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ICOという概念を取り巻く様々な問題点について

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ICO

ここ数週間、ICO(Initial Coin Offering)に関連するニュースは相変わらず次々と出てきており質問や相談を頂く機会も本当に増えた。法律的観点や技術的観点からの識者見解・コラムも各所で見られるようになっているので、本日はそうした専門家視点からの見解ではなく純粋なビジネス的視点、若しくは、あまり仮想通貨に触れてきていない方の感覚に近いところから、このICOの実態と問題点について触れてみたいと思う。



そもそも、このICOというのはざっくりいうと、発行者が独自の「トークン」を発行し、それを販売することで資金を集めることが可能な仕組み、と大枠定義できる。ここだけを見ると未上場株の新株発行に近いのでは、と考える方も多いと思う。そう考えた時、株の発行と比べて何がどう違っていて、発行者と出資者にそれぞれどのようなメリットがあるのだろうか?

単純に経済的観点から考えた時、メリットは下記のような感覚なのではないだろうかと思う。

●発行者のメリット

証券の発行に比べて簡易かつスピーディにトークンを発行でき、より簡易に資金を募ることが可能である点。また、副次的効果として「ICO」や「仮想通貨」というキーワードを介してリリースを打つことで本来のスキーム以上に周りの期待値を高め、資金を集めやすい効果も直近ではあるのではないかと思う。

●出資者のメリット

超初期の投資機会に参画できる可能性がある。マイナートークンは発行直後の次点では比較的価値が低く、意義あるプロジェクトに育っていった際の値上がり幅としては一般的な有価証券よりはるかに高いキャピタルゲインを期待できる可能性がある。(筆者は懐疑的な視点も強く、案件を見極める難易度とリスクに合わないのでは、とも思っているがそれは後述する。)

但し、このメリットを一見した限りでも大きめの問題点が2点、懸念されると思う。

ひとつめは端的に「法律の問題」だ。前述の発行者のメリットを読むと、この内容は有価証券や新株発行のメリットに近しいものであり、有価証券との差別化が問題となる。実際にThe DAOというトークンが過去に発行されたが、そのトークンが「配当」を想定していたため、米証券取引等監視委員会(SEC)はその有価証券性に注視し、米国有価証券取引所法の規制対象になる可能性が高いとしている。

今後も日本国内でも同様の争点は必ず発生することと思う。有価証券と判断されれば日本国内では金融商品取引法の下で様々な規制を受けることになる。配当云々以外の面でも、上場会社が気軽にトークンという裏道を介して増資できてしまうと既存の株主等のステークホルダーにとっては不可視的なリスクが増える可能性も高い。全くの同視でなくとも、何らかの有価証券に近しい概念としての規制は将来的に受ける可能性があると考えている。

また、仮に規制が為されなくとも「法の未整備」につけこんで見切りで気軽に増資や資金集めをしようとするような集団や経営者のツールになってしまうとICOに未来はないのではないか、と私は考えている。

ふたつめの問題点は「詐欺の横行」である。実際、私は現在見かけるICO案件の殆どが何らかの詐欺的要素を含んでいるのではないかと思っている。そして一方で、そのくらいの感覚が仮想通貨やICO関連の案件に資金を投じる人にはちょうど良い感覚だと思っている。

そもそも、ビットコインをはじめとしたブロックチェーン関連サービスは元来よりそうした土壌で培われてきた概念なのだ。「疑わしきは真っ黒」くらいの先入観で見られてようやくリスクとリターンの判断が追いつくと私は考えている。むしろ、ブロックチェーン創成期からこうした技術や概念に関わっている方ほど、至極当たり前のようにこういう感覚なのではないだろうか?それでも、本当に良いものは伸びてくるし市場を形成する。取り立てて期待値高く、見守る必要なんてないのだ。

私の私見ではあるが、生粋のビットコイナーやブロックチェーン技術者は自分たちがやりたいことを思うがまま、アウトロー的にやれればそれで良く、最近のような後進のVCや自称ブロックチェーン技術者&経営者が拙い知識で仮想通貨事業やサービスを謳い、資金集めや詐欺に近しい議論を日夜発信している状況をいぶかしく思っているのではないかとさえ思っている。

この「詐欺」または「詐欺的勧誘」に関する問題は意外と根深く、どこからどこまでが詐欺で、どこからが「確度の低い、しかし、革新的で中身のあるビジネス案」なのか、判断する軸がなかなか定まらないのが現状だとも思っている。


そこで、事業家軸で大変恐縮なのではあるが、私がICO関連の相談をお受けしたときにどのような観点で何を見ているかをご紹介したいと思う。そもそも、私は経営視点で一つの事業を見るとき、ざっくり下記のような要素を見て案件の成否と可能性を判断している。

<最重要の要素>

「経営者」 ⇒ ヴィジョンを描く人の存在。また、そのヴィジョンの内容が社会的/経済的/技術的/ニッチ層のHappy、のいずれかの分野で存在価値を有しているかを見る。

