第12回「企業会計基準委員会、『資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)』について
個人の「税務」ばかりではなく、法人の「会計」処理についても、「当面」の扱い(案)が公表されました。
▼企業会計基準委員会、「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い(案)」の公表
内容を見る限り、当面、法人の税法でも時価に課税されることはなさそうなので安心しました。
まだ、案であり、当面の扱いではありますが、この会計処理等を基準に税務の方でも整備が進んでいくと考えられます。会計に関しては、平成30年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用を予定しています。
少し難しい話ですが、会計上の利益=税務上の利益(所得)になりません。
会計で「時価」と決まったからといって、必ずしも税務で「時価」とはならないということです。
会計は、債権者保護、投資家保護(今回の会計処理の当面の扱いは、投資家保護がメイン)などを目的にしています。
税法は、課税の公平、適正な税負担の調整など目的にしています。???何言ってんの?って思うかもしれませんが、一応そういうことになっています。
会計と税務で二重に帳簿を付けていくのではなく、会計で付けた帳簿を基に税務の利益(所得)を計算するので、税務は会計と密接な関係にあります。なので、会計処理の動向をつかむことで、今後の税務の扱いも見えてくる部分があります。
これまで、「個人」の話しはしても「法人」の話しはなかったなと・・・、今回は「法人」がメインです。
個人に関わってくる部分として、参考になりそうなところは特に・・・という感じでしたので、大半の方はスルーな内容になるかも知れません。
ということで、思うところをいくつか。
「活発な市場」が存在するかどうかによって、時価で計上するか簿価で計上するかを分けるそうです。
活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該仮想通貨の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する。
時価評価と呼ばれる部分ですね。
円換算額は、複数の取引所を使っていても、実績が大きい所の取引価格を参考に円換算(時価評価)することになります。
通常使用する自己の取引実績の最も大きい仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所における取引価格(取引価格がない場合には、仮想通貨取引所の気配値又は仮想通貨販売所が提示する価格)を用いることとする。
そして、「活発な市場」の判断基準は、一度に売買・換金できないほどに仮想通貨を大量に保有していたとしても、継続的に価格情報が提供される程度に、十分な数量及び頻度で取引が行われていれば、時価評価することになるそうです。
密かに大量に仮想通貨を購入していた上場企業があったとすれば、時価総額(利益)が急激に膨れる可能性があります(ないと思いますけど、株でもワンチャン・・・)。
実際は、そのような懸念はないと判断しての事でしょうけど、時価評価して、損益計算書に計上することが、投資家保護になるのかどうかは微妙な話だな…と、当面の取扱いということであれば、時価評価損益は注記や投資有価証券のように純資産計上にした方が良いと思います。
38. なお、審議の過程では、仮想通貨交換業者又は仮想通貨利用者が一度に売買・換金できないほどに仮想通貨を大量に保有している場合、市場価格に基づく価額により時価評価を行ったときには、時価を過大に評価する懸念があることから、取得原価で評価すべきではないかとの意見が聞かれた。
この点、第 8 項に記載のとおり、活発な市場の判断規準を、継続的に価格情報が提供される程度に仮想通貨取引所又は仮想通貨販売所において十分な数量及び頻度で取引が行われていることとしたため、仮想通貨に活発な市場が存在する場合には、当該仮想通貨の大量保有による市場価格への影響を考慮する必要性は高くないと判断した。
仮想通貨に関連するビジネスが初期段階にあり、現時点では今後の進展を予測することは難しいことや仮想通貨の私法上の位置づけが明らかではないことを踏まえ、当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めている。
「活発な市場」が存在するかどうかによって、判断が分かれてくることを考えれば、課税の公平を謳う税法からすれば、会計上の時価評価をもって、税務上も時価評価(含み益)を計上するという扱いはないのではないかと思います。
その他にも、現状、定めている会計処理の中に仮想通貨は含まれない、だから、新しい会計処理の基準を定めた、ということだったので、法人税法上も現在定めている「外貨建て取引」、「有価証券」の税務などには、含まれないので、時価評価に課税されることはないと考えられます。
経理担当者と監査法人が、活発な市場があるか否かをめぐって、PEPECASHは活発な市場があるから時価だ、いや、簿価だってやり合うのでしょうか。上場企業がPEPECASHを持っているのかという疑問はあるのですが、想像すると面白い光景です。
あと、気になるところとして、活発な市場が存在しない場合、取得価額で計上することになりますので、評価方法が必要になってきます。
「個人」の所得税の計算では、移動平均法が相当であり、継続適用を条件に総平均法も良いというのが評価方法でしたが、「法人」は、というと、特に具体的な計算方法については、記載されていませんでした。
「取得原価」とは、一定時点における同一の仮想通貨の取得価額(支払対価に手数料等の付随費用を加算した額)の合計額から、前回計算時点より当該一定時点までに売却した部分に一定の評価方法を適用して計算した売却原価を控除した価額をいう。
大部分は、期末に時価評価するから良いだろ的な発想でしょうか。かなり気になる部分だったのですが…。
「一定の評価方法を適用して」、なので、法人も移動平均法や総平均法などで計算すれば問題はありません。
最後に、決算書(損益計算書、貸借対照表)の表示についてです。
当該仮想通貨の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示する。
損益計算書上は、「仮想通貨売却損益」の勘定科目に、利益(損失)を純額(売却金額-売却原価)で記載することになります。
貸借対照表上は、「仮想通貨」ですね。内訳については、注記に記載します。
内訳を記載するということは、そのうち「有価証券報告書」に、BTC、MONA、PEPECASHなどと記載される日がくるということです。
12月に立て続けに仮想通貨の税務の扱い、会計の扱いと出てきた訳ですが、残念ながら、平成30年度税制改正には、仮想通貨の法律を定める情報はでてきていません(先日の金融庁の公表資料は、現行税制による取扱いであり、法律の定めるものではありません)。もうじき、翌年度以降の税制をどうするか、まとめた内容、税制改正大綱が公表されますが、仮想通貨に税制に関しては載ってないだろうな…。
そうなると、法律が決まるのは、まだまだ、先になるのかなと、気分が重くなります。簡単に申告できるようになって仮想通貨の税金から解放されたい。
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