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尾関高のクリプトポロジー

第7回:ダークコイン/Dark Coin

 Monero、Dash、Zcashは匿名通貨だから日本の交換所は扱ってはならないということなのだが、交換所が扱わなくても個人は買えるし売れる。KYC/AML観点からけしからん機能であるという意見はよくわかるが、ネムは盗まれ追いかけても結局犯人を特定できなかった。これだけ大規模に目立つことをされて、世界中のホワイトハッカーたちが匿名でないからこそできるアドレスの追跡をしたけれど、結局犯人逮捕もできないし、盗まれたコインを取り返すこともできていない。つまり、アドレスがわかっていて追跡ができても、結局KYCができないとどうにもならないと知った。

これらの匿名コインは若干の仕様の違いはあれど、送金先のアドレスと額は見えない。そのこととKYC/AMLの問題はあまり関係というか効果的な関係は見いだせないのだが、皆さんはどう思っておられるだろう。

相対的に、匿名通貨のほうが追跡されにくい(できない)ということは言えるが、そもそもアドレスと個人を紐づけられないとダークだろうがリットだろうが結局AMLの効果は期待できない。日々AMLに抵触するような資本移動は数限りなく行われていると想定されるが、現在それらを止められてはない。これからも止められない。一つのアドレスと一人の実在する人間あるいは当局が管理・特定しうる法人と結びつくという、今の銀行口座のような仕組みができない限り、ダークコインを禁止しても意味はないし、最初に言った通り交換所が扱えなくても誰でもDEXや外国の交換所で取引できてしまう。世界中の交換所がダークコインの取り扱いをやめても、個人がDEXで取引したりP2Pでダイレクトに送金したりすることを止めることはできない。そういう風に考え出すと、そもそもダークコインを禁止するという小手先の規制にエネルギーを使うのは無駄なのではないか、と思えてしまう。

ならばKYCを強化ということで、今ある多くの交換所は各国の規制に従いKYCをしている。しかし、それと紐づけたアドレスはKYCされても、それ以外のアドレスには及ばない。すべてのアドレスがKYCなしでは使えないという機能でもない限り、今やっているKYCの実態は付け焼刃でしかない。じゃあどうすればKYC/AMLができるのかということなのだが、それはあきらめるより仕方がないという結論しか私の頭には浮かばない。

今や仮想通貨交換所は個人投資家の多くに支持され使われているから見た目交換所によるKYCは機能するかに見えるが、将来的にはDEXを中心とした規制されない交換プラットフォームがメジャーになっていくという仮説は今から真剣に考えていた方がよい気がする。だからといって何かいいアイデアが浮かぶかと言われれば私にもそれはわからない。ちなみにDEXは見た目交換所に見えるが、決済はP2Pなので交換所ではない、という理屈は屁理屈なのだろうか。

毒を食らわば皿まで的な発想だが、一つKYC/AMLに効果がある方法は、国そのものがその国の法定通貨を仮想通貨にしてしまうことかもしれない。投資家、資産家の一部はリスクを背負ってでも自由で安価な資本移動を望む。それがやがて国家の崩壊にすらつながるかもしれないなどという大それた発想など持ち合わせてはいない。一方、大半の人はKYCされてもいいので安全な資金移動を望むし国家が保証してくれる資金管理方法を望む。今、法定通貨をペグした法定仮想通貨を発行すれば、かつそのアドレスが厳格にKYCされるという仕組みを持てば、KYC/AMLの問題において、むしろ追跡能力は上がる。ペグする以上相場は生まれないからその分の欲までは吸収できないが、決済目的(Payment)としてはこのほうが信用も使いやすさもBTCやETHの比ではなくなる。そしてそのKYCされたアドレスにマイナンバーまで紐づけば、がちがちのIDになる。さらにこの法定ペグコインのプロトコルはスクラッチで作るのだから最初から匿名がいい。そう、これらの条件がそろえばダークコインのほうが優れていることになる。KYCさえされていれば、ダークの方がいいに決まっている。誰も自分の財布の残高や送金履歴を知られたいとは思わないから。それらの情報を見るカギは当然当局や発行体である中央銀銀行等が持てばいい。

ただし、ここで現実的な面に目を向けると、そうした重要なカギを管理する主体として今の政府(行政機関)が信頼に足るだろうかという疑念が生まれてしまう。ことは仮想通貨の話にとどまらず、各省庁や外郭団体における“感性の鈍さ”という意味での情報の取り扱いの甘さ、歪曲化、“広く公衆に奉仕する”という矜持を忘れ、上司や権威への忖度を優先させる文化が根付いた組織に個人情報のカギを預けられるだろうか。また、日本年金機構からデータ入力作業の委託を受けた外部業者が、他国の業者へ作業を再委託していたという事例からも、ずさんなデータ管理の実態が垣間見えるところであるし、そしてその後の対応として、役職の重い者が辞任するか、謝罪する程度で済んでしまうことからも、危機管理意識の低さを感じざるを得ない。さらにいえばそれはヤフーニュースには載ったが、その衝撃的な事実よりもアメフト問題を優先して報道するテレビメディアの感性の鈍さを見るにつけ、やはり権威から離脱したいという思いが仮想通貨に具現化されていくのも不本意ながらうなずけるのである。

私は仮想通貨に逃げろとは言わない。それはそれでいばらの道である。むしろ国民を今ある有象無象の仮想通貨に持っていかれないために国は何をすべきか、国に何を求めるべきか、我々は個人としてどうすべきか、という目線で見ている。


プロフィール

尾関 高

尾関 高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社、米系企業を経て、現在は日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場、特に近年は仮想通貨の取引システム開発などを手掛けながら、それらにかかわる分野においても積極的に発信する。
著書:「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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