「技術者」 ⇒ ヴィジョンを技術的側面から可能とする人が存在しているかを見る。内包せず、パートナー的なつながりをしている案件も多いが、基本的には経営者と二人三脚で連携していなくてはうまくいかないことが多いとみている。

「市況を見据える目」の存在 ⇒ 経営者または技術者に備わっていればそれで良いし、そうでなければCOOやマーケティング担当者など、経営主体の内部に担当者がいるのが望ましい。簡単にいうと「そのサービスでだれがHappyになるか」を専属で徹底的に追及する人、およびその価値観の存在を見る。

<次点に重要な要素>

「法的適合性」 ⇒ 規制する法律の有無と適法性を判断。類似事業分野の有無も見る。これは金融系事業や今回のような仮想通貨事業では特に重要な要素であり、前述の3点が備わっていても法律に合致しないためそもそも実践できないといったケースもある。

「プロダクト」 ⇒ サービスイメージがどこまで商品として具現化されているかを見る。これは具体的な商品まで昇華されていなくとも、売りとなる技術そのもの、または技術まで行っていなくともビジネススキームの素案レベルでも、実現可能性が高いと判断できるものがあればプロダクトと同視することがある。仮想通貨関連事業では、最重要と同視しうる程度の重要性がある。

こうした視点でICO案件を見た時、私は下記のような傾向があるように感じている。

1)経営者

 ⇒ヴィジョンがある経営者は一定数いるイメージ。漠然とであるが社会のインフラを目指したり、集金/決済の仕組みを変えたいという意欲を持っている方は多い。

但し、目指そうとしているヴィジョンが「ものすごく大多数を巻き込んでパブリックなビジネス」をイメージしている方が多く、途中の段階、最初はミニマム何を作って、どうスケーリングしていくか、を視野に入れている方は非常に少ない。新技術に強い期待を抱いており、技術が優れているから何とかなります、的な人は多い傾向。

個人的に、詐欺とほぼ同視したくなるほど成功確度が低いと思っているパターンは下記のようなもの。

①技術面ではかなりマニアックでニッチ層向けの技術基盤&戦略をとっているのに②経営者は大多数の利用者を想定したインフラ構築を目指しており、③それらをスケーリング&実現するための法務経験者・技術経験者は特に居ない、④でも「きっとできるはずです。理論上この技術は優秀です」と漠然とした可能性の追求は熱心なパターン。さらには⑤自社技術であるはずの最重要機密事項が曖昧な契約条件でまるまる外注されている、といったケースも実際に存在する。在り得ないようで、実はこのパターンはかなり多い印象。

2)技術者

 ⇒絶対的な技術者の総数が少なく、運用者からCTOまで内包できている事業体は非常に稀有。特に、実務的側面、サービスの内容を理解して「運用に足るシステム」を開発し保守運用できるプレイヤーは本当に少ない。

仮想通貨関連の案件で特徴的なのは、ビジネススキームに近しい話(いわゆるCTO的な人、経営寄りの人材)は居ても、実際に手を動かして開発に落とし込むプレイヤーが本当に少ないので、どのように開発を実践し「ヴィジョンの実現に必要な品質を維持するのか」に具体策を持っているかをチェックするのが重要。

プレイヤーが少なく、フリーランス的に動く小口の個人へ外注してしまっている大手案件も多い。最終的な開発者の技術とモラルにサービスレベルが依存する傾向がある。

3)市況を見据える目

 ⇒自社サービスのターゲット層を明確にイメージし、さらに、その人たちに何を提供しどういう面でHappyにしていくか、という視点を持っている案件はICO分野では非常に少ない。技術先行の案件では、「仮想通貨やICOを取り扱うこと」自体をゴールとしていて、利用者をそもそもイメージしていない案件も存在する。

こうした案件に関与する際は、出資者側も同様に「参加することに意義がある」だけであればそれでも良いが、リターンや新サービスへの発展を期待する場合は「既存の●●みたいなサービスを利用している人」に対して「こういう利点があるから意義があります」程度まではヒアリングをしておくことをおすすめする。

4)法的適合性

 ⇒法の未整備はある程度しょうがないが、一方で、法律が整備されたらプロダクトの優位線やメリットがほぼ消えてしまうビジネスがとても多い。

例えば、前述したように、トークンが完全に有価証券的な扱いとなり手続きや監査が厳しくなると、そもそもICOを使った調達メリットは消えるのでは、というような矛盾の存在。

トークンで配当を行わないために、「前売り券」的な媒介物としてトークン発行をする案もあるが、前売り券は該当商品の金銭価値に対して相応の供託金を積まないといけないため、そちらもやはり、ICOのメリットを殺しかねない。

法やインフラ側に一定の配慮を期待しての案件も多いのだろうが、それも、被害者数や消費者のクレームが一定度以下に保たれている前提だろうと思われる。この点は現在の日本ではある程度(既存の仮想通貨事業者にとって)良い流れで進展していると認識しているが、いずれにせよ、消費者のリスクを高めつつ法の規制を回避するため「だけ」に仮想通貨技術が使われても社会はHappyにならないだろうと個人的には考えている。

