成した先渡市場(Forward)の3つが原資産となる。すでに仮想通貨市場にもレンディング(Lending)と呼ばれる貸借市場が成長しつつある。これは仮想通貨の金利市場を形成する。次に当然出てくるであろうフォワード市場はまだその期を待つ。ただしその代替効果としてCBOEやCMEは仮想通貨先物を上場しているのであるといえばある。さらにはOTCの仮想通貨スワップも始まっている。一定期間、取り決めたレートで例えばUSDとETHを貸借する契約である。

仮想通貨は日本では証拠金取引が取引高ベースでは70%ぐらいと現物取引を凌駕しているが、もとはやはり現物ありきである。すなわちどれだけの在庫があるかは常にセトルメントのフェーズでは大きな問題になる。特に在庫を十分に抱えないままマーケットメイクをしていると、決済時の在庫の枯渇は大きなリスクになる。法定通貨の場合、在庫に困ることはない。貸借市場を使えばドルでも円でもメジャーな通貨なら簡単に手に入る。むろん相当のコストを払えばであるし、貸借ベースであれば信用力は必須である。仮想通貨の場合、信用力があってもそれを客観的に評価したり担保したりする機能が市場にない。例えばムーディーズが仮想通貨業者を格付けしてくれるかといえばそれはまだない。あくまでも個々の取引相手同士が過去の経歴や現在のバランスシート情報を開示しながら(しないところのほうが多いが)自己責任で信用を付与しあうしかない。さらに言えば、バランスシートとは言っても仮想通貨の会計基準が国によって、あるいは相手によって統一されている感じがしないのでそこに書いてある営業利益がどれほど本当なのかは心もとない。



伝統的金融市場のプレイヤーの参入 /Participation from the Traditional Market
 Circletradeにゴールドマンが資本を入れた例のように、あるいは300以上(たぶんもっと多い)もの伝統的なファンドが仮想通貨をそのポートフォリオに入れ始めている今、伝統的金融市場のノウハウや経験を豊富に持つ連中が仮想通貨で成り上がった海獣と姻戚関係を結んだり、取引相手になったりしながら取引慣習やルールを融合させようという動きが出てくるのは必然である。またそれに法的整備も後ろから追いついていく。これにより仮想通貨の金融市場としての大義のインフラはこれから加速的に進化し、より既存の金融市場の振舞いに近づいていくだろう。当然私がやっているプロジェクトもその一環である。

金融市場として成立する過程において、KYC/AMLは必須になる。そうなると一定の集中管理は避けては通れない。そのあたりの綱引きがどう動くかはこれからの市場の流れを注目していくしかない。

取引システム /Trading System
 彼らが求める取引システムは、自前で作るクジラもいれば、外部のそれを使うところもある。それらは伝統的金融市場でいえば、おおむねアセットマネジャーが使うようなシステムだが、それが一番親和性が高い。なぜなら彼らは仮想・法定通貨をアセットとして(現物)取引するからである。FXは現物だが基本オフバランス扱いで取引するし、流動性も十分なので在庫を心配しない。足りなければすぐ買うか借りてくればいい。一方仮想通貨を相対取引する海獣たちから見れば、仮想通貨は時にFXのようでもあるが、それ以上にアセットでありキャピタルゲインを狙うべき資産でもある。それはちょうど株式を運用するファンドマネジャーのそれに近い。当然そこではこれからさらに貸借取引からレポ市場的な取引や通貨スワップ的な取引も生まれるだろうし、ヘッジ目的での先物取引も行われるだろう。当然法定通貨の取引も混じり込んでくる。

■伝統的金融市場との決定的な違い/ Critical Difference Between Cryptocurrency Market and Traditional Fiat currency Market

ヘルシュタットリスク的リスク /Herstatt Risk-ish Risk
 取引自体の作法はFXと同じである。USD/JPYでもBTC/JPYでも変わらない。あえて言えば、店頭FX取引をイメージする人は、そこではなく、その業者がカバー取引を銀行とするそっち側の取引と同じである。問題は決済である。銀行と取引する場合、業者はその銀行あるいはPB銀行に口座(Collateral Account)を開くのが一般的である。それをするメリットの一つにはそこで決済するべき通貨の口座が開かれ、そこでドル売り、円買いという2つの受渡しが同時に決済されるためヘルシュタットリスクが存在しない。一方、仮想通貨と法定通貨の取引を店頭で法人や海獣たちが行うとそうはいかない。彼らはインターバンクのメンバーではなく、銀行から見れば一法人顧客である。したがって、自分の銀行口座から相手の銀行口座へ法定通貨を「送金」し、それとは別に(非同期に)、仮想通貨が相手のウォレットから自分のウォレットへ送金されてくる必要がある。この2つの相互送金は同時にはできないので、そこにはヘルシュタットリスクと同じリスクが生まれる。理由はともあれ、実際払ったのに相手から対価が送金されないということは起きる。

この問題(DvP)に対する解決策はいろいろあるが、それはまたの機会にまとめたいと思う。


プロフィール

尾関 高

尾関 高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社、米系企業を経て、現在は日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場、特に近年は仮想通貨にかかわる分野においても積極的に発信する。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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