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仮想通貨の「理想」と「現実」

2017年5月9日、ビットコイン価格が日本国内の取引所で21万円の高値をつけた。これはちょうど半年前、世の中がトランプ大統領の選挙戦で沸いていた11月9日の価格、7万5千円からすると3倍近くにも達しようかという高値である。2016年末にかけてビットコインの持つ構造上の問題:スケーラビリティ問題や中国での取引所規制が取り沙汰される中、そんなものどこ吹く風と言わんばかりの国内外の投資家による仮想通貨にかける期待値の高さをこの価格は反映しているといえる。



しかしその一方で、仮想通貨の実態や、仮想通貨で何ができるか、何がリスクかといった本質についてはいまだに殆どの投資家は把握していない状況でもある。投資家だけでなく業界関係者であってもいまだに模索を続けている状況なのだ。

私はいち投資家として、また、FXとビットコイン事業の双方を黎明期から運営してきた経験者として、この状況に一抹の不安を感じている。そしてまた一方で、これだけ多くの人が注目している現況がとても嬉しくもある。

ビットコインとそれを取り巻く技術基盤であるブロックチェーンは間違いなく画期的な技術であり、この基盤を活かしていくつかの事業分野においては更なるIT化が加速するのは事実だろう。しかし、私はそれはいわゆる「金融分野」ではないのではないか、と
も考えている。なぜなら、金融とは価値そのものの具現化と流通によって成り立つものであり、そこには「信頼を担保する主体」が必須であろうと考えるからだ。こと「通貨」に関してはその役目は国が担ってきた。

これに対し、ビットコインに代表される一般的な仮想通貨はその特性として「管理主体を持たない、何処にも帰属しない」ことが大きな特性である。これは言い換えると、信頼性の担保が何処にも成されないということになってしまうのだ。現状では、なんとか担保しうる存在としては、窓口となる取引所や仮想通貨交換業者の信頼性で担保するのが関の山なのではないだろうか。しかし、いうまでもなく、それでは担保には足りない。4月より施工された「仮想通貨交換業者に関する内閣府令」においては最低資本金はたったの一千万円であるし、そもそも仮想とはいえ一定範囲に流通している「通貨」の基盤が揺らいだとき、民間企業でその信頼性を担保するのはおおよそ不可能なことに思う。


この点についてはここではあまり深くは触れないが、仮想通貨の最も根源的な特徴ひとつとっても、それが利用される場面とシステムの特性、そして規制する法律等に様々なミスマッチが存在しているのが見て取れる。加えて、現状の仮想通貨交換業者は「金融事業者」として見ると情報管理、法務コンプライアンス等の観点からまだまだ稚拙なプレイヤーが数多いのが実情だ。ライトなITサービス程度の感覚で運営に取り組んでいる事業者もまだまだ存在するように思う。

しかし、だからといってこの画期的なシステムが有益ではないかというと、決してそうではない。ブロックチェーンの持つエコシステムはIOTをはじめとする多くのビジネスにおいて大きな可能性を有しており、これからブラッシュアップされるべき技術だ。

私がここで触れたいのは、これらの技術的な期待値と「仮想通貨そのものの価値」に対する期待値は切り分けて考えられるべきではないか、ということだ。もっというとビットコインはブロックチェーンという技術を使って「たまたま作ってみた試作品」という風にイメージしたほうが個人的にはしっくりくる。

この技術が今後様々な分野に転用されて伸びていくとしても、ビットコインそのもののプレゼンスが高まるかというと、必ずしもそうではないと感じている。むしろ、これだけの値動き、変動性があると実サービスと連携させる機構としては非常に使いづらい。
詳細は次回以降の本コラムで触れるが、現状のビットコインはあまりに空虚で投機的な側面を持っていると感じている。

良くも悪くも、現状は「ブロックチェーン」や「フィンテック」という単語ばかり一人歩きしてしまっていて、それに感化された投資家の投資マネーがビットコイン価格を押し上げているように私には見えてしまうのだ。

しかし、それはある種しょうがないことなのかもしれない。これだけ自由奔放な概念であった仮想通貨が実サービスとして、国境を越えて様々な形で「一般消費者」という概念と向き合おうとしているのだ。

このコラム名にもあるように仮想通貨は今現在、まさしく「モラトリアム」的な期間を過ごしているのだ。期待値ばかり高まり、その内情と「具体的なサービスへの転用」を見過ごされてきたこの革新的な技術が、いかに今後の世の中に有益な存在となるのか、我々ひとりひとりが正しい知識と危機意識をもって見守ることこそが、仮想通貨の正しい「巣立ち」を導くことにつながるのではないだろうか。

このコラムは拙いながらも、その一助となればと考えて寄稿をさせていただくことを決めた。私自身、この革新的技術に期待する投資家の一人であり、ブロックチェーン技術の未来を信じる一員でもある。

そうした視点から今後も正しい知識を伝えていくと共に、時に警鐘を鳴らし続ける存在でありたいと思っている。


プロフィール

福寄 儀寛

福寄 儀寛

Norihiro Fukuyori

株式会社イー・ソリッド 代表取締役

2002年東京大学法学部卒業。在学中1999年よりFX投資を始め、現在も国内有数の大口個人投資家としてトレーダーとしては現役。一方で個人投資家の投資環境改善と技術啓蒙のための講演活動にも従事しており、日本国内の様々な金融事業の発展に取引プラットフォーム開発や情報サイト提供という形で貢献。

2007年以降サイバーエージェントFXの取引インターフェース、情報配信責任者として貢献した後、フォーランドフォレックス社(その後のFXCM社)における事業設計や、国内金融アプリケーション開発のリーディングカンパニーであるモバイルインターネットテクノロジー社での新規事業開発に従事。
2015年には上場企業の運営する国内初のビットコイン事業として「J-Bits」をJトラストフィンテックにて創立。同時に、国内最大規模の仮想通貨情報サイト「コインポータル」も運営。

2017年3月に全ての投資サービス事業運営から身を引き、純粋な投資家活動を再開。1998年の外為法変更後の最も原始的な国内FX市況から現在に至るまで、国内外の投資プラットフォームに精通する識者として幅広く情報配信にも寄与する。

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