見るポイントとしては、過度に法的な優遇措置を前提としていないか、などは最低限見ておくべきといえるだろう。

5)プロダクト

 ⇒今現在、ICO案件でプロダクトレベルまで構想が実体化された案件はほぼ無い認識。

この点が実はICO案件で一番の問題とも考えており、技術者、経営者、出資者、消費者それぞれのリテラシーとビジネス感が異なり過ぎていて、どのレベルまで何が備わっていると「プロダクト」といえるのか基準が相当に不明瞭な状況。

 そのため、ICO関連の案件においては他分野よりかなり間口を絞り「サービス態様」「利用者像」「マネタイズ」「それらを可能とする技術」「技術者の存在」が(構想レベルとしても)備わって初めてプロダクトと定義するようにしている。そして、この点を満たす案件に出会ったことは、私個人の関知する範囲ではまだない。

以上、やや厳しすぎると言われてしまいそうな感はあるが、ICO案件を見る際の視点と判断軸をご紹介させて頂いた。

勿論、これらをすべて踏襲して厳しく精査していく必要は必ずしもなく、マネタイズやリターンを気にせず、新しい事業分野に参画したい、という一点を持ってICOに参画していくプレイヤーもいることだろうし、それはそれで良いと思う。

しかしながら、現在のICOを取り巻く市況は過熱感が思いのほか強く、ビットコイン自体の高騰を良い契機とばかりに、猫も杓子もICOといった風潮が出てきているのも事実だ。そしてこの異常な期待値の高まりが、良からぬ事件を呼び、今後の規制の火種を作ってしまう可能性もあると危惧してもいる。


ICOには面白い側面は確かにある。しかし、それは既存の調達スキームやポイントサービス、前売り券の代替物として用いられる技術ではなく、新しい価値の創出、若しくは利用者or出資者のロイヤリティと直結した概念になるのではないかと個人的には考えている。

例えば、最近流行っているマストドンというサービス。あれはインスタンスと呼ばれる固有の小さなSNSをいくつも立てて利用できるサービスなのだが、そうした一つ一つのローカルSNSにおいてはインスタンスごとに一定の付加価値が発生していると私は認識している。利用者の質、飛び交うタイムラインの内容、より小さなコミュニティだからこその独自性と付加価値がそこにはあるのだ。

本当に例えばの話ではあるが、ICOによるトークン発行と価値創出のスキームは、そうしたコミュニティ創出型のサービスと連携ができると面白いのではないかと考えている。コミュニティ参加者や運営者のモチベイトや、そこで発生する広告価値の分配など、様々な場面で各コミュニティの価値を可視化&参加者へ還元する意義があると思うからだ。

インスタンスの目指す方向性によってはトークンを発行し、自分たちのSNSの価値を高めるべく意欲的にOPEN化するという選択肢を選んだり、逆に、独自性を守るためにトークンを発行しなかったり、発行はしても流通させないなど、CLOSEDサービスとして運営することも、様々な選択肢があると面白そうだ。コンテンツの在り方だけではなく、プラットフォームの在り方も非常に多様化してきた現在だからこそ、価値の具現化とその流通に新しい在り方があっても良いと思うわけである。

こういう視点からICO概念が成熟していくととても面白いのではないかと思う。しかし、残念ながら昨今の強すぎる過熱感と大きな資本の乱れ飛ぶICO業界では、逆にこうした機会はスポイルされていく可能性も高いのでは、とも感じている。

いずれにせよ、今後もしばらくはICO分野で様々なニュースが飛び交うことだろう。大きな出資や煌びやかな謳い文句が飛び交う場面も容易に想像できる。それが悪いこととは言わない。しかし、そんな状況だからこそ、改めて地道に、一つ一つのサービスを吟味し、精査する癖を持って見るのも良いのではないかと思う。

本日の長々としたこのコラムが、そうした習慣を身に着けようとする方の一助とならんことを祈りつつ、今後のICOの行く末を見守りたいと思う。


プロフィール

福寄 儀寛

福寄 儀寛

Norihiro Fukuyori

株式会社イー・ソリッド 代表取締役

2002年東京大学法学部卒業。在学中1999年よりFX投資を始め、現在も国内有数の大口個人投資家としてトレーダーとしては現役。一方で個人投資家の投資環境改善と技術啓蒙のための講演活動にも従事しており、日本国内の様々な金融事業の発展に取引プラットフォーム開発や情報サイト提供という形で貢献。

2007年以降サイバーエージェントFXの取引インターフェース、情報配信責任者として貢献した後、フォーランドフォレックス社(その後のFXCM社)における事業設計や、国内金融アプリケーション開発のリーディングカンパニーであるモバイルインターネットテクノロジー社での新規事業開発に従事。
2015年には上場企業の運営する国内初のビットコイン事業として「J-Bits」をJトラストフィンテックにて創立。同時に、国内最大規模の仮想通貨情報サイト「コインポータル」も運営。

2017年3月に全ての投資サービス事業運営から身を引き、純粋な投資家活動を再開。1998年の外為法変更後の最も原始的な国内FX市況から現在に至るまで、国内外の投資プラットフォームに精通する識者として幅広く情報配信にも寄与する。

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