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仮想通貨モラトリアム

仮想通貨取引市場の実態について

2017年5月後半、ビットコイン価格は大きく上下動した。BITPRESSのマーケット面のチャートにもあるように、前日の24日に30万円に達したビットコイン価格はその翌日25日に高値34万7,789円、安値23万2,000円と上下に11万5千円もの値幅の髭を伸ばしつつ大きく値を落として28万円台前半でクローズした。この11万円5千円という値幅はビットコインの現在価格:28万5千円を基準とした場合、変動率40%を超える非常に大きな値動きであり、為替の代表的な通貨ペアであるドル円に例えると、現在110円のドル円が1日に上下に45円程も動いた計算になる。これでは投資家にとってはひとたまりもない。しかも、この激しい上下動による長い髭はその後も数日間続いたのだ。


ビットコイン価格推移(2017/6/11時点でのチャート)


筆者は為替の世界でそれなりに長く戦ってきた現役のトレーダーとして、この値動きを目の当たりにして心底ゾッとした。そして同時に「本当にこれを一般の投資家に取引させて良いものなのだろうか、、、」と改めて悩ましくも感じた。何よりも恐ろしいと思ったのは、この値動きはトランプ大統領の当選が決まったときのように大きな政治情勢の変化や、スイスフランショックのときのように国家が政策的に介入を行ったり、といった類の特別な経済要因や情報の介在によるものではなく、本当に前触れなく大口の投機家のポジション整理などによっていきなりこれだけの動きが起こり得るのだ。

しかし、私はこの値動きに驚いた一方で「とうとう来たか」という気持ちの方が強かった。個人的にはもう少し下のレート、20万円~24万円のあたりでこの様な動きをするのではないかと思っていたため、「思ったよりも高い位置まで来たな」という思いも交えながら、この「中身の詰まっていない薄い板の中で過剰に高まった過熱感が放出された」典型的な波形を眺めていた。

■仮想通貨市場特有の「かさ増しされた取引量」の実態

私がこう感じた背景には以下の様なサイトを定常的に見てきた経験も大きく寄与している。
https://www.coinhills.com/market/exchange/



上記は、Coinhillsというサイトで直近24時間の仮想通貨の取引量を各取引所の名前と共にグラフ化しているサイトだ。数値の信憑性には幾分か不安が残るが、仮想通貨取扱事業者間では多くのプレイヤーがチェックしている、スタンダードなWebサイトの一つと言えると思う。このサイトの上位には日本国内のビットコイン業者の名前もちらほら散見されており、それなりの出来高を計上しているように見える。

しかし、これらの出来高は非常にうつろいやすく、「見せかけだけの出来高」であることも留意しておかなくてはならない。

私自身、ビットコイン取引事業者を運営していたこともあり、また、いくつかのビットコイン取引所のアカウントを実際に保有し取引をしていた経験から(取引事業者の中にはそのホームページ内で取引出来高や上位取引者の傾向を公開している業者も存在する。)誤解を恐れずに言及すれば、かなりの取引数量を計上している取引所であっても出来高の大半は上位のほんの数アカウントが叩き出しているのが実情だ。

FXにおいても同様の傾向は確かにある。特に黎明期においては顕著にその傾向が見られた。事業者の取引出来高全体の80%を上位10~20%程度の大口取引者層が回しているというのはFX業界ではごくごく普通に見られたケースではあるが、仮想通貨業界の場合はそれどころではない偏りが存在する。上位の数アカウントが事業者の取引出来高全体の半数以上、実際はおそらくもっと大きな数量を計上しているケースも多く存在すると思う。

しかも、「大口取引者が大きな建玉を振り回して出来高が伸びる」のではなく、「1取引当たりの平均取引量として0.5ビットコイン程度の非常に小さい取引を1日に1万回以上、機械的に回して出来高をかさ上げしている」そういう特殊な、システマティックなトレードを行っているアカウントも少なからず存在するのだ。しかもこれは私が知る限り1社に限ったことではないと思う。

当然ではあるが、そうしたアカウントがどれだけの取引数量を計上したとしても、市場の厚みとレートの安定性というものは確立されない。実際の青果市場に例えるならば、多くの市場参加者が実際にニンジンを(仮に一人あたりの本数が少なくとも)たくさんの人数で持ちこみ売買が成立している市場であれば市場に大口の注文が入っても、その需要に対して市場が供給を満たすことは可能なのだが、数人が数本のニンジンしか持ち込まず、それをお互いでグルグル回していたとしても、本当に大口の注文が入ったときにニンジンを供給することはできないのだ。

結果として、見せかけの取引量よりも中身の無いスカスカの売買市場が出来上がり、一部の大口の発注がはいると市場が壊れんばかりの値動きを見せる結果となる。

今の仮想通貨市場はまさしくこれに近い傾向がみられるのではないかと思う。しかも、この状況において現在、仮想通貨取引に注目し始めているのが日本国内のFXトレーダー層だ。ここ数年、日本国内の個人向けFX市場は世界有数の為替取引市場であり、そこで取引するトレーダーは時に、金融機関顔負けの大きな建玉を振り回している。その中のごく一部の資金がこの仮想通貨市場に流れ込んだだけで、容易にこの薄い市場は数万円単位でレートが動き、場合によっては破綻する可能性もあるのではないかと筆者は考えている。

■市場を取り巻く「悪循環」、そして新たなムーブメント

仮想通貨の一番の特性のひとつに、帰属主体・管理団体をもたないことがあげられるのだが、これもこの激しい値動きの収束を妨げる要因のひとつだ。金利設定や政治的な市場介入などで市場を統制する主体は仮想通貨業界には存在しない。もしくは、一部のヘッジファンドや取引事業者が意図的に大口の建玉を(自社の顧客のカバー用途だとしても)市場に流して市場を操作することを明確に規制する法律などは現在、整っているのだろうか。私はこれらの法整備もまだまだ緩い状況にあると思っている。

むしろ投資家は、この相場変動を喜々として受け止め、大きなボラティリティをチャンスと喜ぶ節も強いのではないだろうか。しかし当然のことながら、これだけ変動する仮想通貨での「決済」市場は育たない。1日に40%も変動する通貨を投資目的以外で保有し、決済の主軸として利用する利用者はそう多くはいなだろう。

この異常なまでのボラティリティの高さが「決済&送金手数料が安い」という仮想通貨のメリットを変動リスクの大きさで帳消しにしてしまっている感も否めない。

ここまで書くと、とてもネガティブな状況のように見えるが、仮想通貨取引市場における実情の一側面として受け止めておく必要があると思う。


しかし筆者は同時に、こうも考える。

決済や送金がまだ思うほど安定して伸びないのであれば「投資目的」の小口のプレイヤーを多く引き込むことである程度の安定性を引き出せばよいのではないか、と。

日本の個人投資家は本当に世界でも有数のFX嗜好を持っているのだ。仮想通貨に同様の嗜好を持ち、参入してくる投資家は一定数期待できるだろう。そして、何もそれは大口投資家に限らない。一定の小口~中堅の投資家層が仮想通貨市場に増え、短期から長期まで多種多様な売り注文と買い注文が錯綜するようになれば、それはそのまま市場の厚みへと繋がる。結果として市場は一定の安定性を得ることになるだろう。求められているのは「市場参加者の母数の増加」と「その取引の多様性」なのだ。

※筆者はそのためにも、仮想通貨取引により生じた損益がFXと同様に申告分離課税となることが非常に重要とも考えているが、それはまた別の機会に触れたいと思う。

■仮想通貨市場の安定に向けて

「鶏が先か、卵が先か」ではないが、前述のような環境がある程度満たされれば決済ビジネス市場も小口ながら育っていくだろう。それにより更なる価格安定性を備えていく可能性が出てくる。そうした良い循環が進んでいけば大口投資家の需要を供給する市場に徐々に近づいていくのではないかと思う。

幸いなことにこの4月以降、日本国内でもFX事業者の関連会社など、金融経験豊富な仮想通貨取扱業者が増えつつある。これは、かねてより切望されていた「安定した資本基盤」と「顧客サポートの充実」を高い水準で実現できるプレイヤーの出現と言える。これによってこれまで参加を躊躇していた小口投資家の纏まった数の誘致に繋がる可能性は高いのではないだろうか。世界最大規模のFX事業者を保有するGMOインターネット株式会社の参入もこの市場にとっては大きな追い風になる可能性がある。

この仮想通貨市場に渦巻いていた多くのネガティブ要素を打ち消すだけの良い材料は現在、着実に増えつつあるのだ。

そしてだからこそ、事業者もその利用者も、仮想通貨に携わる全てのプレイヤーには少しだけ落ち着いてみて欲しい。しっかりとした事業主体のもと、より多くの市場参加者が行き届いたカスタマーサポートと共に大小さまざまな注文を繰り広げる、そんな地盤が整うまであとほんの少しというところまで来ているのだ。

ボラティリティの高い相場や新しい仮想通貨の出現に色めき立つのではなく、この市場の成長そのものを楽しみつつ、投資家にとっても、市場そのものにとっても、リスクの少ない形でより多くの市場参加者に実際に仮想通貨の世界に触れてみて欲しい。

そういう参加者の歩みの一歩一歩が、本当の意味での「金融としての」仮想通貨市場の醸成につながるのではないかと私は考えている。

新しい市場に過熱感はつきものだ。投資家の射幸心を煽りたい仮想通貨事業者の気持ちも正直なところ解らなくもない。しかし、願わくば、こうした投資家に対する危機意識の醸成と啓蒙活動は「金融意識を保持した仮想通貨事業者(と、それらからなる自主規制団体)」によって、内側から成されていくことを切に願う。


プロフィール

福寄 儀寛

福寄 儀寛

Norihiro Fukuyori

株式会社イー・ソリッド 代表取締役

2002年東京大学法学部卒業。在学中1999年よりFX投資を始め、現在も国内有数の大口個人投資家としてトレーダーとしては現役。一方で個人投資家の投資環境改善と技術啓蒙のための講演活動にも従事しており、日本国内の様々な金融事業の発展に取引プラットフォーム開発や情報サイト提供という形で貢献。

2007年以降サイバーエージェントFXの取引インターフェース、情報配信責任者として貢献した後、フォーランドフォレックス社(その後のFXCM社)における事業設計や、国内金融アプリケーション開発のリーディングカンパニーであるモバイルインターネットテクノロジー社での新規事業開発に従事。
2015年には上場企業の運営する国内初のビットコイン事業として「J-Bits」をJトラストフィンテックにて創立。同時に、国内最大規模の仮想通貨情報サイト「コインポータル」も運営。

2017年3月に全ての投資サービス事業運営から身を引き、純粋な投資家活動を再開。1998年の外為法変更後の最も原始的な国内FX市況から現在に至るまで、国内外の投資プラットフォームに精通する識者として幅広く情報配信にも寄与する。

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